その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は飛田雅則さんの 『資源の世界地図』 です。

【はじめに】

 2020年に現れた2羽のスワン(白鳥)―。

 金融市場ではめったに起こらないが、発生すると甚大な被害をもたらすリスクを「ブラックスワン(黒い白鳥)」と呼びます。世界で猛威を振るった新型コロナウイルスは多くの人命を奪いました。未曽有の景気後退をもたらし市場は混乱。ブラックスワンの飛来と言ってもいいでしょう。

 一方、国際決済銀行(BIS)とフランスの中央銀行は2020年1月、「グリーンスワン〜気候変動時代の中央銀行と金融安定」と題する論文を発表しました。気候変動リスクをグリーンスワンと表現し、災害だけでなく、産業構造の変化で事業や資産の価値が損なわれ、金融危機を引き起こす恐れがあると警鐘を鳴らしたのです。

 2020年は地球温暖化防止の国際的な枠組みである「パリ協定」が実施段階に入った年です。平均気温上昇を産業革命以前と比べ2度より十分低く保ち、1・5度に抑える努力をするという取り組みですが、イノベーションや、社会・経済の大胆な改革が必要です。

 世界はコロナ禍の被害、そして気候変動がもたらしうるリスクに挑み始めたのです。欧州連合(EU)は環境投資をテコに経済復興を狙う「グリーンリカバリー(緑の復興)」に乗り出しました。中国や日本も追随。バイデン政権によって米国も環境重視にカジを切っています。

 電気自動車(EV)、再生可能エネルギーの普及を目指し、エネルギーの主役だった石油など化石燃料から、クリーンエネルギーへの転換が進んでいます。「石油の時代の終わり」の始まりが現実味を帯びています。

 20年超も産油国サウジアラビアの石油相を務め、2021年2月に死去したアハマド・ザキ・ヤマニ氏は「石器時代は石がなくなったから終わったのではない。石に変わる技術が生まれたから終わった。石油も同じだ」と述べたことがあります。青銅器や鉄器が石器を時代遅れにさせたのです。楽観的かもしれませんが、イノベーションは活発になっておりエネルギー転換や脱炭素は着実に進むでしょう。

 日本は石油をサウジなど中東からの輸入に依存してきました。エネルギー転換が進めば、石油輸入は減ります。一方、EVや再生エネに必要な銅などベースメタルや、レアメタル(希少金属)などの重要性は高まります。埋蔵地域の偏在や政情不安など課題があります。米国の覇権に挑む中国は資源の獲得に積極的で、資源を外交の武器として使う姿勢を崩してはいません。日本は石油の調達では中東のリスクを考えればよかったのですが、脱炭素によって複合的な資源調達リスクに直面しうるのです。

 エネルギー転換によって資源国や消費国がどのようなリスクに向き合っていく必要があるのか。本書はそれを読み解こうという試みです。読者が興味のある章から読み始められるように基本事項について重複をいとわず説明しました。資源が抱える諸問題を理解する一助になれば幸いです。


【目次】

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