その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は藤島誓也さんの『 実践カスタマーサクセス BtoBサービス企業を舞台にした体験ストーリー 』です。
【はじめに】
既存顧客と共に成長するビジネスモデルへ
ひたすら新規顧客を獲得していくビジネスモデルのパフォーマンスに陰りが見えてきました。デジタルマーケティングの限界も感じられるようになり、Cookieでユーザーの行動をトレースするマーケティング手法も、個人情報保護の潮流により規制が強化されつつあります。その結果、ターゲティングの精度も悪くなってくるでしょう。セールス活動においてもリモートワークの普及により、テレアポや展示会などの従来型アプローチの効果が薄まっています。
そうした状況に置かれた多くの企業は、既存顧客の売上最大化にかじを切り始めました。同時にサブスクリプション型ビジネスモデルが普及することで、既存顧客のLTV(顧客生涯価値)を重視するビジネスモデルが注目されるようになってきています。そうしたビジネストレンドを象徴するキーワードとして、既存顧客の成功体験を重視する「カスタマーサクセス」が注目されるようになってきたのです。
カスタマーサクセスは、ビジネス現場だけが理解していればよい概念や方法論ではありません。経営戦略として位置付けることで、その効果を大いに発揮します。全社的に理解して取り組むことが理想的なのです。
例えば昨今のBtoB企業では、IRにも「NDR」という指標を入れるようになっています。NDRとは「Net Dollar Retention」の略で、既存顧客からの売り上げを前年比で維持できているかどうかを測り「売上継続率」を示す指標です。BtoC企業はまだこの段階に来ていませんが、サブスクリプションの拡大もあり、今後はBtoCにおいてもNDRを経営戦略上で重視すべき指標として採用することになるでしょう。
カスタマーサクセスを疑似体験する
一方で、「カスタマーサクセスを実践するには具体的にどうすればよいのか?」という疑問の声も多く聞かれるようになりました。また、カスタマーサクセスは概念なのかノウハウなのか、あるいは職種なのか、今ひとつ腑に落ちない、という声も聞かれます。
そこで本書は、カスタマーサクセスの導入から実施、経営レベルでの展開に至るまでの具体的かつ現実的な実践方法について、主人公と共に段階的に疑似体験しながら学べる解説書に仕立てています。
設定した舞台は、ホテルの予約サイト運営企業「株式会社Smart Lodging Book」です。転職してきた主人公・高山浩介氏がカスタマーサクセスの導入を任されるところから始まります。
高山氏は「カスタマーサクセス」という言葉を聞いたことはありますが、転職前に経験していたわけではなく、初めての実践になります。様々な困難に直面し、カスタマーサクセスに詳しい先輩の助言を得るなどして、最後は専門部署がつくられ、カスタマーサクセスが社内に浸透し、事業が強くなるまでを描いています。なお、Smart Lodging Bookや同社内の人物名は架空のものです。
カスタマーサクセスの理論を、ビジネスの現場にブレイクダウンして、具体的な取り組み方として解きほぐしていこうという試みです。困難に直面したときに実践すべき「行動」(=何を考え、どう動くべきか)は全部で43あります。読者の皆さんは、本書の主人公と共に困難を乗り越える経験をしていただくことができます。
本書を読み終えたときにはカスタマーサクセスの全体像から現場でのフレームワーク、そして手法まで身に付いている状態になっていることを目指しています。
なお、本書にも登場するカスタマーサクセス用語を選定し、目次のすぐ後に用語解説をしています。本書をお読みになっている際、知らない単語が出てきたら、そこに戻っていただくことで、確実に理解しながら前に進めるようにしています。
本書は、カスタマーサクセスを経営戦略に取り込みたいと考えている経営者や、現場に導入したいと考えている管理職、そして実際に現場で実践しなければならない担当者、さらには就職や転職でカスタマーサクセスに興味を持たれている方々までを対象読者として想定しています。
経営者の方が読めば管理職・現場担当者に読ませたいと思える内容になっていますし、逆に現場担当者が読めば、経営者に読んでもらいたいと思える内容になっています。
本書が、皆さんのカスタマーサクセスに対するスキル向上につながれば、これほどうれしいことはありません。
この後、目次に続いて用語解説があり、その後の「プロローグ」からが物語の始まりです。本編は「ドキュメント」と「取るべき行動の解説」で構成しています。高山氏を中心に展開されるストーリーは、時間軸に沿って「ドキュメント」に記載します。そして、高山氏が迷ったり困ったりしたところで、「取るべき行動の解説」をします。このパートは、高山氏が頼っている藤島(筆者)が解説するというスタイルで書いていきます。
ぜひ、楽しみながらお読みください。
【目次】