その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は池上彰さんの『 私たちはなぜ、学び続けるのか 』です。
【はじめに】「知識の運用力」を身につけよう
世界は大きく変動している、というのは定番のセリフになっていますが、まさにその通りになっています。
世界を見渡すとロシアによるウクライナ侵攻の終わりが見えない中、ハマスによるイスラエル奇襲攻撃で中東情勢は一段と混迷。さらにアメリカ大統領選挙では「もしトラ」の言葉が流行しています。「もしトランプ前大統領が再選されたら」という意味です。最初は冗談半分だった言葉でしたが、ここへ来て可能性が増し、「ほぼトラ」さらには「かくトラ」という言葉まで登場しました。「確実にトランプ当選」という意味です。
日本国内に目を転じると、2023年5月に広島で開催されたG7サミットをきっかけに岸田文雄総理の支持率は上がりましたが、その後は急降下。さらに自民党の派閥による「裏金」問題が表面化すると、岸田内閣の支持率は一段と低空飛行を続けています。
こんな世界に生きる私たちにとって、確かな指針はあるのでしょうか。都合のいい出来合いの指標など、あるわけがありません。結局は、自分の中にあるさまざまな知識を総動員して自分なりの道標を作っていくしかないのです。そこで役に立つのが「教養」です。世界と日本を見据えるために教養は力を発揮するのです。
でも、そんな教養はどこで得られるのか。必要とされるのが「学び」です。私は教養とは「知識の運用力」だと考えています。私たちの頭の中には、過去の学校教育で得られたたくさんの知識が詰まっています。ところが、多くの知識は頭の中に点在するだけ。バラバラの知識のままです。これでは運用できません。そんな知識の「点」と「点」を結べば線になり、線と線を結べば全体像が浮かび上がってきます。
このとき点と点を結ぶために必要なのが、新たな学びです。新たに学ぶことで、自分の中にある点と点がつながります。こうしてできた線と線をつなぐ力が運用力です。
つまり新たに学ぶことで、自分の中にある知識を生かすことができるのです。新たな学びによって、「そうだったのか!」と気づくことは多いはずです。このとき自分の中の知識が活性化しています。過去の自分の学びは無駄ではなかった。それを知ることができるのですから、楽しいではありませんか。人生100年時代、「学び」は大学生だけでなく、あらゆる世代に共通するテーマです。
私は東京工業大学など複数の大学で学生諸君に「知識の運用力」を伝授しようとしてきました。その一端が、2014年から10年間にわたって日本経済新聞に連載している「池上彰の大岡山通信 若者たちへ」です。大岡山は東京工業大学の本部キャンパスの地名です。日頃学生たちと接する中で得た私なりの学びを紹介しています。
10年間の学びを総括したのが本書です。毎回私の連載に伴走してくださっている日本経済新聞社の倉品武文さんのおかげで、これだけ積み重なりました。感謝です。
2024年3月8日
東京工業大学特命教授 池上 彰
【目次】







