その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は安藤徳隆さんと竹居智久さんの『 日清食品をぶっつぶせ 』。安藤さんの「おわりに」と竹居さんの「はじめに」をお届けします。

【おわりに】
日清食品ホールディングス副社長・COO/日清食品社長 安藤徳隆

 本音を言えば、書籍を出すつもりはありませんでした。

 私は日々、新しいやり方を探しています。言葉にしたとき、文章に落としたとき、そして書籍として形になったとき……既にやり方を変えている可能性が高いと思ったのです。

 それでもいい、と何度も(共著者の)竹居(智久)さんに言われ、根負けしてつくったのが本書です。繰り返しインタビューを受けて、自分の思いを包み隠さず話しました。過去をあまり振り返らない私にとって新鮮な時間でもありました。

 私の根本的な考え方や、これまで取り組んできたことを一通りまとめることができたと思います。しかし、これを「勝ちパターンだ」と言うつもりはありません。私自身、経営の面でもマーケティングの面でも、ここに書いてあるやり方を常に塗り替えていこうとしています。既に否定しているから書けなかったこともあります。

 自ら創造し、自ら破壊する──。その姿勢こそが、今の日清食品の経営だと思っています。本書を手に取ってくださった皆さんに、それが伝われば何よりです。

 本書の刊行に当たり、まず、日々やり方を変えていくことに対して前向きに取り組み、その変化を楽しんでくれている社員に感謝します。この本に書かれていることは、私1人では決してできません。このスピード感や方針転換に付いてきてくれる社員がいてこその日清食品です。

 そして、私が経営者としての仕事を楽しめる土台を築いてくれた創業者・安藤百福とCEO・安藤宏基に感謝します。2人がつくり上げた商品とブランドが、私の挑戦の幅を広げてくれました。

 それから、今の私の考え方の基礎をつくってくれた佐藤可士和さんと山脇秀敬さんに深く敬意を表します。

 私は経営者として、クリエイターとして、そして個人として、24時間、狂ったように走り回っている自覚があります。そんな私を支えてくれる家族と友人たちにも感謝の意を伝えなくてはなりません。思い立ったら動かずにはいられない私のテンションに付き合ってくれたり、行き過ぎる前に止めてくれたりする、信頼できる人たちが周りにいるから、常に挑戦できるのだと思います。

 最後に、インタビュアーとして私の考え方を聞き取り、まとめてくれた日経BPの竹居智久さん、本書のきっかけとなった2022年の日経ビジネス特集「日清食品3代 破壊の遺伝子」を執筆した日経ビジネスの江村英哲さん、書籍化の作業に関わってくださった関係者の皆さんにも感謝いたします。

 日清食品の経営者としてやるべきことは尽きません。もっと大きくしなければならないし、永く続く会社にしていくつもりです。「日清食品は次のステージに行った」と確信を持って言えたときに、皆さんにはあらためて本当のお礼を伝えたいと思っています。

 これからも続く日清食品の挑戦に、ぜひ期待してください。

2025年7月 安藤徳隆


【はじめに】
日経BP 竹居智久

 4年前のことです。経済誌「日経ビジネス」の副編集長を担当していた私のところに、1人の記者が「編集長インタビューで日清食品の安藤徳隆(あんどうのりたか)さんを取り上げたい」という提案を持ってきました。編集長インタビューは、日経ビジネスの編集長が著名経営者と向き合い、今の経営戦略や経営者としての哲学などに迫る看板コラムです。

 正直に申し上げると、記者からの提案を聞いて最初に浮かんだのは「まだ早いんじゃないか」という気持ちでした。徳隆氏は当時、日清食品ホールディングス(HD)の副社長になって5年、中核事業会社である日清食品の社長になってから6年が経過したタイミング。日清食品HDの経営者と言われたら多くの人が社長・CEOの安藤宏基(あんどうこうき)氏の顔を思い浮かべるであろう時期に、無理して取り上げる必要はないのでは──。そう思ったのです。

 ところが、その提案を持ってきた江村英哲(えむらひであき)記者に、ひるむ様子はまったくありません。日清食品HDの業績が右肩上がりで伸びていること、CMづくりで定評がある日清食品のCMが近年さらにとがってきていること、そして今の「最適化栄養食」事業につながるコンセプトを新規事業として打ち出していることを、畳みかけるように説明してきました。その中心に徳隆氏がいるということも。

 さすがは日々、取材先を飛び回っている記者です。熱を込めた話を聞いているうちに、がぜん興味が湧いてきました。実際に調べてみると、確かに面白い。日清食品の創業者である安藤百福(あんどうももふく)氏の孫で、宏基氏の息子である3世代目の若き経営者はいったい何を考え、どのように経営しているのか。当時の磯貝高行編集長から承認してもらい、編集長インタビューを敢行することになりました。

 ただ、その期に及んでも私は徳隆氏のことを「CMづくりがうまいマーケター」だと捉えていました。

 2021年11月、新宿区にある日清食品HD東京本社ビルでのインタビューに同席した私は、自分の不明を恥じることになりました。「この人はマーケターの枠では収まらない。新しい世代の経営者を代表する人物になるのではないか」。そんな予感とともに日清食品HD東京本社を後にしたことを覚えています。

 このインタビューで徳隆氏は壮大な目標を口にしました。その年に初めて打ち出した最適化栄養食事業の可能性について、「もう1つ日清食品ができるくらいの規模になる」と語ったのです。

 当時は日清食品HDのグループ売上高が5000億円を突破したところでした(21年3月期。報告セグメントにおける「日清食品」の売上高は2056億円)。創業から60年かけてようやく到達した事業規模です。まだ商品も投入していない新規事業がそれに匹敵するようになるというビジョンは、にわかには信じられません。最初は「ただの強がりではないか」と思いながら聞いていました。

 ところが、インタビューが続くにつれて、その説得力がどんどん増していくのです。徳隆氏が示したのは、消費者が好きなものを食べていたら、自然に健康になっていくという未来です。「最高にジャンクで、最高にヘルシーなもの」を、日清食品だから提供できると熱く語りました。話を聞いているうちに一連のビジョンがカチッとはまっていくような心地よさは、「現実歪曲(わいきょく)フィールド」と呼ばれた米アップルのスティーブ・ジョブズ氏のプレゼンテーションのようでした。

 新世代の経営者を代表する人物になるかもしれないという思いは、翌年5月に日経ビジネスの特集「日清食品3代 破壊の遺伝子」を編集した後も変わりませんでした。特集記事の執筆を担当した江村記者も同じ気持ちだったといいます。

 ドラッカーは著書『マネジメント』でこう記しています。

 「企業の目的は顧客の創造である。したがって、企業は二つの、ただ二つだけの企業家的な機能をもつ。それがマーケティングとイノベーションである」

 ユニークなCMや商品を駆使するマーケティングと、最適化栄養食のような新規事業を生み出すイノベーションの両輪を強烈に回し、日清食品をユニークたらしめ、実際に成長させてきた徳隆氏。その経営スタイルの裏側にある徳隆氏の考えとはどんなものなのか、そもそも徳隆氏はどんな人物なのか──。

 そんな疑問を抑えきれなくなって、徳隆氏への密着取材ができないかと日清食品HDに頼み込んだのが23年のこと。その結果として生まれたのが本書です。

 何度も徳隆氏に時間を確保してもらい、その考え方や心のうちを徹底的に掘り下げていきました。四半世紀ほど前の学生時代に同じキャンパスに通う時期が少しだけ重なっていたという偶然もありました。そんな縁もあってか、徳隆氏は私の質問に対して、正直な気持ちをざっくばらんに語ってくれました。1年半にわたって繰り返したインタビューは、延べ20時間以上に及びます。

 本書は、取材した私が地の文を書き、徳隆氏の発言を書体を変えて示す形でまとめました。発言の本心をなるべく正確に伝えるために、徳隆氏がインタビューで語った言葉をほぼそのまま引用しています。その語り口から伝わるニュアンスも徳隆氏らしさを表していると考えたためです。なお、百福氏や宏基氏と混同しないよう、安藤徳隆氏のことを「徳隆氏」と表記しました。

 本書のタイトル「日清食品をぶっつぶせ」は、かつて宏基氏がぶち上げた「カップヌードルをぶっつぶせ」のオマージュであり、創造と破壊を続けることを自らに課した徳隆氏の決意表明でもあります。

 徳隆氏の発言の数々には、経営やマーケティング、イノベーションに興味がある方々にとって参考になるであろう考え方がたくさん詰まっています。そして言葉の端々に表れる、真摯に仕事と向き合う姿勢に何度もハッとさせられました。日清食品の行動規範「日清10則」の1つである「仕事を楽しむのも仕事である。それが成長を加速させる」を地で行く徳隆氏の言葉は、働くことの楽しさや充実感について考えるきっかけにもなるでしょう。

 今の日清食品のユニークさの裏にあるのは、徳隆氏の経営者としての覚悟とこだわりです。商品や会社に対する「執着」とも言えるかもしれません。

 米インテルを世界的な半導体企業に育てたアンディ・グローブ氏は「Only the paranoid survive (偏執狂だけが生き残る)」という言葉を残しました。その言葉を思い起こさせるような新世代の経営者の“熱さ”を本書で感じてもらいたい。そう願っています。

2025年7月 竹居智久


【目次】

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