その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は長嶋修さんの『 2030年の不動産(日経プレミアシリーズ) 』です。

【はじめに】グレート・リセットにどう備えるか?

社会のシステムがダイナミックに変わるとき

 ここ数年で注目されるようになった「グレート・リセット」という言葉をご存じでしょうか。グレート・リセットは、より良い世界を実現するため、今の社会全体を構成するさまざまなシステムを刷新・再構築することを意味します。2021年の世界経済フォーラムのダボス会議(年次総会)でテーマに設定されたことから、話題を集めました。

 スケールが大きすぎて、ただの理想論のように思われるかもしれませんが、実際に世の中は、すでにグレート・リセットに向けて動き始めています。本書の主題ではないので詳細は割愛しますが、今は刷新に向けての過渡期にあり、近い将来、日本社会のシステムはダイナミックな変貌を遂げるでしょう。そのタイミングは、今から少し先の未来──2030年頃になると見ています。

 社会のシステムが変われば、私たちの暮らしや働き方も変わります。たとえば、公的年金制度や生活保護のシステムが廃止され、代わりにベーシックインカムのような制度が導入される可能性もあります。ベーシックインカムとは、国や自治体が全国民を対象に、最低限の生活を保障すべく定期的に一定額を給付する制度のこと。所得や資産、年齢とは関係なしに一定額を給付する点で、従来の社会保障とは異なっています。

 AI技術の革新やあらゆるシーンでのロボット化の推進などにより、労働力が減少してもある程度の生産力を維持するめどは立ちつつあります。そこにもしもベーシックインカムが導入されれば、私たちの働き方は必然的に変わっていくでしょう。

 まず、仕事に対する考え方が大きく変容するはずです。これまでの世の中は物質主義的で、人々はよく稼ぎ、旺盛に消費することに喜びを見出してきたわけですが、今後はより精神的な充足を重視する傾向が強まりそうです。

 ミニマリストや、定住する家を持たないアドレスホッパーが注目されたように、“所有しないこと”に価値を見出す風潮は、すでに高まりつつあります。また、このところ続いている“縄文時代ブーム”は、単にユーモラスな意匠を凝らされた土器や土偶を愛で、遺跡めぐりを楽しむ人が増えたというだけでなく、現代人の行きすぎた物質主義への疲弊を表しているのかもしれません。

「住むなら日本が一番だ」の声はますます高まる

 2030年頃には、世界のパワーバランスも目に見えて変化しているでしょう。これまでは米国が世界を牽引する経済大国として君臨し、米ドルは世界でもっとも強い通貨として影響力を発揮してきました。米国のほかには、欧州の主要国などのいわゆる“西側諸国”が世界のリーダー役として立ち振る舞ってきましたが、今後は様相が一変するはずです。

 具体的には、アジアの時代がやってきます。アジアは世界でもっとも多くの人口を擁する地域であり、成長軌道に乗っている新興国がいくつもあります。そんなアジアを代表する国の一つである日本は、地政学的に良いポジションを獲得していると言えます。

 アジアの大国である中国、それにインドは、有力新興国で構成されるBRICS(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカの頭文字)の一員です。2024年から、このBRICSにイラン、アラブ首長国連邦(UAE)、エチオピア、エジプトなどが加わり、インドネシアもそれに続きました。西側諸国とは一線を画すBRICSの拡大は、これまでと異なる新たな世界の秩序の形成を予感させます。

 名目GDP(国内総生産)でドイツに抜かれ、2025年にはインドにも抜かれる見通しの日本は、この先シュリンク(収縮)していくばかりの落日の国だと悲観されがちです。しかし、そんなふうに嘆く必要はまったくありません。隣の芝は青く見えるもので、現段階では欧米の先進国などがまぶしく見えることもあるでしょうが、彼らは彼らで、内側に多くの問題を抱えています。

 その最たるものが移民問題です。米国も欧州の主要国も移民問題には頭を抱え、それに端を発する都市の治安の悪化に悩まされています。海外に住みたいという人は多いですが、私が実際に欧米のさまざまな大都市を訪れたり、訪れた人の話を聞いたり、ニュースで見聞きしたりしたところでは、都市の荒廃が進んでいる印象を強めています。

 欧米各国は当面の間、この問題に対応するために“内向き”にならざるを得ないでしょう。日本も外国人材の受け入れを拡大する方針なので、決して他人事ではありませんが、歴史も地理的な環境も異なるため、不法移民が押し寄せて荒廃する確率は低そうです。

 そのように考えていくと、日本はまだまだ治安が守られ、インフラが隅々まで整備されており、街も基本的には清潔です。食べ物は安くておいしい。言論や表現への過度な統制も(少なくとも見た目上は)ない。結局、「住むなら日本が一番だ」と日本を再評価する声は、この先どんどん高まっていくでしょう。日本の未来は明るい、と私は考えています。

一生に一度の大きな買い物で後悔しないために

 このような大前提を踏まえて、本書では「日本における2030年以降の不動産」をテーマに、マイホームを買ったり不動産投資をしたりするうえで知っておくべきことを紹介していきます。

 繰り返しになりますが、2030年は今とは大きく環境が変わる見通しです。ある日を境にすべてが180度転換するわけではありませんが、現状の過渡期のゴタゴタが落ち着き、日本に関してはより良い世の中になっているものと予想します。

 そんな中で不動産に関する“常識”も変わります。本書の内容を知っておけば、ゲームのルールが変わっているのに気づかず、後になって悔やむリスクは減らせるでしょう。

 昔からよく言われるように、不動産は一生の中でも特に大きな買い物であり、それは今後も同じです。大きな買い物に悔いが残らないよう、必要な知識を身に付ける一助に本書がなれば幸いです。


【目次】

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