その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は古庄宏臣さん、川崎真一さんの『 学びあうオープンイノベーション 新しいビジネスを導く「テクノロジー・コラボ術」 』の「まえがき」をお届けします。
【まえがき】
日本のイノベーションを象徴する企業の一つと言われながら、長く低迷期の続いたソニー(現ソニーグループ株式会社)が、ここにきて復活したと言われています。
この復活を象徴するのが、世界市場トップシェアを誇るCMOSイメージセンサーです。
そのシェアは2位以下を大きく引き離し、世界市場規模は200億ドル以上、今後も年平均5%を超える高い成長が見込まれています(2022年、Yole Intelligence 発表情報より)。これほど巨大かつ成長の速い市場で圧倒的に強い製品技術を日本企業が有するケースは、久方ぶりなのではないでしょうか。
ソニーのCMOSイメージセンサーが画期的だったのは、センサーの回路領域と画素領域を積層化してセンサーを極小化したことでした。これにより、多くのスマートフォンのカメラ機能で採用されました。
注目すべきは、ソニーはこの積層化を実現するために、必要な回路領域と画素領域の「接合技術」を外部から導入していたことです(Ziptronix社の「特許ライセンス実績」発表より)。ただし、ソニーは「自前主義」を放棄して何もかも外部の技術に頼ったわけではなく、センサーを極小化するうえで必要な他の要素技術は、自前で開発していました。ソニーは、自前で開発した技術と外部から導入した技術をうまく組み合わせて、世界最強とも言えるCMOSイメージセンサーを開発したのです。
日本のモノづくりビジネスにおいて「脱自前主義」が唱えられるようになったのは、2003年に米国の経営学者であるヘンリー・チェスブロウ氏が、「研究開発をすべて自社内で行う企業は、製品の市場投入までに時間がかかる。その一方で、自社と外部の知識を組み合わせて活用できる企業は、製品をより早く市場投入でき、結果を出していた」という研究結果を発表し、この考え方を「オープンイノベーション」として提唱したことが起点でした。ソニーの事例は、まさにチェスブロウ氏が唱えた通りの結果になったと言えます。
一方で、ソニーの事例は別として、日本のモノづくり産業においてオープンイノベーションが浸透したとは言い難い状況にあります。2003年当時、「オープンイノベーション」の考え方は、新しいビジネスを生み出すことに苦心していた日本のモノづくり企業にとって閉塞感を打破する処方箋のように受け入れられ、多くの企業で推進する取り組みが行われました。
ところが、徹底した秘密主義のもとで名前だけの推進組織を立ち上げるケースや、開発情報を公開することがオープンイノベーションだと勘違いされるケースなど、ある種の混乱を交えながら進められ、結果、多くの日本企業が前向きにオープンイノベーションに取り組んだにもかかわらず、それに比例するほどの成功例を出せませんでした。
日本でオープンイノベーションがうまくいかない要因としては、「提携企業同士のゴールを共有できていない」や「経営者の理解が不足している」といった組織マネジメント上の課題が言われてきました。それは間違いではないと思われますが、表層的な課題しか捉えていないと考えます。
筆者は、モノづくり企業の技術を他用途に転用して新しい事業を開発する支援をしており、支援を通じてオープンイノベーションを多数経験してきました。その経験から考えると、日本のモノづくり企業は「脱自前主義」とは何かを深く考察することなく、「オープンイノベーション」という言葉にだけ飛びつき、旧態依然とした「自前主義」から変わらないまま、形式的に外部の力を活用するだけの取り組みを進めたため、成果に結びつけることができなかったのではないかと思います。
一方で、インターネット・SNSによって瞬時に情報が世界中を駆け巡り、良い製品は瞬く間に売れることでビジネスの賞味期限は短くなり、良いアイデアは組織の枠だけでなく国境を超えて共有されることでテクノロジーが指数関数的に進化する現代では、外部の力をうまく活用する企業こそが「新結合=イノベーション」を飛躍的に拡大させ成功を収めていっています。日本でオープンイノベーションが浸透するかどうかに関係なく、その流れは今後も変わらないでしょう。
では、日本のモノづくり企業が本当の意味で改善すべき思考を踏まえたオープンイノベーションとは、いったいどんなものなのか。解明のための糸口となったのは、盟友である株式会社 KRI代表取締役社長の川崎真一氏(本書の共著者)の言葉です。このKRI(ケー・アール・アイ)という聞き慣れない名前の会社は、研究開発を受託するビジネスを営んでおり、まさに外部に技術を提供することで成り立っているオープンイノベーションの最前線にいます。
川崎氏から、「我々の価値はクライアント企業が自分たちだけでは解決できない課題に直面した時、一緒に解決策を導き出し、道なき道を前進する道先案内人になることだ」と聞き、外部の力を活用することは、異なる考え方から学び、外部の人と“一緒に”解決策を導き出し前進することにあるのだと気付きました。つまり「脱自前主義」だけを説くことが、オープンイノベーションの本質ではないことに気付いたのです。
そこで、筆者自身の知見や経験とともに、長年研究開発と開発成果の事業化に従事してきた川崎氏の知見や経験も交えて、必要以上に「脱自前主義」に走らないよう、日本のモノづくり企業が本当の意味で改善すべき思考は何かを明らかにしたうえで、「これからのオープンイノベーション」を説くべきだと思い至りました。
そもそもオープンイノベーションには、成功させるために必要な三つの基本要素があります。この三つが揃わないとうまくいきません。
一つ目は、「対等な関係」の提携でなくてはならないこと。二つ目は、対等な関係だからこそ、お互いに相手から「学ぶ場」でなくてはならないこと。そして三つ目は、ゴールが「Win-Winの関係」でなくてはならないことです。オープンイノベーションとは、「対等な関係」でスタートし、推進していく中でお互いが学びあい、そしてゴールは両者が勝者になることに価値があるのです。
オープンイノベーションとは、外部の技術や知見を導入するアウトサイドインと、外部に技術や知見を開放・提供するインサイドアウトの二つの意味合いがあるのですが、本書では、オープンイノベーションの基本要素三つのうち、スタート(対等な関係)とゴール(Win-Winの関係)の間にある「お互いが学びあう」が最も重要な中核要素と考え、アウトサイドインとインサイドアウトをお互いが実施するケースに軸足を置いて述べるものとしました。
ただし、先に述べたソニーのCMOSイメージセンサーのように(ソニーから見て)アウトサイドインのみのケースであっても、特許をライセンスアウトした企業もソニーから学んだ要素は必ずあるはずで、お互いに学びあう関係であれば、アウトサイドインのみ、インサイドアウトのみのケースを除外するものではありません。
本書では、まず第1章でオープンイノベーションがうまくいかない要因を振り返り、第2章で「Win-Winの関係」を構築するために、適切な相手の選択と、円滑にオープンイノベーションを推進する方法である「新しいビジネスを導く“テクノロジー・コラボ術”」を解説します。
第3章で、オープンイノベーション推進のために組織に必要な「土台づくり」を明らかにし、最後の第4章では、有識者の意見も交えながら、日本のモノづくり産業復活に向けた「これからのオープンイノベーション」について一つの方向性を示しました。
「新しいビジネスを導く“テクノロジー・コラボ術”」を理解し、常日頃から「土台づくり」を意識し実行いただくことで、日本のモノづくり企業が目指すべき「これからのオープンイノベーション」が積極的に展開されていくことを願います。
なお、第1~3章は古庄が、第4章は川崎氏が執筆を担当しています。
最後に、本書執筆にあたり、筆者の無理な願いを受け入れて、ご対応・ご尽力いただきました皆様に、この場を借りてお礼を申し上げます。
株式会社NTTドコモの齋藤謙二郎氏、日本電信電話株式会社の小松武志氏、桑原啓氏、高河原和彦氏、NTTコミュニケーションズ株式会社の久野誠史氏、東レ株式会社の勅使川原崇氏、横山興業株式会社の横山栄介氏、横山哲也氏、ミネベアミツミ株式会社の佐藤礼文氏、株式会社 KRIの木下肇氏、セーレン株式会社代表取締役会長兼CEOの川田達男氏には、大変参考となる資料や情報をご提供いただきました。ありがとうございます。
インタビューにご対応いただき、貴重なご見識を本書に加えていただいた株式会社アーク・イノベーションの井上潔氏、マクセルホールディングス株式会社元代表取締役会長の千歳喜弘氏、そしてアカデミックな視点からご助言いただいた関西学院大学教授の玉田俊平太氏に心より感謝申し上げます。
知財務株式会社 代表取締役 古庄宏臣
【目次】




