その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は平方眞さんの『 看取りの技術 改訂版 平方流 上手な最期の迎えさせ方 』です。

【はじめに】

 日本は現在、「多死社会」と呼ばれる時代に突入しています。亡くなる人の数は年々増え、病院だけでなく、居宅や介護施設など、色々な場所で人生の最終段階を支えることが求められるようになりました。

 かつて、「看取り」は、一部の専門職だけが関わる「特別な医療」のように考えられていました。しかし、今は違います。どの診療科にも、どの病棟にも、どの介護現場にも、「死について話さなければならない場面」が存在します。

 患者さんや家族は、「残された時間はあとどれくらいか」「どんな覚悟をしておけばいいのか」「我慢できないほど苦しくなったりしないか」といった、様々な不安や疑問を抱えています。一方で、医療・介護従事者は、それらにどう対応すればよいのかを、十分に学ぶ機会がないまま、現場に立っていることも少なくありません。「何と答えたらよいかが分からない」「説明したのに伝わらない」「家族対応が怖い」と感じながら働いている人が多いのではないでしょうか。

 私は、これまで長年にわたり、緩和ケアや在宅医療の現場で、たくさんの患者さんや家族と向き合ってきました。直接看取った人だけでも3000人を超えています。その経験を通じて痛感したのは、「正しい医療を提供するだけでは足りない」ということでした。

 どれだけ医学的に適切な処置をしても、患者さんや家族が孤独や苦悩の中に取り残されてしまえば、「良い看取りだった」とは捉えてもらえません。逆に、病気を治すことができなくても、「この人たちと一緒に過ごせて良かった」と思える時間をつくることは可能です。

 そのために必要なのが、「コミュニケーション」です。看取りの現場では、言葉が人を傷付けることもあります。逆に、たった一言で、患者さんの不安を和らげられたり、家族の後悔の念を軽くしたりもできるのです。

 死を前にした人との会話は、独特の難しさを伴います。何を言っても、患者さんや家族のためにならないのではないかと感じる瞬間もあります。それでも、誰かが隣にいて、共に考え、言葉を探すことには、大きな意味があると私は考えています。

 本書では、看取りの場面で起こりやすい問題や、病状の捉え方、情報共有の方法、患者さんや家族とのコミュニケーションの工夫などを、できるだけ実践的な形でまとめています。現場の経験だけでそれらを学ぼうとすると、非常に長い時間がかかってしまいます。私が30年にわたって、試行錯誤しながら編み出したノウハウを共有し、現場で生かしていただくことができればと思ったのが本書を書いたきっかけです。そして、初版の刊行から10年以上が経過した今、「看取りの技術」の重要性はますます高まっていると感じ、改訂版の作成に至りました。

 看取りは、つらいことも多い仕事です。ですが、同時に、最後まで「その人らしく生きる」ことを支える、とても大切な仕事でもあります。良い看取りができるようになれば、患者さんや家族だけでなく、医療・介護に関わる私たち自身も救われるものです。本書が、看取りに向き合う皆さまの力に、少しでもなれたら幸いです。

2026年6月 平方 眞


【目次】

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