その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は野村総合研究所 システムコンサルティング事業本部(著)の『 図解CIOハンドブック 改訂6版 』です。

【はじめに】

 世界経済は、パンデミックから回復しつつも、地政学リスクやインフレ、サプライチェーン問題などにより、依然として不透明な状況にある。こうした中で、企業活動のデジタル化はあらゆる産業で加速し、企業の競争力を左右する決定的な要素となっている。生成AIや、あらゆるものがインターネットにつながるIoT技術の進化、クラウドネイティブと呼ばれる、クラウドを前提としたアプリケーション開発やアジャイルな開発手法の成熟は、ビジネスのあり方や働き方を大きく変えており、企業はこれらの技術や手法を効果的に活用し、業務変革や、新たな事業機会を創出していく必要がある。

 一方、日本企業の多くは「2025年の崖」という問題に直面している。これは、古くて複雑な社内システムの維持・管理に多大なコストと人手がかかり、新しいデジタル技術を導入する余力が失われつつある問題を含んでいる。企業が競争力を維持するためには、レガシーシステムの刷新と、新しい技術の導入をバランスよく進めていく必要がある。

 企業のグローバル化が進む中、海外拠点との円滑なシステム連携、各国の法律や規制への対応、世界規模でのデータ管理など、国際的な視点でのIT運営が求められている。例えば、欧州では個人情報保護に関する厳格な法律(GDPR)が施行されており、これに違反すると多額の制裁金が科されるため、グローバルに事業を展開する企業にとって、適切な対応は避けて通れない課題となっている。CIOは、各国・地域の文化や価値観の違いを理解し、誰もが安心して利用できるデジタル環境の整備を進めていかなければならない。

 情報セキュリティの面では、年々深刻化するサイバー攻撃への対応が急務となっている。企業の取引先を狙った攻撃や、身代金を要求するランサムウェア、AIを悪用した新たな脅威など、攻撃手法は巧妙化している。また、社内からの情報漏えいリスクも依然として高く、CIOは、社内外の脅威から企業を守るために、適切な対策を講じる必要がある。

 さらに、デジタル技術の活用には倫理的な配慮も欠かせない。AIによる意図しない差別や、顔認証技術によるプライバシーの侵害、データの不正利用など、新しい技術がもたらす社会的な課題にも目を向ける必要がある。

 デジタル化は環境問題とも密接に関係している。データセンターの電力消費量の増加など、環境への負荷が年々深刻化している一方で、AIを活用したエネルギー管理システムの導入や、環境に配慮したデータセンターの利用など、環境負荷を低減する取り組みも進んでいる。CIOは、このような課題に向き合い、環境に配慮しながらデジタル化を推進していく必要がある。

 CIOの役割はますます重要性を増している。経営環境の急速な変化、技術の進歩、高度化するサイバー攻撃、環境問題への対応、そして倫理的な課題の解決など、CIOは幅広い知識と判断力を求められている。デジタル技術を企業の持続的な成長につなげるため、CIOには経営者としての視点と、技術の本質を見極める力が不可欠となっている。

 本書は、CIOを中心とした、企業でITやデジタルに携わる方々に対して、企業がITやデジタル技術を活用し、競争力を高めていく上で必要となるマネジメント手法や実践的なノウハウを体系的に解説した実務書である。本書は、野村総合研究所(NRI)が2000年2月に初版を発刊し、その後改訂を重ね、今回で第6版となった。今回の改訂版では、先に述べたような、第5版を出版した2018年以降の環境変化を取りこみつつ、普遍的に求められる事項については第5版の内容を踏襲している。

 第1部では、初版からの主要テーマである「ITマネジメント」を取り上げている。ITマネジメントとは、IT・デジタル技術やデータ活用により企業の競争力を高めていく上で必要となるマネジメント全般を指す。企業の競争力を強化するためのIT・デジタルやデータの活用方針となるビジョンの策定とそれを実現するための戦略の策定、さらに、戦略実行に向けてITに関わるヒト、モノ、カネ、リスク、およびデータを統括する一連のマネジメントを対象とする。ITマネジメントは、利害関係者が経営層、各事業部門、IT子会社、パートナー企業と広範囲にわたる点と、進化が早く、目に見えないものを対象とする点で、特有の難しさがある。COBIT、ITIL®といったIT管理の枠組みやISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)など、体系化されたマネジメント手法は多くの企業で実践されている。そのため「従来の情報システム」に関する企業のITマネジメントは一定のレベルにまで成熟している。一方、AIやデータを活用し、顧客接点でアジャイルに変化を続けるような「デジタル」に対するマネジメントは、まだ発展途上である。従来の情報システムとデジタルに求められるマネジメントの違いを踏まえ、その両方が必要となるという観点で前版の内容を大幅に改訂した。

 第2部では「ITケイパビリティ」をテーマとして取り上げている。これまでCIOやIT部門が積み上げてきた、社内の基幹システムの開発・運用業務を対象とした、品質・コスト・納期・リスクを適切にコントロールするためのケイパビリティ(能力)は引き続き重要である。一方、先に述べた技術の進歩に追随するとともに、不確実な状況の中で試行錯誤や試行を通じてシステム開発を進めるケイパビリティや、「機能」ではなく「事業価値」を生み出すためのケイパビリティもより重要性を増している。例えば、システム利用者の体験価値をデザインする能力や、データ分析から事業価値を生み出す能力などが挙げられる。また、レガシーシステムへの対応も含め、従来のシステム全体構造を刷新していく際の考え方についても言及している。さらには、一部のシステム開発がIT部門から事業部門にシフトしていく状況で求められるケイパビリティについても取り上げた。

 第3部は、情報セキュリティを中心としたIT関連リスクの飛躍的な高まりや、ITリスク管理対象が自社にとどまらずサプライチェーン全体に拡大していることなどを踏まえ、「ITリスク管理」を独立したテーマとしている。ITリスクの発現が企業の継続を左右するような事態に発展する事件も実際に起きており、重要な経営リスクのひとつとして捉える必要がある。基本的な情報セキュリティに関する対応に加え、ITリスクの内容がどのように変化・拡大しているのか、これらに対してどう向き合うべきなのかについても取り上げている。

 本書では、前版までと同様に、全般を通じて「わかりやすさ」と「使いやすさ」にこだわった。一般的でないカタカナ語や英字の略語は極力使用せず、平易な日本語で説明するように細心の注意を払っている。技術的な内容も経営や業務との関わりから要点を押さえるようにしている。本書は見開きの2ページで、説明と図表がセットになって1つの項目が完結するように編集し、日々の実務の中で疑問に思った項目を参照し、要点を把握できるようにしている。図表は考え方の全体像や枠組みを示すものであったり、文章の内容を補完するものであったりするが、どの図表も実際のコンサルティングの現場で作成・活用し、洗練させたものである。

 本書CIOハンドブックの初版から四半世紀近くが経過した。この間、CIOやIT部門に求められる役割や責任は拡大し続けている。組織によってはCDO(Chief Digital Officer)という形でその役割が分化する、事業部門側に一部の役割が移管される状況も増えつつある。本書には、こういったCDOやデジタル部門、事業部門でデジタル化を担う方々にとって必要な知識も網羅的に含まれている。経験を重ねたCIOやIT部門の方々にとっては既知の内容も多いと思われるが、ITやデジタル技術、データを活用して価値を生みだすまでの過程で必要となる基礎知識としてお読みいただきたい。本書がCIOやデジタル化を推進するすべての関係者にとって、執務の参考となれば幸いである。

2025年2月

株式会社 野村総合研究所
システムコンサルティング事業本部 シニアチーフコンサルタント
松延 智彦


【目次】

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2025年3月14日(金)11時~(事前登録必要)
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