その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は葉石かおり(著)、浅部伸一(監修)の『 なぜ酔っ払うと酒がうまいのか 』です。

【はじめに】

 「くぅー、うまい」

 初めて口にするわけでもないのに、酒を飲むたび、しみじみ「うまい」と思う。酒好きにとってはごく当たり前のことかもしれない。

 だが、ここにきて「はて、何で酒をうまいと感じるのだろう?」と思うようになった。なぜなら、「アルコールは健康に良くない」というニュースが頻繁に流れてくるからだ。

 かつては「酒は百薬の長」と言われ、「全く飲まないよりも、ほどほどに飲んだほうが健康に良い」というのが常識だった。我々酒好きもそれを免罪符にして、罪悪感なしに酒を飲んでいた。ところが、である。2018年、英国の権威ある医学雑誌『Lancet(ランセット)』において、「酒は少量でもリスクがある」という、酒好きにとっては実にありがたくない論文が発表されたのだ。その後も酒が体に及ぼす悪影響についての研究結果が次々明らかにされ、世の中の酒好きたちは「そんな話、ミミタコだよ」とうんざりしている。

 酒ジャーナリストという仕事柄、筆者もそうした記事を書くことがある。心の中では「そんなに体に悪いんだったら、いっそのことマズけりゃいいのに」と思いながらキーボードを打っている。酒がマズかったら、わざわざ飲まない。うまいから、つい手が伸びてしまうのだ。「うまいものを飲んで何が悪い! 酒を悪者にするな!」と、1人パソコン前で逆ギレする日も少なくない。

 だが、酒好きの思いとは裏腹にアルコールの消費量は年々減り、あえてお酒を飲まない選択をする「ソバーキュリアス」なるライフスタイルも登場。酒を全く飲まない若者も増え、「飲みニケーション」という言葉も今や死語になりつつある。

 海外でも英国では伝統的なパブでノンアルコールビールが置かれるようになったり、米国では酒売り場の棚に機能性ドリンクが置かれるようになったりしているらしい。

 もしやこのまま、社会の中で「飲酒は悪。アルコールは毒」という認識が広まっていくのだろうか?

 しかし、もし酒が毒というのならば、なぜ「うまい」と感じるのだろう? 私たち人間には、体を守るため毒となる物質を「まずい」「危険だ」と感じる機能が備わっているはずだ。それなのにどうして酒だけを、こんなに「うまい」と感じてしまうのか不思議でならない。

 そしてもう1つ疑問なのは、なぜ人は飲むと酔っ払うのかということだ。脳の前頭葉の機能が低下し、理性も吹き飛び、行動に歯止めがきかなくなりがちな「酔い」は、ときに命の危険を伴う。それなのに、なぜ私たちは酒を欲してしまうのだろう?

 筆者は、こうしたいくつかの疑問を抱え、医師や研究者などの専門家22人に、世の酒好きを代表して話を聞きに行った。そして取材を通して明らかになったのは、さまざまな最新の科学的な調査・研究から浮かび上がった、酒と人体に関する「深いつながり」だった。

 本書を読まれた方が酒に関する健康不安を払拭し、心から酒を楽しんでもらえるようになれば本望である。

酒ジャーナリスト 葉石かおり

【目次】

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