その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は宮沢洋さんの『 シネドラ建築探訪 』です。

【まえがき】

 建築物や住宅、それを設計する建築家は、映画やテレビドラマの中でどう描かれているのか。憧れ? 独りよがり? 日常とは隔絶した存在?

 本書は元・建築雑誌編集長で画文家の宮沢洋が、「名セリフ」のイラストとともに、共感や現実とのギャップをつづったものである。住宅関連情報のサイト「LIFULL HOME'S PRESS」( https://www.homes.co.jp/ )において2020年から2年半にわたり連載した「建築シネドラ探訪」の原稿30本をベースに、コラム用の短文20本を新たに執筆して構成した。

映画やドラマは「面白く伝える」教科書

 筆者の前職は『日経アーキテクチュア』という建築雑誌の編集者だ。もともと大学は文系。入社した出版社で、本人の希望とは関係なく建築雑誌に配属された。最初は「なんで?」と思ったが、そこが性に合っていた。数年するとその面白さに目覚め、数十年たつと「建築の面白さを専門家だけでなく、一般の人にも伝えたい」という思いが止められなくなる。30年目の2020年、得意のイラストを武器に「画文家」として独立した。

 建築の面白さを一般の人に伝えたい―。そんな看板を掲げて活動しているので、自分以外の人が建築物や建築家の面白さをどう伝えているかがすごく気になる。何に着目し、どう膨らませているのか。

 その最たるものが映画やテレビドラマだと思う。何しろ、自分が1本の建築リポートを書くのとは比べようもない労力と費用が投じられている。人の心を動かすためのあらゆる知恵が詰め込まれている。仮に現実との大きなギャップがあったとしても、それはつくり手が見つけた面白さを増幅したものであり、全くの虚構ではない。むしろそのギャップを描くことで、つくり手が着目した大本の何かを二次的に楽しめるのではないかと考えた。

5つのテーマを設定

 それぞれの作品を実際に見てみると、建築家の描かれ方や着眼点は予想以上に多様であった。同じパターンは一つとしてない。それでも、方向性としてはいくつかの共通項でくくれる。そこで本書では、30本を5つのテーマに分類し、その差がより明確になるようにした。

「PART1 建築家はモテる?」
「PART2 建築家はつらいよ」
「PART3 建築家ダイバーシティ」
「PART4 建築の裏側を知る」
「PART5 とにかく建築が好き!」

 筆者のナビゲートどおりに頭から読んでもよいし、自分の好きな作品、気になる作品から拾い読みしても何ら問題はない。クスッと笑いながら、建築家を取り巻く環境の変化や、彼らを見る目の変化を知ることができるだろう。本書をきっかけに、建築家という存在をより身近に感じていただければ幸いである。

宮沢 洋

※本書の文章中、建物名の後の(○○年)は、原則として竣工年を示している。
※映画・ドラマのポスターイラストは、筆者が模写、簡略化したものである

【目次】

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