その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は田邉信之さんの『 基礎から学ぶ 不動産投資・証券化ビジネス 』です。
【はじめに】
本書は、2004年に初版が刊行された「基礎から学ぶ不動産投資ビジネス」(日経BP刊)の全面改訂版です。初版から「一冊で不動産投資・証券化ビジネスのポイントが分かる」、「分かりやすい」と、多くの読者の皆様から温かいご支持をいただき、ロングセラーとして多くの版を重ねることができました。
それから20年あまりの間に、不動産投資・証券化ビジネスは飛躍的な成長を遂げ、市場規模は70兆円を超えるまでになりました。併せて、投資対象が拡大し、オフィスビルや住宅、商業施設だけでなく、物流施設、ホテル、ヘルスケア施設(高齢者向け住宅、病院など)、データセンター、底地へと広がっています。不動産と金融の融合のあり方も進化して、不動産証券化商品は金融商品の一つとして定着し、個人を含む投資家層も広がってきています。
さらに、多くの企業や事業にとって、不動産投資・証券化の考え方を取り入れることが経営課題のソリューションの一つとなってきています。最近では、本業とも関連が深い建設、電鉄、電力などの各社やそのグループ会社などが、新たに不動産投資・証券化ビジネスに参入してきました。
そうした業種以外でも、事業会社が保有資産の効率性を高めるため、あるいは新たな事業の投資資金を確保するために、不動産の流動化(売却、証券化など)や有効活用(再開発、コンバージョンなど)、資産回転型ビジネスなどに取り組む動きが活発化しています。ホテルやヘルスケア、物流といった事業のように、不動産投資・賃貸事業を通じて、多様な業界や企業とネットワークを構築しつつ、自らの事業を多角化するケースも見られます。
このように不動産投資・証券化ビジネスは、不動産投資を通じて直接的に利益を上げるだけでなく、企業の経営戦略や財務戦略としても活用されるようになってきています。かつては一部の専門家を中心とする領域だった不動産証券化は、いまや多くのビジネスパーソンが知っておくべき常識となりつつあります。不動産証券化は「不動産」と「金融」の融合領域として成長しつつ、さらに「アセットファイナンス」(不動産などの収益力を背景とする資金調達)と「コーポレートファイナンス」(企業の信用力を背景とする資金調達)の連携を促進する機能をも担うようになったといえるでしょう。新たな時代に向けて不動産投資・証券化ビジネスは進化を続けているのです。
こうしたビジネス環境の変化を踏まえ、本書の全面改訂に際しては、データを全面的に刷新するとともに、新たな時代に向けて求められる知識や分析の視点、用語などを、できるだけ取り入れることにしました。本書の主な特徴は、次の3点です。
一つ目は、ボリュームを抑えたこの書籍一冊で、不動産投資・証券化ビジネスの全体像を体系的に概観し、実務で必要になるポイントを押さえることができるということです。本書では、不動産市場や金融市場の見方から、投資判断のための理論や投資指標、証券化の仕組み、代表的な投資戦略まで、幅広い領域を取り上げています。さらに、読者が読み進めやすいように、80点超の図表を用いるとともに、各章の末尾に「ポイント整理」の欄を設けました。
二つ目は、過去30年にわたる不動産投資・証券化ビジネスの成長の中で、市場に蓄積された数多くの知見を、実務に役立つように整理していることです。できるだけ中長期的なデータを用いて市場分析を行うとともに、その間に市場で起こった変化や出来事を、理論や実務に関連付けて説明しています。
三つ目は、新たな時代の潮流を反映した書籍構成としていることです。不動産と金融の融合のさらなる進展を踏まえ、「不動産投資にかかわる金融市場の読み方」、「押さえておきたい金融商品取引法」の章を新たに設けました。加えて、「重み増すESG投資、サステナブルファイナンス」、「不動産証券化のデジタル市場」といった、市場の将来に影響を及ぼす動きも取り上げています。今後のビジネスに役立つと考えられる、ファイナンスや金融の理論も紹介してあります。
本書は、この分野を初めて学ぶ方が理解しやすいように平易な表現で書かれていますが、既に業界で実務に携わっている方にとっても、進化する不動産投資・証券化ビジネスの知識の整理やアップデートに役立つものと思います。ただし、前述したように、本書はコンパクトなボリュームで多岐にわたるポイントを概観できることを目指しており、さらに深い知識を得たい方は、それぞれの分野の専門書を読むことをお勧めするとともに、「不動産証券化協会認定マスター」の資格取得に向けて学習することを推奨します。
本書が、読者の方々の不動産投資・証券化ビジネスに、ひいては市場の発展に少しでもお役に立てれば幸いです。
なお、本書の意見に関する記述については、筆者の個人的な見解であり、所属・関連する組織とは何ら関係がありません。市場の見方などに関しても、多様な見解がありますので、ここでは一つの考え方が示されていると受け止めていただくようお願いします。
また、本書では分かりやすさを重視したため、用語の説明などに関しては必ずしも厳密な定義を用いていないこと、一部の例外事項は説明から割愛したことをお断りしておきます。
2025年11月
田邉 信之
【目次】


