その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は磯達雄さん、宮沢洋さんの『 絶品・日本の歴史建築[西日本編] 』です。

【はじめに】

 2020年、世界の価値観は大きく変わった。旅のスタイルも大きく変わるかもしれない。
 しかし、この新書版をつくるに当たり、各建物の記事を読み返して、「これらの感動は変わらない。むしろその意味を増す」と感じた。


 文章担当の磯達雄と、イラスト担当の宮沢洋が西日本にある歴史的建造物(歴史建築)を実際に訪れ、特に心を動かされた29件を選んでリポートしたのが本書である。
 単行本版(タイトルは『旅行が楽しくなる日本遺産巡礼 西日本30選』)を発刊したのは、2014年。前書きはこんなふうに始まる。「世界遺産が注目を集めている。世界遺産に登録された施設には確かにため息が出るような絶品が多いが、海外からお墨付きをもらって初めて訪れるというのは、日本人としては少し寂しい。国内には、世界遺産の登録・申請中の有無にかかわらず、必見の歴史遺産がたくさんある」。当時はメディアがやたらと「世界遺産」を煽っていた頃で、観光振興にはそれも必要と思いつつも、「日本にはそんなお墨付きとは関係なく、いい建築がもっともっとある!」というのが当時の我々の思いだった。
 そして2020年の今、海外旅行にはなかなか行きにくい状況となり、「旅に出たい」という思いが限界まで高まっている人が多いに違いない。でも国内で何を見ればいいの? やっぱり世界遺産に登録された寺社仏閣? もっと幅広く見てみたいけれど、歴史建築の知識はないし……。そんな人に、この本はうってつけだと思う。
 実は我々も、現代建築には多少の専門知識はあったものの、江戸時代以前の歴史建築に関しては素人同然だった。ここで共著者の2人が何者かを少しだけ説明させていただくと、文章担当の磯達雄は現代の建築物を中心に取材・執筆を行っている建築ライターだ。イラスト担当の宮沢(私)は、イラストレーターではなく、本業は建築専門誌『日経アーキテクチュア』の編集者(当時)。文とイラストの2人組で戦後の建築物を巡る「建築巡礼」という連載を始めたのが05年のことだ。連載が6年ほど続いて、「戦前の古い建築も巡ってみよう」と、対象を歴史建築に変えたのが11~14年だった。本書の記事は、その連載がベースになっている。繰り返しになるが、我々2人に歴史建築の知識はほとんどなく、宮沢にいたっては「法隆寺」の形もイメージできないくらいのレベルだった(75ページのイラスト参照)。
 しかし、予備知識がないゆえ、それぞれの建築での感動が新鮮だった。見た後に文献を調べて「そうだったのか!」と気づくのもまた面白かった。そして、今、新書をつくるために読み返すと、そうした感動が全くあせずによみがえる。コロナによる変化なんて、悠久の歴史から見ればちっぽけなものさ、と言われているようだ。
 旅行の計画を練る前に、あるいは「いつか行きたい旅」のために、本書をぱらぱらとめくってみてほしい。きっとこれまでの旅とは違う楽しみが発見できるはずだ。


 ちなみに、2020年は我々2人にとっても大転機で、磯と宮沢はこの春から2人で編集事務所を共同主宰している。『日経アーキテクチュア』での建築巡礼の連載は今も続く(現在は「ポストモダン+α編」)。機会があればそちらもぜひ見てほしい。

 2020年9月

宮沢 洋〔OfficeBunga共同主宰、単行本版発刊時は日経アーキテクチュア副編集長〕

【目次】

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