その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は中村雄一さん、桑田昌行さん、渡邊歩さん、福安徳晃さんの『 OSSビジネス活用の教科書 「守り」と「攻め」の実践的オープンソース戦略 』です。

【はじめに】

 現代社会では、クラウドやAI(人工知能)といったデジタルサービスだけでなく、携帯電話、自動車、さらにはエネルギーや交通などの社会インフラに至るまで、あらゆる分野でデジタル化が進んでいます。その中核を担っているのがソフトウェアであり、ソフトウェアのほとんどは「オープンソース・ソフトウェア(Open Source Software:OSS、本書では通常オープンソースと記す)」で構成されています。このオープンソースとは、誰でも自由に利用、改変、再配布できるソフトウェアのことであり、有志が集まるコミュニティによって主に開発されています。

オープンソースは競争力を左右する戦略資産

 世界規模のデジタル企業やAI企業は、すさまじい速度で技術革新に取り組み、ビジネスを拡大しています。それを可能にしているのがオープンソースです。こうした企業は、オープンソースを自社の競争力を左右する「戦略資産」として扱っています。つまり、自社のエンジニアを戦略的にオープンソースのコミュニティに参加させることで、自分たちが動きやすい技術のルールを作り上げています。そして、数万人にも及ぶコミュニティ開発者を巻き込むことにより、自社だけでは到底できない速度で技術開発を進め、新たな価値を生み出しています。

 オープンソースの普及に伴い、大手企業では10万本以上のオープンソースが使われていることも珍しくありません。その結果、セキュリティー上の問題が意図せず企業システムに混入し、サイバー攻撃の標的にされるというリスクも明らかになってきました。このような問題への対処方法も、欧米を中心にオープンソースのコミュニティで活発に議論・整備されてきています。

 しかしながら日本企業の多くは、いまだにオープンソースを単に「無料のソフトウェア」として扱いがちです。その利用状況すら正しく把握していないのに加え、コミュニティへの参加も希(まれ)であり、世界から置き去りになっています。その結果、サイバー攻撃のリスクにさらされているだけでなく、海外企業が作った土俵(技術のルール)の上で戦うことを強いられています。また、コミュニティを巻き込んで技術開発を加速することもできていません。デジタルの世界で日本が後れを取っていると言われて久しいですが、このような不利を抱えていては無理もないことと言えます。さらに多くの日本企業は、この危機的な現状に気づいてすらいないのです。

「守り」と「攻め」のオープンソース戦略

 日本企業が世界で戦って勝つには、オープンソースのリスクに備える「守り」をしっかり固めたうえで、積極的にコミュニティに参加してビジネス価値向上を狙う「攻め」に踏み込んだ「オープンソース戦略」が不可欠です。このオープンソース戦略は、すべてのビジネスパーソンが関わることで効果が高まります。トップマネジメント(経営層)が戦略を理解し、ミドルマネジメント(マネージャー)がオープンソースを自分事として捉えて戦略・戦術を回し、そしてエンジニアがコミュニティで活躍しビジネス価値をもたらす、という一連のつながりが欠かせません。

 オープンソース戦略の全体像は、世界のコミュニティの中で暗黙知として共有されており、国内だけで学ぶことは難しい状況です。そこで、グローバルなオープンソース団体の理事や日本の顔としてコミュニティで長年活動してきた執筆陣が結集し、日本企業が実践すべき「オープンソースの利活用」についての教科書をまとめることにしました。本書を読むことで、(1)オープンソースやコミュニティの基礎知識を得て、(2)世界で実践されている最新の「守り」と「攻め」のオープンソース戦略を体系的につかみ、(3)明日から実践できる形に落とし込めるようになるはずです。

本書の対象読者

 デジタル(IT)を活用して成果を出したい「すべてのビジネスパーソン」を対象としています。

トップマネジメントの方々
 オープンソースがなぜ世界を変えるほどの力を持ったのか、企業経営にとってのオープンソースのリスクとチャンスを知ることができます。また、企業として効率よくオープンソース戦略を推進するための組織であるOSPO(Open Source Program Office)の必要性もお伝えします。

ミドルマネジメントの方々
 守りのオープンソース戦略の実践である「オープンソース管理」の方法論を学ぶことができます。また、攻めのオープンソース戦略が、担当する事業にどのような価値をもたらすのか、そしてそれを組織としてどのように実行するのかの方法論を知ることができます。

実務者・エンジニアの方々
 オープンソースに関するリスクに対処するための前提知識であるライセンスやSBOM(エスボム)(Software Bill of Materials)の基礎を習得できます。また、コミュニティで世界のトップエンジニアと協同し、自らを高めるための手法とその具体的な始め方を学ぶことができます。

本書の構成

 本書は、ビジネスにおけるオープンソース利活用について、経営層から実務者・エンジニアまでの幅広い読者が、必要に応じて各章を選んで読めるよう構成しています。本書は6つの本章と補章から成り立っており、「守り」と「攻め」の両面からオープンソース戦略を体系的に学ぶことができます。

 第1章は、すべての読者に向けて、ビジネスの視点からのオープンソースの基本的な知識とオープンソース戦略の全体像を概観します。特にオープンソースの価値を理解するうえで欠かせない「コミュニティ」について丁寧に説明し、典型的なオープンソース戦略の事例としてサムスン電子を取り上げます。

 第2章・第3章は「守り」のパートです。第2章では、すべての読者が知っておくべきオープンソースに関わるリスクと対処方法を述べた後、実務者向けに必要な基礎知識を解説しています。第3章では、守りのオープンソース戦略の実践であるオープンソース管理について、主に実務者に向けて詳細に説明します。

 第4章・第5章は「攻め」のパートです。第4章では、攻めのオープンソース戦略の類型と実行の手順を整理しています。第5章では、攻めの戦略を実行するために必要な人材育成について、実務者・エンジニア向けに解説します。

 第6章では、守りと攻めの戦略を企業として継続的に実行するための司令塔であるOSPO(Open Source Program Office)の設計と運営をソニーグループの具体例を交えて紹介します。

 補章では「オープンソース戦略の実践」を具体的に捉えていただくために3本の特別コラムを収録しています。まず、オープンソースの成り立ちと展望を先駆者へのインタビュー「オープンソースの過去・現在・未来」で説明します。そのうえでスウェーデンのエリクソンや日立製作所、そして米アマゾンのオープンソース戦略を、各社のOSPOのリーダーに具体的に語ってもらいます。「守り」と「攻め」のオープンソース戦略を自社に落とし込む際の参考になれば幸いです。

【目次】

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