その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は石黒浩(著)、大阪・関西万博シグネチャーパビリオン「いのちの未来」クリエイティブチーム(編)の『 いのちの未来 2075 人間はロボットになり、ロボットは人間になる 』。「プロローグ」をお届けします。

【プロローグ】

本の概要

 本書は、ロボット学者である石黒が、大阪・関西万博のテーマ事業プロデューサーとして、シグネチャーパビリオン「いのちの未来」を準備するために、パビリオンの企画統括ディレクターの内田まほろ氏らと共に、3年間にわたって、多くの研究者やパビリオンの関係者と50年後の未来について議論した結果と、その結果に基づいて作り上げたパビリオンの展示内容についてまとめたものである。石黒の未来の捉え方を基に、50年後に起こり得る未来について、様々に考察している。

 これからの未来は、人間一人ひとりが責任を持って、想像し、創っていかなければならない未来である。本書はそのような人々に、未来を考えるヒントを与えるために執筆したものである。この本を通して、未来社会を読者の皆さんと一緒に創ることができればと願っている。

大阪万博と大阪・関西万博

 2025年4月に再び大阪の地で万博が開催される。1970年に開催された大阪万博は、それまでの万博史上、最も多くの観客を動員した万博で、今もなおその展示内容は語り継がれている。大阪万博は多くのレガシーを後世に残し、多くの人々に影響を与え、科学技術発展の礎となった。それから50年(正しくは55年だが本書では50年と表記する)が経ち、再び、大阪・関西において、万博が開催される。

 万博の役割は、世界中の人が集まり、未来について考える場を持つことである。新たに開催される大阪・関西万博においても、過去の万博同様に、未来について考える場になることが期待されている。ただ異なるのは、かつての大阪万博の時のように、世界が同じように、科学技術で発展する未来を無条件に求めているのではないことである。大阪万博から50年の月日が経ち、我々人類は、自らが人間を設計できる遺伝子編集の技術や、地球環境を守ることも壊すこともできる強大なエネルギーの技術を手に入れた。

 それ故、我々は自ら未来に責任を持たなければならない。単に豊かになればいいわけではない。未来の人間はどうあるべきか、地球環境はどうあるべきか、かつて我々人間が神に問うてきた問題に対し、我々人間が責任を持って、答えなければならないのである。

 故に今、万博を機会に未来について考えることは非常に重要である。科学技術が急速に進展する現在、その進展についていくのが精一杯だと思う人も多いだろう。しかしそれ故に、科学技術が創り上げる未来を、自分たちでデザインしなければならないのである。

 大阪・関西万博のメインテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」とは、まさにそのことを意味している。この本を参考にしながら、ぜひ読者の皆さんも、自分で未来を考えてほしい。

2075年の未来

 2075年の未来においては、様々な技術が可能になる。AIやロボットは、一般的な人間と同じかそれ以上の能力を持つようになる。量子コンピューターがこれまで解き明かせなかった自然現象を解明すると同時に、膨大な計算を瞬時に行うようになる。老いが治療され、寿命が今よりも遙かに延びる。核融合技術により無限のエネルギーを手に入れ、エネルギー問題がなくなる。

 そうした未来において、我々は今ある生命、国、集団、知能、施設、家族、住居、自然、街、移動、差別、エネルギーの概念から解放され、より自由に生き、様々な可能性に挑戦できるようになる。人間や人間社会がさらに進化発展するために、我々がどのような生き方をし、どのような社会を創っていくのか。そのことに思いを馳せると誰しもときめくはずである。

本の構成

 本書は、3部、10章から構成される。

 第1部は石黒が考えるいのちの未来をまとめた。

 第1章では、いのちの未来について、人間とは何か、どのように進化していくものなのかを議論する。第2章では、石黒が考える未来の技術について述べる。また、それらの技術によって、今ある様々な概念がどのように変化するかを推論する。第3章では、未来において我々人間が大事にするものとは何かを考察し、第4章では、日本において我々がいのちを宿してきたものの歴史を振り返り、パビリオンのゾーン1の展示とともに紹介する。

 第2部は、パビリオンを作り上げたメンバーと共に具現化した50年後の未来を披露する。

 第5章では、パビリオンのゾーン2で展開される未来のストーリーを多くのビジュアルとともに紹介する。第6章では石黒らが手がけるシグネチャーパビリオン「いのちの未来」の建築物の概要を、第7章ではバーチャルパビリオンの構成に触れる。そして第8章は、この3年間にわたってパビリオンの協賛企業の若手メンバーと取り組んできた共創ミーティングについて説明する。共創ミーティングでは、未来の技術について石黒がヒントを与えながら議論を進めた。それらの議論を基に作り上げた万博の未来の展示内容と、パビリオンのゾーン2で展示される協賛企業の若手メンバーが考え出した未来のプロダクトについては、第9章で紹介する。

 最後の第3部は、さらに飛躍して1000年後の人間を想像した。

 第10章では、パビリオンのゾーン3に登場する、かつての太陽の塔の未来を引き継ぐ、1000年先の人間の展示について紹介する。

本書の特徴

 未来について書かれた本はたくさんある。特に様々な技術を集めて、未来予測的に書かれた本は多い。しかし、科学技術の発展により、未来がどのように変わるか、今ある様々な物事の概念がどのように変わるかという考察の上に、具体的に未来でどのようなプロダクトが登場するのかについて、未来を創る当事者として議論した本は少ない。本書はまさにそうした自分たちが創りたい未来、創るべき未来について記した本である。

パビリオンチーム

 そしてこのパビリオンは、通称パビリオンチームと呼ぶチームによって計画され、製作された。そのチームの主なメンバーについてここで紹介しておこう。

 石黒 浩(いしぐろ ひろし) プロデューサー
 1991年、大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了。工学博士。2009年より大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻教授。ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)。2017年から大阪大学栄誉教授。研究対象は、人と関わるロボットやアンドロイドサイエンス。多数の論文を主要な科学雑誌や国際会議で発表。また、ロボビー、リプリー、ジェミノイド、テレノイド、エルフォイドといった、人と関わるヒューマノイドやアンドロイドを開発。これらのロボットは、ディスカバリーチャンネルやNHK、BBCほか、世界中の多数のメディアで取り上げられている。2009年には、メディアアートの世界的なイベントの一つであるアルス・エレクトロニカ・フェスティバルのフィーチャードアーティストとして招待された。2011年、大阪文化賞受賞。2015年、文部科学大臣表彰科学技術賞受賞およびシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム知識賞受賞。2020年、立石賞特別賞受賞。2024年、市村学術賞功績賞受賞。

 内田まほろ(うちだ まほろ) 企画統括ディレクター
 キュレーター、展示プロデューサー。JR東日本文化創造財団 MoN Takanawa:The Museum of Narratives 開館準備室長。2020年まで日本科学未来館勤務。シンボル展示「ジオ・コスモス」やロボット、情報、アート、デザイン、ゲーム、建築、土木まで幅広い常設展、企画展を担当。2005年MoMAでの在外派遣勤務、グッドデザイン賞審査委員。

 小林大介(こばやし だいすけ) 制作統括ディレクター
 株式会社パルコ 執行役員(文化創造事業本部 エンタテインメント/演劇事業部、エンタテインメント/音楽事業部、エンタテインメント/映像・コンテンツ事業部、新規ビジネス開発部、ゲーム事業開発部担当)。カルチャー、アート、音楽の展示、イベント企画に広く携わる。渋谷再開発における仮囲い演出でグッドデザイン賞受賞。クマ財団選考委員、ACC審査委員。

 遠藤治郎(えんどう じろう) 建築・展示空間ディレクター
 建築家、演出家、照明家、エキシビションデザイナー、フェスティバルデザイナー、合同会社SOIHOUSE代表。建築を起点に、美術・音楽・モード・大学教育といったジャンルを横断しながら、オランダ3年、スリランカ1年、タイ13年を経て2016年より東京を拠点に活動、2021年春まで日本科学未来館専門職兼務。

 宇川直宏(うかわ なおひろ) バーチャル空間プランニングディレクター
 現“在”美術家、DOMMUNE主宰。映像作家、グラフィックデザイナー、VJ、文筆家、大学教授など、1980年代末より、様々な領域で多岐にわたる活動を行う。2010年には、日本初のライブストリーミングスタジオ兼チャンネル「DOMMUNE」を個人で開局。記録的なビューワー数で国内外にて話題を呼ぶ。2021年、第71回芸術選奨文部科学大臣賞受賞。

 パビリオンチームにはこの他に次のメンバーも含まれる。

共創クリエイター

 松井龍哉(まつい たつや) アンドロイド・ロボット デザイナー・監修
 ロボットデザイナー・美術家、フラワー・ロボティクス株式会社CEO、日本大学芸術学部客員教授、成安造形大学客員教授、日本建築美術工芸協会AACA賞選考委員、グッドデザイン賞、ACCブロンズ賞、iFデザイン賞(ドイツ)、red dot デザイン賞(ドイツ)受賞。著書に『優しいロボット』(大和書房)。

 廣川玉枝(ひろかわ たまえ) アンドロイド衣装デザイナー・監修
 2006年に服飾ブランド「SOMARTA」を立ち上げ「第二の皮膚」となる革新的な無縫製ニット「Skin Series」を発表。2017年MoMA収蔵。レディ・ガガやマドンナの衣装、アシックスとの協業で東京2020の表彰台ジャケットを手がけるなど、伝統と先端技術を融合させた「皮膚のデザイン」を創造し続けている。

 secca(せっか) アンドロイド・ロボット マテリアルデザイン
 2013年、創造都市金沢を拠点に活動を開始した巧藝集団。伝統的な素材や技法を現代の解釈で再構築し、空間やプロダクトを通じて唯一無二の体験価値を造形することで次世代の巧藝(KOGEI)を探求している。加賀温泉駅、HYATT、Hiltonでの壁面アートワーク、新樹脂素材を活用した食体験を提案するブランドARASや、さらにBjörkの舞台マスクの制作など、多分野にわたり各相手との共創をカタチにする。

 菊地あかね(きくち あかね) アンドロイド所作デザイナー・監修
 KiQ主宰、所作研究家、ジェスチャーアーティスト、クリエイティブディレクター。製品・サービス・ヒューマノイド・人間など累計1000以上の所作を手がける。所作とテクノロジーを融合する世界初のラボ「Shosa Lab」をロサンゼルスに設立。企業のCCOを務め、iFデザインアワードなど国際賞受賞。AI時代の非言語クリエイティブを先導し、次世代への創出を続ける。

 金子繁孝(かねこ しげたか) 「1000年後のいのち“まほろば”」空間演出
 2001年、ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザイン BA THEATRE DESIGN卒業。20年以上にわたってパリコレクション、東京コレクションを中心に国内外ファッションブランドのショーやイベント、展覧会などの演出を手がける。

 栗林和明(くりばやし かずあき) 「50年後の未来」クリエイティブディレクター
 映像企画を中心として、空間演出、商品開発、統合コミュニケーション設計を担う。JAAAクリエイターオブザイヤー最年少メダリスト。カンヌライオンズ、スパイクスアジア、メディア芸術祭、ACCなど、国内外のアワードで60以上の受賞。米誌『Ad Age』の「40 under40(世界で活躍する40歳以下の40人)」選出。

 瀬川公雄(せがわ まさお) 「バーチャル空間」クリエイティブディレクター
 Hypolygon 株式会社代表取締役。映像作家・デザイナーとして、国内外のアーティストやブランドのアートワークや映像制作を手がける。2024年、FortniteやRobloxなどのゲームを活用したプロモーション企画を軸に、多彩なクリエイティブを展開するスタジオ「Hypolygon」を設立。

アンドロイドプログラミング

 境 くりま(さかい くりま) エクスペリエンスクリエイター
 ロボット工学に従事する研究者、博士(工学)。アンドロイドERICAをはじめ石黒浩のプロデュースするアンドロイドの根幹システムの開発に携わる。アンドロイドの人間らしい動作生成システムの開発から対話制御システムの開発まで幅広く従事している。

 船山 智(ふなやま とも) インタラクションクリエイター
 自律アンドロイドのインタラクションデザイン・システム開発を行い、アンドロイドの価値あるインタラクションの実現を目指す。

 三方瑠祐(みかた りゅうすけ) モーションクリエイター
 ATR選任研究技術員。アンドロイドの動作生成システム開発に携わり、人と関わるロボットの社会進出を目指す。

【目次】

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