その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は大野栄一さんの『 できるリーダーが「1人のとき」にやっていること マネジメントの結果は「部下と接する前」に決まっている 』です。

【はじめに】

「いいリーダー」の条件とは?

 突然ですが、質問です。「リーダーに向いている人」「リーダーにふさわしい人」はどういう人だと思いますか?

 周囲からの信頼の厚い人? 仕事ができる人? カリスマ性のある人? 組織への忠誠心が強い人? 業績がいい人? 頭の回転が速い人? 俯瞰(ふかん)的にものごとを捉えられる人? 時代の変化に柔軟に対応できる人? 人によって、環境によって、さまざまな条件を思い浮かべることでしょう。

 では、何かひとつの条件を思い浮かべたとして、その条件さえ満たせば、「いいリーダー」といえるでしょうか? リーダーの本質とは何でしょう? おそらく、多くの方が頭に浮かべた条件は、それを満たしただけでは、「いいリーダー」とは言えないと思います。

 周囲からの信頼が厚く人間的に優れていたとしても、能力面でリーダーにふさわしいとは限りません。
 組織への忠誠心が高くて仕事ができて個人の業績がよくても、集団を率いる力が備わっていないことが多いものです。
 カリスマ性があるリーダーの下で組織が空中分解したり、不正が横行したりということも耳にします。俯瞰的な視点を持ち、時代の変化への対応が柔軟でも、その能力だけがあればいいという話ではないはずです。

 そう、多くの人は「いいリーダー」を求め、そして多くの人が「優れたリーダー」になろうとしているにもかかわらず、いいリーダーシップを発揮できない人が多いのは、「いいリーダー」像が誰にとっても不明瞭だからなのです。

リーダーシップとは「周囲の人の人生をエキサイトメントにする」力

 では、本書で目指そうとするリーダーとは、どういう存在でしょうか。
 私はこれまで、金融業界やコンサルティング業界、教育業界などで、さまざまな形でマネジメントに携わってきました。そうした経験と「すごい会議®(1970年代にハワード・ゴールドマンによって、コーチングをベースに開発された経営会議等含めた組織マネジメントの方法論)」の大橋禅太郎氏との出会いを通して、優れたリーダーは共通して、組織におけるいくつかの役割を果たしていることがわかりました。その共通する役割とは、

 「部下やメンバーが自らのひらめきを大切に育める場をつくること」
 「関わる人の人生をエキサイトメントにするような影響を与えること」

 です。この2つの役割に関しては、どんな業界でも、どんな状況のチームでも普遍的です。そして、こうした役割をリーダーが果たしている組織では、関わる人みんなが、

 「何より幸運だったのは、あのリーダー(上司)に出会えたこと」
 「ターニングポイントは、間違いなくあのリーダーのもとで働けたことです」

 という感謝の念を抱いていました。関わった皆から出会いそのものを感謝される──この「祝福(しゅくふく)的なあり方」こそが「リーダーにふさわしい人」の条件だと、私は考えています。リーダーに求められているのは、指示や結果を出すこと以上に、「祝福的であること」なのです。

 本書では、祝福的な存在となるためのリーダーの本質的な力に注目していきます。

なぜリーダーこそ「1人のとき」が大事なのか

 さて、遠回りになりましたが、ようやくここで、私がなぜ、リーダーシップの書籍として「1人のとき」の過ごし方をお伝えしていくかということの、説明の下地が整いました。

 「関わった人みんなから、(結果的に)感謝されるリーダーになる」というときの祝福的なリーダーは、
 「部下の前で、こう振る舞えばなれる」
 「チームメンバーにはこう接しなさい」
 というような、表面的な心がけや努力でなれるものではありません。

 事業が成長している局面では必要な投資が、成熟しきった局面では寿命の収縮につながるように、ある文脈ではよい接し方が、別の文脈では最悪の接し方になるということはよくある話です。
 同様に、リーダーシップに関するノウハウ書に書かれていることをそのまま実践したとしても、「いいリーダー」の入り口に立つことさえ難しいものです。
 それは、いいリーダー、つまり祝福的なリーダーに続く道が、「部下への“正しい”接し方」や「リーダーとして取るべき行動や考え方」といった一般論の延長線上にはないから、そして、本当の学びが、他人や本から教わって得られるものではないからです。学びとは、「自分が自分に教える」ことでようやく得られるものなのです。

(イラスト:村林タカノブ)
(イラスト:村林タカノブ)
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 ちまたに溢(あふ)れる「部下への“正しい”接し方」や「リーダーとして取るべき行動や考え方」は、そのほとんどが場当たり的で、その場しのぎに過ぎません。
 そうした小手先のスキルと一度距離をとって、いいリーダーになるために本当に必要なことを自分で自分に教えるためには、「1人の時間」が重要です。「1人の時間」を通して、本書で紹介していく4つの力(思考自由度・問いの力・喚起力・構造デザイン力)を磨き、高めていくことが、あなた自身のリーダーシップの能力を育て、周囲の人々の人生をエキサイトメントにするためには不可欠です。

 その意味では、部下と接する前に、あなたのマネジメントの結果が決まっているといっても過言ではありません。リーダーに本当に必要な力は、「1人の時間」によって育まれるのです。

「本質に働きかける力」を得るために

 また、リーダーの「1人の時間」に焦点を合わせることには、もうひとつ、重要な意味があります。それは、組織やチーム、あるいは部下などを変えたい場合に、その対象に直接働きかけようとしても、その本質にまで影響を与えることはできないということです。

 たとえば目の前にリンゴジュースがあるとします。もっとおいしいリンゴジュースをつくりたい場合に働きかけるのは、目の前のリンゴジュースそのものではありません。ジュースを成り立たせている「リンゴ」や「ミキサー」、「人」に働きかけてはじめて、リンゴジュースをもっとおいしくすることができるでしょう。ジュースを成り立たせているのは、ジュースそのものではありません。
 同様に、「売上」を改善したい場合にも、アプローチすべきは「売上」を成り立たせているもの──「お客様の数」と「取引単価」と「取引頻度」であり、さらには、商品やサービス、物流、工場……などに働きかけてはじめて実現可能です。

 これをもう少し広く捉え直すと、「ある状態」が成り立つにはそのものがあるだけでは不十分であり、そこに「ない」ものがあってはじめて成立しているといえます。「ある状態」を変えたいならば、そこに「ない」ものに働きかけることが重要です。
 組織やチーム、あるいは部下のパフォーマンスを変えたいならば、それを成り立たせている、そこには「ない」もの、すなわち「1人のとき」に焦点を合わせることが不可欠です。

 私たちはつい、目に見えるもの、そこにあるものを変えようとしてしまいます。しかし、それを成り立たせている「ない」ものに働きかけない限り、望む形に成立させることはできません。本書でお伝えするのは、「ない」ものに焦点を合わせるための力なのです。

1人の時間の過ごし方がリーダーシップの質を決める

 リーダーは、日々の忙しさの中で多くの課題に直面しています。

 たとえば、
 「チームメンバーとの意思疎通がうまくいかない。チーム内の連携が不足している」
 「リーダーとしての役割を十分に果たせていないと感じる」
 「業務を部下に任せられず、リーダー自身の負担が増大している」
 「成果を上げなければならないというプレッシャーが、精神的な負担になっている」
 「リーダーとしての経験を積む中で、自分の方向性に対する不安がある」
 「部下の成長をどのようにサポートすべきか悩んでいる」
 「自分なりのスタイルを模索する過程で迷いが生じている」
 「部下のやる気を引き出す方法がわからない」……。
 こうした悩みを解消するには、これまでの前提や、これまでの考え方や、これまでのやり方を再検討する必要があります。そのためにも、これから提案していく「1人の時間」の過ごし方は役立つでしょう。

 1人の時間は、リーダーとしての自己成長を促します。1人の時間を使いこなして、自分の感情や思考を深く見つめ直すことで、リーダーシップの質をさらに高めることができるのです。「自分自身と向き合う時間=1人の時間」を通して、日々の業務や部下との関わりの中でもたらされる以上の、さらなる成長がかなうでしょう。

 リーダーには、会社にいる時間やチームと接する時間以上に、1人で過ごす時間が大切です。
 本書では、1人の時間をどのように使えばリーダーシップの質を高められるのか、その具体的な方法を解説します。
 本書が悩めるリーダーの助力となれば、これほど嬉(うれ)しいことはありません。

大野栄一


【目次】

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