その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は小林弘幸さんの 『リセットの習慣』 です。
はじめに◎なぜ今リセットが必須なのか
「リセット」という言葉には希望が見える。
本書の執筆にあたり、私はいつもこのことを意識してきました。
私たちは日々生活する中で、常に「調子がいい」「体調がいい」「気持ちが晴れやか」というわけにはいきません。
日常にはストレス要因があふれていますし、体調を崩す機会もたくさんあります。
対人関係に悩まされる瞬間を数え上げればキリがありませんし、残業が続いて心身ともに疲れてしまうこともあるでしょう。自分自身や家族、友人などに心配事があり、眠れない日もあるはずです。
そうやって私たちは心身の調子を狂わされてしまいます。
そもそも人の体は「流れに乗る」のは得意ですが、「流れを変える」のはあまり得意ではありません。自律神経はまさにその代表格で、何かイヤな出来事があるとその瞬間から「悪い流れ」が始まり、そして続いてしまいます。
自律神経が乱れ、悪い流れが始まるとどういうことが起こるのか。その「流れ」を追いかけてみましょう。
まず呼吸が浅くなり、血流が悪くなります。
すると、酸素や栄養が十分に脳やその他の器官に運ばれなくなり、冷静な判断ができなくなったり、感情のコントロールが利かなくなったりします。
そうなると、余計なことをいってしまうリスクも高まり、人間関係をさらに悪化させ、「ああ、余計なことをいってしまった」と落ち込み、自律神経をいっそう乱してしまうのです。
あるいは「なんとなく体の調子が優れない」と思いながら仕事をすることになるので、集中力が落ち、パフォーマンスは下がります。仕事の質が下がったり、思うようにはかどらなかったりすると、イライラしたり、時間がなくなって焦ってきたりもするので、さらに自律神経は乱れていきます。
まさに「悪い流れ」にどんどん乗ってしまっている状態です。
そんな状態が続いていると、当然体にも影響が出てきます。頭痛がしたり、首や腰など体のあちこちが痛くなったり、慢性的なダルさを感じるケースも多いでしょう。
人の体は「流れに乗る」のは得意だが「流れを変える」のは苦手
そんなとき多くの人は「ああ、疲れているんだな」「ゆっくり休もう」と思うのですが、意外にすんなりと休むことができません。
体はダルさを感じていても、自律神経が乱れていると、十分に副交感神経が上がってこないためリラックスして休むことができないのです。
そうやって睡眠の質が悪くなり、翌日も「悪い流れ」を引きずってしまう。
こうして見ていくとわかる通り、人の体は「流れに乗る」のは本当に得意ですが、「流れを変える」のはとても苦手。日常のちょっとした出来事により、私たちの体は簡単に「悪い流れ」に引きずり込まれてしまうのです。
そんな私たちを救ってくれるのが「リセット」です。
心と体をよい状態に保つ上で、もっとも大事な意識が「リセット」だといっても過言ではありません。
リセットの基本的な考え方は「悪い流れを断ち切り、いい流れに変える」こと。
イヤなことが起こったり、ストレスのかかる瞬間に出会うことは原則として避けられません。大事なのは、その悪い流れに引きずり込まれないように流れを断ち切り、いい流れに変えることです。
リセットの意識を持ち、リセットするためのノウハウを知っていれば、心身の状態をいい流れへと変えることができます。
本書ではそんな「リセットの考え方やノウハウ」をたっぷりと99個に分けてお伝えします。
体には「悪い流れ」が残っている
私たちは2020年以降、新型コロナウイルス禍の中での生活を続けてきました。新型コロナウイルスの感染拡大によって生活様式の大きな変化を余儀なくされた人も多いはずです。
現在は、そうした新しい生活様式にも慣れ、「以前のような日常が戻ってきた」と感じている人もいるでしょう。たしかに、感染者数が激増し、緊急事態宣言が頻繁に発出されていた頃に比べれば普通の生活が戻ってきたといえます。
しかし、私たちの心や体が以前のような「いい流れ」に戻っているかといえば、決してそうではありません。
私は医師として日々多くの患者さんと向き合っていますが、やはり2年半以上続いたコロナ禍の「悪い流れ」がじわじわと続いているように感じます。
自律神経の乱れによって生活習慣病が悪化している人は大勢いますし、原因はよくわからないけれど、なんとなく体に力が入らない、眠れない、朝の目覚めがよくないなどの症状を訴える人も少なくありません。
メンタル不調を訴え、うつ病など精神のつらさを感じている人も以前に比べて増えています。「コロナ×こどもアンケート」(国立成育医療研究センター)によると、中等度以上のうつ症状があるこどもの割合は、高校生で30%、中学生は24%、小学4〜6年生で15%にのぼるとされています。
感染者数や人流だけでなく、さまざまなところにコロナの影響は出ていますし、見えないところで続いています。
状況が落ち着いて、一見すると以前の日常が戻ってきているようにも感じますが、私たちの体はそんなに簡単に「流れを戻すこと」ができていません。
先に述べたように、人の体は「流れに乗る」のは得意ですが、「流れを変えること」がとにかく苦手だからです。2年半以上続いた「悪い流れ」を私たちはあまり意識しないまま、じんわりと引きずってしまっているのです。
ここでも私たちには「リセット」が必要です。
2年という月日は、私たちの意識や考え方、生活習慣や体の状態を変えてしまうのに十分な時間です。
「戻す」ではなく「新たに始める」
といって、私は「完全に以前の生活を取り戻そう」といいたいのではありません。
むしろ、今の環境や生活様式を踏まえつつ、新しい「自分なりの生活」や「生き方」をつくっていく。そんな意識が必要だと考えています。
そこで大事なのが「ちょっと強めにリセットする意識」です。
たとえば、本書では「新しい趣味や生活習慣を取り入れること」や「大胆な模様替えをすること」などもおすすめしています。
今という時期は「なんとなく続けていること」から「思い切って変えてみる」「今までやらなかったことをやってみる」という強めのリセットが必要なのです。
今、私たちが意識すべきは「戻す」ではなく「新たに始める」。
「なんとなく変える」ではなく「思い切ってリセットする」です。
これまで体調や心の状態があまり優れなかったとしても、何も心配はいりません。
リセットの意識を持てば、まさに今から新しい生活を始めることができます。
人生をリセットする!
そしてもうひとつ、本書で伝えたい大事なテーマがあります。
それが「人生のリセット」です。
近年は「人生100年時代」といわれ、言葉通り、私たちの寿命が伸びていることは間違いありません。
しかし、平均寿命と健康寿命という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
平均寿命とは、いわゆる寿命のことで何歳まで生きたかを平均したものです。
一方、健康寿命とは、健康上の問題で制限されることなく生活できている年齢を指します。端的にいえば、「元気に暮らせている年齢」。
3年ごとに厚生労働省の発表しているデータによれば、令和元年の日本人の平均寿命は「男性81・41歳」「女性87・45歳」。しかし、これが健康寿命になると「男性72・68歳」「女性75・38歳」。平均寿命と健康寿命には約「9〜12歳」ほどの差があるのです。
この差を完全になくすことはむずかしいとしても、できるだけ縮めていくことは重要です。そのために私たちがもっとも意識するべきことは何か。
これもまた「リセット」だと私は考えます。「自分の人生を今からリセットする」という前向きな意識です。
私は本書で「ゴールではなく、スタートを目指して生きる」というメッセージを何度となく伝えていきます。
たとえば、あと一年で定年を迎えるとしたら、あなたはどんな気持ちになるでしょうか。きっと「ああ、あと一年で終わる」と思うのではないでしょうか。
たしかに、会社員人生はそこで終わりかもしれません。しかし、それは終わりではなく、新たなスタートの瞬間でもあります。
あと一年で終わるなら、そこから何を始めるか。
そのために、今からどんな準備をするのか。まさに今がリセットの瞬間です。
これは何も定年間際の人に限った話ではありません。50代であれ、40代であれ、もっと若い人やもっと年齢を重ねた人にとっても、常に「今がリセットの瞬間」です。
今から、あなたは何を始めますか。
私は本書でそのことを問いかけていきたいとも思っています。
今、どんな境遇にいる人も、間違いなく今が一番若い。もし「何かを始めるタイミング」があるとしたら、今以上に適した瞬間はありません。
そして、今、何かを始めたら、あなたの人生は変わり始めます。
あなたが望む方向に小さな一歩を踏み出せば、まさに今がリセットの瞬間となり、望む未来に近づいていきます。
どうですか。ワクワクしてきませんか。
私は現在62歳ですが、これから30年にわたる自分のビジョンを描いてワクワクしています。これまでの経験があるからこそ、これから向き合えるテーマやジャンルが見えてきて本当に楽しみでなりません。
私自身、人生のリセットのタイミングを迎えていますし、それはあなたも同じです。
未来に向かってワクワクして生きることは、自律神経を整えることにもつながりますし、健康な心と体をつくることにもつながります。
自分の未来に希望を持っているからこそ元気でいられますし、逆に「元気でいよう」と日々のコンディショニングへの意識も高まります。
「リセット」は、今から「ワクワクする人生」を開始する合言葉でもあります。だからこそ、私は「リセット」という言葉に希望を見ているのです。
2022年7月 小林弘幸
【目次】