その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はNHKで数々の恐竜番組を手掛けてきた植田和貴氏の『 NHKスペシャル 恐竜超世界 IN JAPAN 』です。
【はじめに】
日本で恐竜化石の発見が初めて報告されたのは岩手県。今から40年以上前、1978年のことだった(1934年にニッポノサウルスは当時日本領だったサハリンで見つかっている)。その後、熊本県、石川県など、日本各地から少しずつ恐竜化石が見つかっていく。あの福井県でも1980年代に本格的な発掘が始まり、フクイサウルス、フクイラプトルなど恐竜化石が相次いで見つかった。2000年には、福井県立恐竜博物館が開館し、恐竜を主とする博物館として、世界トップクラスのものとなっている。
NHKの番組ディレクターである私が恐竜に関する取材を始めたのは2005年。その当時、“日本の恐竜界隈”は、上で述べたような状況だった。福井県立恐竜博物館にも取材に訪れ、当時どうしても取材したかった中国の恐竜研究者を紹介していただいたこともあった(自著『ダーウィンが来た! 生命大進化 第2集』で詳しく紹介)。
ところが翌年の2006年、兵庫県から“21世紀初”ともいえる「大きな狼煙」が上がった。「兵庫県丹波市で巨大恐竜、丹波竜の化石が見つかった」というニュースが全国を駆け巡ったのだ。「巨大恐竜の全身骨格が眠っているのでは」と話題となり、発掘現場にマスコミが駆け付けた。最終的に丹波竜は全身の3割もの化石が見つかったし、周囲から当時生きていた別種の恐竜も数多く見つかった。丹波竜発見をきっかけに兵庫県も福井県に並ぶような日本屈指の恐竜王国へと上り詰めていったのだ。
さらに、日本の恐竜界隈を盛り上げる次なる狼煙が北海道から上がった。日本初となる大型恐竜の全身骨格発見の知らせだ。恐竜の名はカムイサウルス(愛称はむかわ竜)。2017年に見事な全身骨格の全貌が公開されると大ニュースとなったのだ。
しかも陸上の動物であるはずの恐竜カムイサウルスの化石が「海の地層」から見つかった点が大きかった。「恐竜は陸の生き物なので、海の地層からは見つからない」という常識を大きく変えたからだ。実は日本には「恐竜時代に海だった場所の地層」が多い。そのため、「海の地層からも恐竜の化石は見つかるかもしれない」という常識の転換、ある種のパラダイムシフトは大きかった。この“新常識”が恐竜学者や化石愛好家たちに植え付けられたことで、「北海道芦別市のティラノサウルス類」や「香川のハドロサウルス類」など、海の地層から見つかった恐竜化石の報告が増えていったのだ。
本書は、こうした複数の狼煙を経て今、加速度的に盛り上がりを見せている日本の恐竜化石研究の最前線を、私の約15年に及ぶ番組制作を通じて得た取材成果を軸にしてまとめ上げたものである。特に今世紀に入って上がった“狼煙”である丹波竜やカムイサウルスの発見、その後の研究の歩みはまさに“目撃者”として取材をしてきた自負がある。
長年の取材通して感じていることは、日本の恐竜研究は恐竜学者の力に、化石愛好家を筆頭とする「恐竜を愛する一般の人々」の熱意が強烈に合わさることで“独自の巨大な力”が生み出され、前進している点だ。この本を通して、今日の日本の恐竜研究が、恐竜学者だけでなく、多くの一般の人々の熱意の総体で形作られていることを、少しでも感じ取ってもらえれば幸いだ。
NHKエンタープライズ自然科学部
シニア・プロデューサー
植田和貴
【目次】