その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は成毛 眞さんの 『2040年の未来予測』 です。



【はじめに】

 2021年の今、電車の中を見渡しても、ゲーム機や本を持ち歩いている人はめっきり見なくなった。道を聞くために交番に駆け込む人も激減しただろう。

 すべてを変えたのはスマートフォンの普及だ。
 日本で米アップルの「iPhone」が発売されたのは2008年7月だ。今からたった13年前の2008年の正月にはスマホがない景色が日常だったのだ。
 13年前、あなたは何歳だっただろうか?
 スマートフォンが出たとき、きっとまわりは懐疑的だったに違いない。「こんなオモチャみたいなものは誰も使わない」「いまの携帯電話で十分」という声も多かっただろう。
 しかし、誰も使わないどころか、今ではスマートフォンなしの暮らしなんて考えられない。
 新しいテクノロジーが出たとき、世の大多数は否定的である。それを大衆という。世界を変える可能性に気づく人間は少ない。
 新しいテクノロジーは、ありがたみがわかったときにはすでに陳腐化している。テクノロジーだけではなく、他のさまざまなことも、気づいたときには手遅れになっているのが人間の性でもある。東日本大震災があり、そのリスクをわかっていながらも、被災するまで手を打つ人は少ないし、明らかに破綻しつつある社会制度にも、本当に破綻するまでしがみつこうとする。日本の国内総生産(GDP)は増えないし、人口は増えず、老人ばかりの国になるだろう。
 死なない限り、20年後は誰にでも必ずくる。あなたは、20年後には、確実に20歳年をとる。
 これまでと同じように暮らしていたら、今の年齢によっては取り返しのつかない可能性もあるだろう。あなたが、未来にどのような可能性とリスクがあるかを知りたければ、本書を参考にして欲しい。

 スマートフォンは普及したが、13年前と変わらず、紅白は毎年ある。
 私たち日本人は、昔も今も正月にはお雑煮を食べるし、500円でコンビニ弁当も買えるし、ユニクロでジーンズも買う。ちなみに、スマートフォンが出た前年に、ユニクロではデニムが年間1000万本超を売り上げる超人気商品となって、ファッション市場をすでに席巻していた。つまり私たちの生活水準はあまり変わっていない。

 だが、わたしたちの生活は選択肢を多く持てるようになった。
 お雑煮に飽きたら、家にいながらもデリバリーサービス「Uber Eats(ウーバーイーツ)」を頼めばいいし、実家でテレビのチャンネル権がなければ、スマホをいじって音楽配信サービス「Spotify(スポティファイ)」で洋楽を聴いたり、動画配信サービス「Netflix(ネットフリックス)」で映画を見たりすればいい。道に迷うことは「Google(グーグル)マップ」の登場以降激減したし、タクシーも「GO(ゴー)」でさっと呼べる。スポーツの経過は、リアルタイムでニュースサイトが配信しているし、ラジオもアプリの「radiko(ラジコ)」でいつでも聞ける。
 つまり我々の生活は、水準は大きく変わっていないのに、テクノロジーが生活様式を根底から変えてしまったのだ。それが、スマホ登場からのこの約10年だった。
  そして、これまでの10年よりこれからの10年の方が世界は大きく、早く変わるだろう。

 これまでの10年間の変化は、主に情報通信の大容量高速化がもたらした。この大容量高速化は今後さらに進む。すでにパソコンやスマホでストレスなく動画を見られるようになったし、家にいながらビデオ会議ができるようになっている。その恩恵はますます大きくなる。
 2030年頃には第6世代移動通信システム「6G」が始まるといわれている。たとえば、つい最近までダウンロードに5分かかった2時間の映画が、0・5秒もかからなくなる。瞬きほどの時間になるのだ。
 情報技術の進展は「面」でも広がっていく。
 衛星で宇宙に巨大な通信網を構築し、へき地でも高速インターネット接続が可能になる。この方式では、衛星で宇宙からインターネットの信号を送る。安価で、しかも小型のアンテナさえあれば、光ファイバーなどのケーブルを敷く必要がない。途上国などでも十分な通信速度になるといわれている。
 中心にいるのは電気自動車(EV)の米テスラを率いるイーロン・マスクだ。イーロン・マスクの「スペースX」は、世界のあらゆるところでインターネットへのアクセスを可能にするため、最終的に計4万2000基の小型衛星を飛ばす計画を掲げている。
 2020年にアメリカとカナダの一部でサービスを開始し、その後全世界をほぼカバーする予定となっている。情報通信の質も量も、過去とは比べものにならないほど進む時代がこれから待っていることがおわかりいただけるだろう。

 これと両輪なのが、あらゆるもののコンピューター化だ。
 家電や車だけではなく、たとえばメガネなど身につけるものや街中のいたるところにチップが埋め込まれ、常に通信している状態になる。
 高速通信でさまざまなところから情報が吸い上げられ、膨大なデータ量が蓄積、分析され、あらゆる分野で人工知能(AI)の実用化も一気に進むだろう。
 1章で詳しく述べるが、2030年は自動運転も空飛ぶクルマも、ドローンでの配送も世界ではあたりまえになっているはずだ。
 そして、テクノロジーの加速度的な進展に欠かせないのが中国の存在だ。
 2007年以降の中国のすさまじい経済成長はみなさんもご存じだろう。
 2007年時点のGDPでみると、中国はドイツを抜いて世界3位に浮上したところだった。この時点では日本が世界2位を守っている。
 中国にその座を明け渡すのは3年後の2010年だ。そのまま、瞬く間に抜き去られ、今では中国のGDPは日本の3倍近くにまで膨れあがっている。
 アメリカではあくまでも資本市場のルールのもとで、民間企業が中心となってテクノロジー開発をしているが、中国は国主導で何十億ドルもの国家予算をAIや先端テクノロジーに投じている。
 どちらのやり方が良いかではなく、中国とアメリカとが、がっぷり四つに組んで経済の覇権を争うことで、テクノロジー開発の変化率はさらに大きくなる。抜きつ抜かれつの競争が起きることで、テクノロジーは飛躍的に発展するわけだ。
 実際、すでに中国の顔認証技術は世界でもトップクラスだ。人口が多いのに加え、国主導ですべての個人情報を実質的に吸い上げている。人権やプライバシーが重視される民主主義国家では到底できない荒技だ。結果、データの母数の多さは比べものにならず、AIの精度も高まる。

 先ほど、2030年には自動運転も空飛ぶクルマも、ドローンでの配送も当たり前になると述べたが、そのようなことをいうと「まさか」と驚かれる。だが、みなさんが気づいてないだけで、この未来は確実に起こる。テクノロジーは刻一刻と社会を変えている。
 冒頭に少し触れたが、増えない日本のGDP、破綻しつつある社会制度や減る一方の人口、起こるだろう天災など、この本では、未来にどのような可能性とリスクがあるかを知って、自分で対策を立てられるように、ありのままに予測した。本を読み進めていくうちに、暗い気持ちになるかもしれない。しかし、これらを変えるかもしれないのがテクノロジーだ。
 テクノロジーを大衆は最初にバカにする。19世紀にダイムラーが自動車をつくったときも、20世紀に入りライト兄弟が飛行機を発明したときも、大衆はその価値に気づかなかった。しかし、「そんなバカな」ことを実現しようと信じて取り組んできた人々が歴史をつくってきたのだ。
 重要なのは、これから起きる新しいテクノロジーの変革は、すでに今、その萌芽があるということだ。何もないところから、急に新しいものは飛び出てこない。それを知って、バカにするか、チャンスにするかは自分次第だ。
 テクノロジー以外にも、「今日」には、これから起こることの萌芽がある。現在を見つめれば、未来の形をつかむことは誰にでもできる。
 繰り返すが、20年後は誰にでも必ずくる。そのとき、あなたの未来が少しでも明るくなっているように、本書が役に立つことを願う。

【目次】

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