その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は山崎俊輔さんの『 老後に4000万円って本当ですか? 物価が上がる時代の退職後資産の考え方 』です。
【はじめに】「老後2000万円」をアップデートする時
ちょっと前のことですが「老後4000万円」という数字がインターネットのバズワードとなったことがあります。2024年5月のテレビ朝日の取材に対し、私が「老後2000万円は物価上昇で老後4000万円になりうる」というコメントをしたことがきっかけです。
私としては、同種のテーマでコラム執筆をしたり、講演のネタとして使っていたこともあって「今回のテーマは『老後4000万円』か……」くらいにしか思っておらず、ネットの反応にはとても驚きました。
SNSでは、
「5年で『老後2000万円』が『老後4000万円』になった!」
「この調子では10年後には『老後1億6000万円』になるんじゃないか?」
「政治が悪い」
「年金破たんは間近ってことだよ」
などなど様々でした。基本的には悪口と不安にからむものばかりでした。
本書を読んでいただければ、ミスリードが多いことはおわかりいただけると思いますが、この反応の大きさは、見方を変えれば国民の関心が強いということでもあります。
物価が上がる時代だからこそ、資産管理が重要になる
物価が上昇しない時代は終わりを告げました。私たちは今、物価が上昇するのは当たり前、という時代を実感し始めています。
かつては「値上げすると売上が下がる」と値上げに消極的だったメーカーが、同一年内に2回の値上げをしたり、毎年のように値上げをするようになりました。2025年は米の値段が一気に2倍になっています。それでお米が売れなくなったどころか、米不足がニュースとなりました。
私たちはあまりにも長いあいだ、「物価は上がるもの」ということを忘れて暮らしていました。「物価上昇を知らない世代」はなんと、現役で働く世代の半分を占めています。
物価が上がる、ということは、財布や引き出しに置いておいたお金の価値が時間の経過に従い目減りしていく、ということです。1年前に引き出しに入れておいた1万円で買えたはずのものは、1年後には値上がりしていますから買えなくなってしまいます。
銀行に預けていれば預金金利がつきますが、これは物価上昇率には及びません。銀行でも実質目減りしているのです。物価が上昇する時代には資産管理の重要性が高まります。NISAやiDeCoを通じた投資が注目されているのはそのせいです。
そしてもうひとつ、「将来の備え」の上方修正も必要です。
アメリカでは、老後の必要資産額は「2億円」
物価が上昇するとき、将来のための目標資金額が増えることは当たり前のことです。物価上昇が激しいアメリカでは、「物価が上がる=将来必要な金額も上がる」という感覚は当然のものとして国民に認知されています。
アメリカでは物価が2倍になれば、老後の安心のための金額もほぼ2倍になると、当たり前のように考えているわけです。
アメリカのノースウェスタンミューチュアルのリサーチでは、2020年には95万ドルとしていた老後の必要額が、24年には146万ドルまで増加しています。この急激な上昇が起きた理由は、激しい物価上昇があったので、老後の必要額も増える、と回答者が考えたからです(25年調査では126万ドルとやや落ち着きを取り戻しています)。
アメリカの物価が高いとはいえ、日本円にすると1・5億円以上、2億円くらいになってしまう驚きの数字です。アメリカの調査は社会保障制度から受けられる年金額にあまり期待していない傾向があるため日本より高い数字となるようですが、必要な金額が物価上昇で増えていることに注目してください。
私たちも同じ意識を持つとしたら、新しい常識が「老後4000万円」になります。老後のための資産形成の目標額として考えていた「老後2000万円」をアップデートする必要があるのです。
本書のねらいはあなたの意識を変えること
本書ではそもそも老後の備えの目安として「老後2000万円」がどう誕生したのか、またどう誤解されてきたのかをまず考えてみます。そのうえで、これからやってくる「老後4000万円」時代とはどういうものなのか、いつ頃、どのようにして到来するのかを考えます。
とはいえ「老後4000万円」は怖がるだけのものではありません。自覚すれば私たちは十分に備えることができます。
備え方については、2つの時間軸で分けてみます。「退職直前、退職後の世代」向けと「数十年先に老後を迎える若い世代」向けで対策が異なってくるからです。
また、公的年金の活用術も考えてみます。実は公的年金を賢く増やす方法を考えることで、「老後2000万円」を確実にクリアする可能性があるのです。繰り下げ受給をすることで年金額を大きく増やし、老後の安心を確保できます。
また、正社員共働きで働き続けることが「老後4000万円」に備える大きな力を持つこともお話しします。カギとなるのは退職金です。
そのほか、iDeCoやNISAの活用も考えていきます。ここでは投資の力の活用がポイントです。
いずれにせよ、本書が「老後4000万円」時代に備える教科書となることを目指してまとめています。
ひとりでも多くの読者が、老後の安心を形作るヒントになればと思います。
2026年4月
山崎 俊輔
【目次】





