その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はPwC Japanグループ SDVイニシアチブ(編)の『 SDV革命 次世代自動車のロードマップ2040 』です。
【はじめに】
「この中で、SDV(Software Defined Vehicle、ソフトウェア定義車両)に乗ったことがある人?」──。
2024年に著者が登壇するイベントで、こういった質問を300人ほどの会場へ投げかけてみたところ、手が挙がった人は数人程度だった。それも少し悩みながら手が挙がった格好だ。この質問の前に、「BEV(Battery Electric Vehicle、バッテリー式電気自動車)に乗ったことがある人?」「自動運転車に乗ったことがある人?」と問いかけた時は、数十人の手がさっと挙がった。これらの質問の狙いは、SDVはBEVや自動運転車のように現時点においては明確な定義がなされておらず、人によって「何がSDVか」が異なることを体感してもらうことにあった。事実、本書を手に取っている読者の方々も「先進的なBEV」「大きなディスプレイがある車」「ソフトウェアアップデートができる車」「スマートフォン(スマホ)アプリで操作できる車」など、様々なものを想像されるのではないだろうか。
2024年に入り、SDVという言葉は専門用語ではなく新聞や各種一般メディアで取り上げられるような「誰もが聞いたことはある」言葉になってきたと考える。一方で「SDVとは何か」「これまでの自動車と何が違うのか」については、何となくしか捉えられていないのが実情だろう。
著者らが所属するPwC Japanグループ(以下、PwC Japan)の各法人においても、昨今SDVに関連する問い合わせを多く受けるようになった。その中には「SDVはこれまでの自動車と何が違うのか?」「SDVに対して何をすればよいのか?」「SDVは結局のところ儲かるのか?」といったものが多くを占める。これらの問いに対し、一言で答えを出してご納得いただけることは極めて困難であると考える。なぜならば、これは各社が置かれる状況や自動車との関わり方、社会における位置付けによって大きく異なるからである。
これまで自動車におけるご相談と言えば、自動車OEM(自動車メーカー)や関連するサプライヤー各社がその多くを占めていたが、昨今ではITベンダー、半導体メーカー、商社、リース会社、保険会社、銀行、官公庁など多様な企業・組織の方々から問い合わせをいただくようになった。PwC Japanは、業種軸およびサービス軸のそれぞれで専門家を擁し、各方面からの問い合わせにはその道の専門家が対応できるようになっているが、SDVという広域アジェンダに対しては各軸で個別対応するには限界がある。
そこで、PwC Japan横断でSDVに関するバーチャル組織「SDVイニシアチブ」を2024年8月に創設し、SDVに関する問い合わせに対してグループ横断で対応できる仕組みを構築した。ある事例では、自動車R&D、戦略、新規事業、スマートモビリティ専門の混合チームでプロジェクトチームを組成し、クライアントを多角的に支援している。また、PwCグローバルネットワークの拠点であるドイツや中国などとも連携し意見交換することで、海外のSDVに関する技術動向や法規動向などについても把握している。
本書の第1章で触れるが、私たちは、SDVを「ソフトウェアを基軸にモビリティの内と外をつなぎ、機能を更新し続けることで、ユーザーに新たな価値および体験を提供し続けるための基盤(エコシステム)」と定義し、SDVはVehicle(自動車)のみならず、それを取り巻く基盤やサービス、ひいてはユーザーへの提供価値の全てを包含したものと捉えることにした。ここで重要となるのは「SDVをつくること」を目的にするのではなく、「SDVという“手段”を通じて提供できるユーザーや社会への価値は何かを考えること」である。その手段を正しく理解するために、SDVを10大アジェンダとして10レイヤーに分解した。またSDVといっても一言では定義できないため、レベル0~レベル5の6段階として「SDVレベル」を定義した。第2章以降では、SDVの10大アジェンダをSDVレベルに沿って詳細に解説している。
このように、本書はSDVをレベル分解、構造分解することで、「ふわっとつかみどころのないもの」から「つかみどころのあるアジェンダ」に昇華している。各章も、PwC JapanのSDVイニシアチブに所属する各専門家がそれぞれ執筆しており、PwC Japanの総力を挙げた内容となっている。
日進月歩で技術が進化し、社会情勢や地政学リスクの変化が激しく、ユーザーの嗜好も常に変わり続ける中で、SDVに対して明確な目指す姿や答えを出すことは極めて困難である。ただし、困難ではあるが決して太刀打ちできない相手ではなく、相手を正しく理解し、自社が置かれる状況を把握することで、今後の目指すべき方向を見極めることができるのではないかと考える。
本書が「SDVとは何か」「今後何をすればよいか」を各社で考えていただくための一助となり、ひいては日本のSDVにおける競争力強化に微力ながらもお役立ちできることを切に願う。
SDVイニシアチブ 一同
【目次】






