その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は辻太一朗さん、曽和利光さん、細谷修平さん、矢矧春菜さんの『 コツコツがんばる人の就活内定戦略 「学業」でわかるあなたの強み 』です。

【はじめに】

 この本を手に取ってくださったみなさんは、「就職活動」というものに不安を感じていらっしゃるかもしれません。
 新卒採用の就職活動ほど、現在大きく変化しているものはありません。これから就職活動にのぞむ学生やその親は、いったいどのようにして就職先を見つければいいのかと悩んでいるでしょう。
 人手不足を背景に、今は「売り手市場」と言われています。つまり、どの企業も新卒の学生に入社してもらいたくて、人の取り合いになっています。そんな状況では、確かに「どこかに内定をもらう」ことは難しくはないのかもしれません。
 しかし、当然のことながら、内定をもらえればどこでもいいわけではありません。
 最近は、新卒で入社した若者がすぐに会社を辞めてしまった、というニュースがメディアを賑わせています。「退職代行」の業者を利用して新入社員が辞めることもあるそうです。
 学生やその親にしてみれば、せっかく入った会社をすぐ辞めてしまうなどという事態は避けたいと思うでしょう。そうならないためには、どうすればいいのでしょうか?
 入った会社をすぐ辞めてしまうのは、ミスマッチがあるからです。企業と新入社員の間で、お互いに「こんなはずじゃなかった」と思うような事態になってしまっているのです。
 学生は、長い時間をかけて自分の就職先を選んでいます。企業も、自社に合った、入社後に伸びるであろう学生を、コストをかけて選んでいます。それなのに、なぜこのようなミスマッチが起きてしまうのでしょうか?

新卒採用の仕組みが機能しなくなっている

 実は、今ほどこうしたミスマッチが起きやすい状況はないと言えます。
 なぜなら、企業が長らく新卒採用のために利用してきた仕組みが機能しなくなっているからです。
 新卒採用では、ウェブを通じて「エントリーシート(ES)」をまず提出し、それを基に選考が行われます。ESの選考を通過すると、数回の面接やグループディスカッションなどを経て内定に至るというのが一般的な流れです。また、インターンシップで職場での仕事を経験してもらい、それを選考の参考にする企業もあります。
 問題は、今、学生が積極的に「生成AI」を利用しているということです。AIにお願いすれば、ESに書ける立派な自己PRや志望動機をあっという間に用意してくれます。面接で聞かれそうな「想定質問」や、それに対する「模範解答」も、AIなら簡単に考えてくれるでしょう。
 企業にしてみると、学生がESに書いたことや面接で話していることが、本当にその人が考えたことなのか、それともAIが考えたことなのか、見分けがつきません。つまり、最も大切な「その学生がどんな人なのか」ということがわからず、それゆえミスマッチが起きてしまうのです。
 「学生から送られてくる膨大なESがどれも似たり寄ったりで選考できない」と嘆く人事担当者もいます。
 ESや面接の質問事項を従来とは変えることで、なんとかこの事態を打開しようとしている企業もあります。しかし、「こうすれば確実に応募者がどんな人なのかがわかる」という決定的な解決策には至っていないのです。

学生の本分である「学業」をアピールする

 企業は、応募してきた学生がどのような人なのかをなんとか見極めようと、さまざまな試行錯誤を続けています。
 その中でも、有力な方法だとして現在1つの大きな流れになっているのが、「学生が大学で取り組んでいる学業を選考のアピールポイントにする」というものです。
 考えてみれば不思議な話で、「学業」は学生の本分であるはずなのに、面接ではそれほど質問されてきませんでした。どんな授業をとり、どうやって努力をして単位を取得したのか。学生時代のかなりの時間を割いて取り組んでいるのですから、それらのエピソードにはあなた自身がどのような人間なのかを示す情報がたくさん含まれているはずです。
 それなのに、就活で定番の質問である「学生時代に力を入れたことは何ですか?」いわゆるガクチカを聞かれたときの定番の答えは、なぜかアルバイトやサークルなどの課外活動に偏っていました。おそらく、先輩がバイトやサークルなどのガクチカエピソードで内定を勝ち取り、それが「成功体験」として受け継がれていったのでしょう。しかし、今では人事担当者は、AIによって作られた膨大なバイトやサークルのガクチカエピソードを面接で学生から聞かされるはめになり、頭を抱えているのです。

 そうはいっても、学生のみなさんからしてみれば、面接で学業をアピールポイントとして話していいのだろうか、と心配になるかもしれません。本当に、自分が授業に出たり、レポートを書いたり、単位を取った話をして、面接官は聞いてくれるのだろうか。それが就活のスタンダードになっているのだろうか……。
 安心してください。学生の学業における取り組みを選考で重視しようと考える企業が増えているという証拠があります。
 株式会社履修データセンターが提供する「履修DB -α」というシステムがあります。これは、学生が自分で履修データを登録し、それを企業側が参照して選考に活用するというものです。このシステムをすでに導入している企業は約600社にのぼり、しかも影響力のある大手企業が数多く含まれているのです。
 このシステムを利用すると、企業側はその学生がどのような授業をとってどのような成績だったのかがわかります。学業への取り組みを選考の参考にできるというわけです。

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今の学生は授業にきちんと出席し課題もこなす

 学業への取り組みを基に企業が選考するのには、多くのメリットがあります。
 そもそも、今の学生は、大学にきちんと通って授業に出席し、課題もたくさんこなしています。親の世代であれば、「毎日大学に行かなくても単位はもらえるだろう」と思うかもしれませんが、出席はきちんとチェックされ、レポートなどの提出も厳しく求められるのが現状なのです。
 学生の本分である学業に多くの時間を割かなくてはならないので、バイトやサークルも充実させようと思ったら、かなり要領よくやらなければなりません。
 ここで矛盾が生じます。高校までは勉強をコツコツがんばって良い成績を収めてきた人でも、大学に入ったら「就活でガクチカのエピソードが必要になる。バイトやサークルでどんな経験をすればいいだろうか……」と、エピソード作りのためにわざわざ何か課外活動をやろうとするのです。
 もちろん、バイトやサークルを通じて学生が成長することは間違いありません。それを面接で話すことにも意義があります。しかし、そういった課外活動は、本来自分がやりたいことを選んでやるものです。「面接でウケそうなガクチカエピソード」を作るために活動をやるというのは、本末転倒ではないでしょうか。
 それよりも、学生時代にたっぷり時間を使って取り組んだ学業について話すことで、あなたがどのような人間かを伝えるほうが、健全なことではないでしょうか。

 本書は、これまであまり語られてこなかった、「学業への取り組みを自己PRに活用して、自分に合った志望企業の内定を勝ち取り、充実した社会人生活を送る」ための戦略を解説する本です。
 また、本書はこれから就職活動にのぞむ学生の親が読むことも想定しています。
 就職活動については、親が重要な役割を担うことが増えてきました。企業が内定を出した学生の保護者(親)に対して入社の同意を得ることを示す「オヤカク」という言葉もあるくらいです。
 もちろん、就活は学生が行うもので、親ができることはサポートしかありません。しかし、親も現在の就職活動について学び、情報を収集して手助けすることで、本人にとって望ましい就職先を見つけることができたら、それに越したことはありません。
 就活については、先輩から聞いた体験談や、ネットに書かれたノウハウを参考にしがちです。だからこそ、ガクチカのエピソードとしてバイトやサークルの話ばかりが繰り返されてしまう。そこで、「学業を面接でPRすることもできる」という新しい情報を親が知り、子どもと共有することができたら、意味のあるサポートにつながるはず。
 学業についてアピールするのは、真面目にコツコツがんばるタイプの学生のほうが向いているでしょう。子どもが「大学に入ったら勉強をがんばりたい」と思っていたのであれば、「それを就活でもアピールできるんだよ」と親が後押しできるわけです。

自分の「どこでも通用するスキル」に気づく

 現在は転職がごく普通のこととなり、新卒で入社した会社に定年まで勤めようと思う人は少なくなってきました。そうなると重要になってくるのが「ポータブルスキル」です。ポータブルスキルとは、業種や職種が変わっても役に立つ、〝持ち運び〟ができるスキルのこと。つまり、その会社の中だけで通用するのではなく、どこに行っても発揮できる汎用性の高いスキルのことです。
 言ってみれば、学生が新卒で入社する会社に期待したいのは「自分のポータブルスキルを伸ばしてくれるところ」ではないでしょうか。そういう観点から企業を選びたいと、多くの学生やその親は感じているはずです。
 そして、学生は大学での学業を通じて、実はすでにポータブルスキルを発揮しています。毎日大学に行って授業に出席する。期限までにレポートを提出する。他の学生と協力してグループワークを行う。こうした場面で発揮されるスキルは、そのまま社会人になって会社で働くときにも活用できるものです。
 ですから、自分が学業ですでに発揮しているポータブルスキルに気づき、それを就活でアピールすればいいのです。
 そこで本書では、「学業で発揮されるポータブルスキル」、つまり「学ポタ」に着目し、それを基に就職活動を行う方法について解説していきます。自分がすでに備えている学ポタがわかれば、「これから会社の中で働きながらこういうスキルで貢献できる」という自己PRに説得力が生まれます。
 とはいえ、自分がどんな学ポタを備えているのかわからない、と思う人も多いでしょう。でも大丈夫です。詳しくは後ほど解説しますが、自分の履修履歴(成績表)を見て、自分がどのように単位を取ったのかを思い出せば、あなたの強みが浮かび上がってきます。また、先ほど紹介した履修DB‒αを利用すれば、企業側も学生の学ポタとその裏付けを参照して確認することができるのです。

 このように、学ポタを活かした就活に取り組む環境が整ってきました。
 本書は、学ポタによる就活を推進したいと考える人事と採用のプロ4人によって執筆されたものです。
 学生が、その本分である学業にしっかりと時間を割き、それを基に就職活動を行い、希望の就職先を見つける。これは、いわば「就活本来のあるべき姿」ではないでしょうか。
 1人でも多くの学生が、そのような理想の就活を実現することに、本書が貢献できたらうれしく思います。

2026年6月 著者一同


【目次】

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