その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は日本経済新聞社 編の『 半導体覇権 国家に翻弄される巨大企業 』です。
【はじめに】
小さな石を巡って国家が火花を散らしている。
石とは半導体。主成分は石の構成元素でもあるケイ素(Si=シリコン)のため、技術者は半導体チップを「石」と呼ぶ。指に乗るほどに小さなチップが覇権競争の鍵を握る。
スマートフォンから自動車、ミサイルに至るまで半導体の性能があらゆる工業製品の技術革新の中核を担うためだ。現代の情報社会も半導体なしには動かない。世界的な株高をけん引する人工知能(AI)技術もまた半導体の性能向上がなければ実現しなかった。
その重要性を世界が再認識したのが、新型コロナウイルス禍だった。アジアを中心とした半導体供給網(サプライチェーン)の1カ所に綻びが生じただけで、世界の生産活動が止まるという現実を目の当たりにした。各国・地域は域内に半導体サプライチェーンを築こうと、数兆円単位の補助金を用意して半導体産業の育成に動き出した。
米国は同盟国の半導体企業に呼びかける形で、対立を深める中国の半導体産業を抑え込む。一方の中国は包囲網をくぐり抜ける形で技術を吸収しながら自国産業の育成を急ぐ。これほど国家が危機感をむき出しにぶつかり合う産業は他にない。
米中の国家対立は激しさを増すものの、先端半導体を開発・生産するのは民間の半導体企業だ。株主のために利益を追求する存在のはずの民間企業が、国際政治の対立に巻き込まれる。そして企業間の技術競争が国家間競争の色を帯びる。
2025年に誕生した第2次トランプ米政権は同盟国企業にも「米国第一」を前提とした要求を強めており、競争構図は一層複雑になった。株式市場は半導体産業への過度な期待と失望によって乱高下を繰り返す。実業界でも株式市場でも、そして政治の世界においても半導体産業への関心は高まり続けている。
日本経済新聞社は半導体産業の集積地に取材拠点を置く。シリコンバレーと台北、ソウル、北京、東京に半導体産業の取材経験を持つ記者を配置する。インテルやエヌビディア、TSMC、サムスン電子といった「半導体の巨人」を日々取材して半導体産業の記事を発信している。
日経新聞の取材の蓄積を書籍にまとめたのが本書だ。もはや単一の産業分野ではなく、国際政治や株式市場を揺らす存在となった半導体産業の攻防を詳述した。
企画・編集 細川幸太郎
シリコンバレー=清水孝輔
台北=龍元秀明
ソウル=松浦奈美
北京=多部田俊輔
東京=向野崚
【目次】





