その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は榎本博明さんの『 じつは残酷な「ほめ育て社会」(日経プレミアシリーズ) 』です。

【はじめに】

 学校でも、家庭でも、職場でも、叱られたり厳しいことを言われたりせず、絶えずほめてもらえる。いつの間にか、そんな社会になってきた。

 それは素晴らしいことだ。自分たちの頃は、先生にも親にも厳しいことを言われ、ときに理不尽に叱られることもあり、就職してからも上司から厳しいノルマを課せられたり、ちょっとしたことで厳しく叱られたりして、じつにストレスの多い日々を過ごしてきた。今の若い人たちは幸せだ。そんなふうに思う年配者もいるかもしれない。

 でも、そのような「ほめ育て社会」を生きるのは、ほんとうに幸せなことなのだろうか。「ほめ育て社会」というのは、じつはとても過酷な社会なのではないのか。そんな疑問が湧いてくる。本書をまとめようと思った動機はそこにある。

 ところで、厳しいことは言わずにほめて育てる社会は、だれにとって都合がよいのだろうか。そのように育てられた人たちにとっては、どんなメリットがあり、どんなデメリットがあるのか。私は、ほめられることにメリットがあることも否定しないが、デメリットのほうがはるかに大きくなる場合もあるのではないかと思っている。

 そこで着目したいのは、若者の早期退職の理由である。少し前までは、長時間労働やきついノルマを押しつけられたり、理不尽なパワハラを受けたりする、ブラックな職場だから辞めるというのが一般的だった。ところが最近では、職場がとくにブラックなわけではないが、ゆるすぎるから辞めるという若者も増えてきている。

 長時間労働も厳しいノルマもなく、もちろんパワハラ的な言動もなく、上司も先輩もやさしい。でも、それがほんとうのやさしさのようには感じられない。こんなふうに新人に気をつかい、やたらとほめ、けっして叱らない職場の雰囲気に、「上司や先輩は、ほんとうに自分のためを思ってくれているのだろうか。周囲からパワハラを疑われるのを恐れているだけのような気がする」「こんな環境では成長できないのではないか」と不安を感じる。そんな心の動きがあるようだ。

 そうなると、「ほめ育て社会」は、一見やさしい社会のようでありながら、じつはとても過酷な社会になっているのではないか。

 厳しいことを言われずにほめて育てられるのは、常にいい気分でいられるから快適だ。そのように言う若者がいる半面、こんな甘い環境にどっぷり浸かっていて大丈夫なのだろうか、全然鍛えてもらえないし、と不安になるという若者もいる。

 前者のような若者が多いのかもしれないが、私は後者の若者にとても共感し、この「ほめ育て社会」に危うさを感じている。どういうことなのか。それについては本文で詳しく解説していくことにしたい。


【目次】

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