その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は太田差惠子さんの 『親の介護で自滅しない選択』 です。

【文庫版のためのまえがき】

 本書を出版して4年以上が経過しています。
 今回、文庫化にあたり、内容をブラッシュアップしようと読み返しました。分かってはいたことですが、介護の悩みの多くは「普遍的」なもの……。

 一方で、コロナの影響により、親との向き合い方には変化が生まれています。2020年の年末だったでしょうか。テレビでニュースを見ていたところ、『家族が集まらないことが最善』というテロップが出て、ため息をつきました。
 「ずっと親と会えていない」という人の多いこと……。二世帯住宅に暮らしていてさえ、「会うことを自粛している」と話す人もいました。病院に入院していたり、施設に入居していたりする親とも、面会制限があって会えないという声が数多く聞こえてきます。  会えないことで、「親に何かしてあげたいけれど、何もできない」と、悶々と心を痛めている人。「ずっと親と会えないのは不安」と一大決心し、長年勤めた会社を退職して、親の暮らす実家に戻った人もいました。

 介護には正解はないので、どの人をも否定するつもりはありません。ただ、他の考え方や選択肢を知らなかったために、あとから後悔することは避けていただきたいのです。
 本書では、「無理をしすぎず」、ときには「割り切って」、「発想を変えて」親を介護する方法を提案しています。
 コロナ禍で親のサポートをしづらい現実はありますが、逆手にとって成果(?)をあげている親子もいます。
 ある女性は「私は帰省できない」からと、母親にホームヘルプサービスの利用を促しました。コロナ以前から勧めていたのですが、母親はなんだかんだ言って利用拒否。ところが、「コロナで来れないなら仕方ない」と利用を承諾しました。そして、次第にホームヘルパーが来る日を心待ちするようになったのです。ある男性は、感染が落ち着いた合間に帰省し、シニア向けスマホを買って父親に渡してLINEを教えました。ビデオ通話ができるようになり、「以前よりもコミュニケーションがスムーズになった」と話します。
 毎月、新幹線に乗って月2回の遠距離介護をしていた別の60代の男性は「帰省できなくなって、お金も時間も助かった。身体も楽になった。こっちだって歳だから」と安堵の表情を浮かべます。母親はデイサービスに通っているそうです。近所の民生委員さんも、ときどき様子をのぞいてくれているとか。

 数年内にコロナは収束すると思われますが、いつかまた、他の感染症が流行するとか、大きな自然災害に見舞われるとか、思ってもみないことが起こるかもしれません。今、本書を手にしてくださっているあなたが、何らかの事情で親の介護をできなくなる事態が生じることだって考えられます。
 子供が頑張らなくても介護が滞らない環境を整えておくことは、案外、良い方法だと思いませんか。と言うよりも、子供も生身の人間なのですから必要不可欠なのではないでしょうか。医療・介護などの専門家に味方になってもらって! サービスをいっぱい使って!

 親はもちろん、自分自身も100歳超まで笑顔で生きていくために、どうか自滅しないで。親と向き合う際の参考にしていただければ幸せです。

2021年4月
太田差惠子

【はじめに】

 親の介護が始まったら、「自分の生活は、どうなるのだろう」と不安を抱えていませんか。すでに、始まった人もいるでしょう。
 私は、介護の現場を20年以上取材しています。1998年には「遠距離介護」という言葉を世に送り出し、遠距離介護を行う子世代を支援するNPO法人の活動を継続してきました。そして、親の介護に四苦八苦する数多くの子と出会い、話し、情報を共有してきました。

 介護に限ったことではありませんが、本当に大変な時は「今」しか見えなくなります。そして、それが永遠に続くと思い込んでしまいます(実際には、そんなことはありません)。
 結果、「介護うつ」になる人も珍しくありません。ストレスから胃に穴があいたという人や、血圧が急上昇して入院した人もいました。
 親の介護をきっかけにきょうだい仲が決裂した人、「介護離婚」に至った夫婦もいました。
 「親のために、仕事まで辞めてしまった」と「介護離職」した女性の震える声と頬を伝う涙が忘れられません。経済的にも困窮します。
 私自身は出会ったことはありませんが、「介護殺人」の当事者となってしまう子供もいます。

 こうした悲劇が起こるのは、なぜでしょう。
 社会が悪い? 親が悪い? 自分が悪い?
 「悪者」探しをしても、良いことはありません。その代わり、ほんの少し「発想」を変えてみませんか。固定概念に縛られている自分を解き放ち、自分に優しくなってみませんか。
 まず、1章に目を通してください。そして、あなた自身に「思い込み」がないか自問自答してみましょう。
 1章を読み終えたら、2章以降はお好きなところから読み進めてください。状況ごとに「行動」の選択肢を提示しました(同居や近居でも、ぜひ5章も読んでください)。「自滅」を防ぐためのヒントとなるでしょう。
 ただし、本書の「自滅」の選択をしても、「自滅」どころか親も子もそれぞれの人生を満喫しているケースもあります。1人ひとり、生きている背景も、性格も、価値観も、経済状態も、健康状態も違うのですから、「正解」はありません。例えば、介護をきっかけに仕事を辞めた人の中にも、「涙」とは無縁で、新たな人生への挑戦としてポジティブな生き方をしている人はたくさんいます。
 大事なことは「自分さえ頑張れば」と思わないこと。そして、「本当に必要か?」と自問自答してから一歩を踏み出すこと。考えたうえでの選択であれば、「自滅」とはならないはずです。

 「介護」に、振り回されないでください(倒れた当初などに振り回されるのは仕方ありません)。
 しばしば「介護生活」という言葉が使われますが、私はこの言葉が苦手です。私たちは介護をするために生きているわけではありません。親のことは大切ですが、親のために生きているわけでもありません。
 親の介護は、私たちの生活の一場面です。一場面であるはずのことによって、自分自身の人生を自滅させないよう、本書が少しでもお役に立てれば幸いです。

太田差惠子



【目次】

画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示