その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は照山裕子さんの 『“食べる力”を落とさない!新しい「歯」のトリセツ』 です。

【はじめに】

歯を知ることで、「食べる力」を保つ

 ――「若いころから、もっとしっかり歯のことを考えるべきでした……

 診療の現場で、口の悩みと向き合う患者さんにいわれて、悲しい言葉のひとつです。

 いまや、毎日歯を磨かない方は皆無というほど、歯のケアは根付いています。その一方で、自分の口の中の状況を把握しないまま、不十分なケアを続け、知らず知らずのうちに虫歯や歯周病といったトラブルが進行しているという方がいらっしゃいます。

 もちろん防ぎきれない歯の病気もあります。ですが、知識不足、目的に合わないケアが原因で起こる歯の病気も多いのが現状です。歯科検診も含めて、これまで何万という方の口の中を見てきましたが、体質や肌の色が違うのと同様に、歯や歯ぐき(歯肉)の状態も個人差が大きいことを実感します。

 口の中も加齢によって当然変化しますが、60歳でもケアが行き届き、驚くほどしっかりした美しい歯を保っている方もいます。一方で、若くても、年齢+何十歳なのではと思われるほど、老化しているケースもあります。そういった方々と接していると、「自分の口の中を知ること」そして「自分に適した歯のケアの知識」が重要なのだと痛感します。

 「ひとりでも多くの方に歯を大切にしてもらいたい」――そんな思いで、私は診療の傍ら、メディアでオーラルケアの重要性について発信を続けてきました。とはいえ、お伝えできるのは、どうしても細切れの情報。そのため、いつか「歯のケアの教科書」のようなものを一般の方にお届けできればと思ってきました。
 それが、今回まとめた本書『新しい「歯」のトリセツ』です。

 歯を健康に保ち、「食べる力」を生涯維持するためにはどうすればいいのでしょうか。そのためには、ぜひ2本柱でお口のケアを考えていただきたいと思います。

 それは、「日々の適切なセルフケア」と、「定期的なプロのチェック」です。

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 歯のケアをよくご存じの方にはわかりきったことかもしれません。
 まず、日々のセルフケアは不可欠です。しかし、虫歯や歯周病は気づかぬうちに進んでいる場合があります。軽いうちに発見すれば、歯を失うことにはならないはずです。だからこそ、痛くて我慢ができなくなってから駆け込むのではなく、定期的に(できれば3カ月~半年に一度)歯科医院に足を運んでください。実際、定期的に歯の検診や歯石除去を行っている人ほど歯を失いにくいこともわかっています。

 ときどき、セルフケアを完璧にしていれば、歯科医や歯科衛生士によるプロのケアは必要ないのではといわれることがありますが、違います。いくらセルフケアが完璧でも、年齢とともに起こる変化に気づかない場合があるのです。そのためには定期的なプロのチェックが必要です。

 セルフケアとプロのチェック、この両輪こそ、「食べる力」を失わないために重要です。
 では、セルフケアではなにが大切なのでしょう。

 歯のセルフケア、一つめに大切なことは「口の中を自分の目で見る」ことです。口を開けて、自分の歯や舌など、口の中をじっくり観察することはありますか?
 食べる、飲む、話すなど、口腔という臓器は多くの重要な機能を持っています。なのに、定期的に体の健康診断を受けていても、歯の検診に行かれる方はそれほど多くありません。歯みがきは1日3回欠かさず行っているのに、汚れがしっかり取れたかどうかをチェックしているという方はほとんどいらっしゃいません。これでは効果が半減です。メイクをするとき、ひげを剃るとき、必ず鏡を見るように、歯みがきの前にも、鏡を見ながら、「いー」「あー」と口を開けて歯や口の粘膜をチェックする癖をつけてもらえればと思います。

 二つめに大切なのが、「自分に合った歯のケアを知る」こと。
 歯並びが悪い部分、どうしても歯ブラシが届きにくい部分……義歯やインプラントなどをお使いの方はなおさら、専用のツールを駆使して汚れをためない工夫が必要になってきます。歯科医や歯科衛生士からのアドバイスも参考にしてください。
 口から食道へ入るべきものが気管に入ってしまうことを誤嚥(ごえん)といいますが、健康寿命を短くする一因に「誤嚥性肺炎」があります。この原因は、気管に、唾液や食べ物などと一緒に細菌を送ってしまうことで、そこに歯周病菌が関わっています。
 つまり、年齢を重ねるごとに口のケアが健康寿命を左右する要因になります。髪の毛や肌を大切に扱うのと同様に、歯や歯ぐきも存分にいたわってください。

 三つめとして、「歯の知識をアップデート」してください。これまで行ってきたケアが果たして効率的なのか、適切なのか……ぜひ本書でチェックしてください。歯ブラシや歯みがき剤の選び方から、フロスの順序、うがいの仕方など、当たり前だと思っているケアも今一度確認してください。子どものころに教わった歯ブラシの持ち方がそのままの方もいらっしゃいます。

 歯のケアの重要性は、口の中だけにとどまりません。「糖尿病と歯周病はお互いに悪影響を及ぼし合う」といった例を筆頭に、口の環境が身体全体の健康に直結することがわかってきています。また歯周病のある人はない人に比べて高血圧の発症頻度が高いという報告もあります。

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 噛めない、むせるといったささいな口の老化があると、食事内容も軟らかいものしか受け付けなくなり、それが食欲や体力の低下にもつながるといった考え方も一般的になってきました。そのため、口の老化(オーラルフレイル)が全身の虚弱(フレイル)を招くという現象をフックに、最期まで食べられる口を保とうという啓発活動も活発になってきました。口や舌をしっかり動かすといったこともオーラルケアととらえ、一つの健康法として、ぜひ、日常に取り入れていただければと思います。

 医療者がまわりにいない一般家庭に育った私は、小さいころに虫歯が頻繁にでき、歯科をよく受診していました。その経験が歯科医になるひとつのきっかけでもあります。そのころの治療は今とは違い、虫歯が疑われたら歯を大きく削って詰め物をする、そして悪くなったら早めに抜歯をするという、いわゆる〝昭和〞の治療法でした。しかし今は、あらゆる治療法が根本から見直され、劇的に進化しています。最新の歯科医療が「歯を守る」目的でどんな工夫を凝らしているかも、第5章のプロケアの項目でご紹介しています。ぜひ治療を受ける際の参考にしてください。

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歯科医・歯学博士 照山裕子


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【目次】

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