その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は川上明久さんの『 実践DX クラウドネイティブ時代のデータ基盤設計 』です。
【はじめに】
データ基盤をクラウドネイティブにする流れが急速に進んでいます。クラウドネイティブとは、以前から存在する技術をクラウドに持ち込むのではなく、クラウド環境で動作することを前提に開発されたサービスを使ってシステムを構築する考え方です。クラウド環境で最適に動作するよう設計されているため、より効率的に、より簡単に利用できます。クラウドのアジリティー(俊敏性)、柔軟性、コストなどのメリットをさらに高めるアプローチとして注目されています。
クラウドネイティブなデータ基盤は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の実践に大きく寄与するポテンシャルがあります。DXでデータを活用しようとすると、データマネジメント業務に多大な工数がかかるからです。
扱うデータが増えるほどデータ連係、データ統合が発生します。DXを広く実践するにはデータカタログなどの新たなソリューションを取り入れる必要性も出てくるでしょう。限られたエンジニアリングリソースで、生産性を高めながらデータマネジメントに取り組むことが求められます。これからは、運用業務に工数がかかってデータ活用に十分に取り組めていない組織と、運用業務を効率化してスピード感を持ってデータ活用できる組織では、DXの成果にも影響が現れるように思います。
本書では、DXに取り組む際に選択されることの多い米アマゾン・ウェブ・サービス(Amazon Web Services、AWS)の「Amazon Web Services(AWS)」、米マイクロソフト(Microsoft)の「Microsoft Azure」、米グーグル(Google)の「Google Cloud」、米オラクル(Oracle)の「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」の各サービスを取り上げて、クラウドネイティブなデータ基盤をどのように構築していくかを説明します。
これまでに筆者が執筆してきた書籍『クラウドでデータ活用! データ基盤の設計パターン』『DXを成功させる データベース構築の勘所』(いずれも日経BP)に続いて、新たに登場したクラウドネイティブなサービスを中心に取り上げています。加えて、クラウドへのデータベース移行に1章を割いて説明しています。
クラウドネイティブなデータ基盤を生かすには、既存のデータベースがクラウドに移っている状態になっている方が有利です。クラウドにあることでデータベース自体の運用にかかる工数を削減できる他、メタデータの収集と共有、データ連係サービスの利用といったクラウドにあるからこそ可能な自動化、効率化につながるサービスが利用しやすくなるからです。
しかしながらクラウドへのデータベース移行は頻繁に経験することではなく、予算やスケジュールの見積もりには特有の難しさがあります。多数のデータベースを移行してきた経験を基に、データベース移行の計画立案、データベースとアプリケーションを移行するにあたってやるべきことなどをまとめています。
クラウド利用が進展してきて、単にクラウドを使うだけで得られるスピード、柔軟性などはあって当たり前になりつつあります。クラウドネイティブなデータ基盤にしていき、データ基盤構築や運用のスタイルを変えていく一助になれば幸いです。
クラウドでは日々新しいサービスや機能が生まれています。これらの内容を限りある紙面でお伝えするために、アーキテクチャーや設計、サービス選択の考え方に絞って説明しています。
データ基盤技術の選択、設計に関心があるか、この領域のナレッジを持っておきたいと考えられている方々の参考になるよう記載しています。IT用語のうち、IaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)やPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)、RDB(リレーショナルデータベース)などの、インフラやデータベースに関わる基本的な用語を理解している方であればスムーズに読み進めていただけると思います。
本書は日経コンピュータの連載「DXのためのクラウドネーティブなデータ基盤設計」の一部と日経クロステックの特集記事「実践DX、データベースのクラウド移行」を書籍向けに再編集したものです。
これまで一緒に仕事をさせていただいた方々や、関わったシステムから多くのヒントをもらったことで、書き上げることができました。良い経験をさせていただいたビジネスパートナーのみなさんに感謝します。
最後に、長く執筆を続けることができたのは、家族の理解と協力があったからです。いつも支えてくれている妻の直子に感謝します。
2023年2月20日 株式会社D.Force 代表取締役社長 川上 明久
【目次】