その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はメアリー・クレア・ヘイヴァー(著)、高尾美穂(監修)、矢羽野薫(訳)の『 科学的根拠で体と心の不調に立ち向かう 更年期大全 』です。 「読者のみなさんへ」をお届けします。

【読者のみなさんへ】

 私は産婦人科医として、病室や自分のクリニック、助産院、手術室で数えきれないほどの時間を過ごしてきました。今まさに出産しようとしている母親が闘っている声や、赤ちゃんの産声を聞き、女性の生殖機能という複雑で魅力的なシステムにかかわるさまざまな症状と向き合ってきました。厳しい研修医生活を乗り越え、臨床の現場を20年以上経験して、このシステムを理解し、女性の健康を支えることができるようになりました。自分がこの専門分野に真摯に取り組んできたことと、患者の声を聞く力に、誇りを持っていました。

 しかし、ソーシャルメディア(SNS)を使うようになって、私は初めて気づいたのです。ずっと前から大勢の女性たちが必死に声をあげていたのに、誰も耳を傾けようとしていなかったことに。

 彼女たちは必死に助けを求めてきました。彼女たち──更年期やその前後の女性たちは、日常生活を妨げるさまざまな症状に悩まされ、孤独を感じていました。配偶者や友人にサポートしてもらえないことも多く、最悪の場合、医師に症状の正当性を否定されてしまうこともあります。女性たちは孤独のなかで失望と絶望を抱えていました。

 そして、私も、彼女たちの本当の声を聴いていませんでした。自分が更年期を経験してようやく、現実として理解できるようになりました。同情するだけでなく、実体験をとおして共感できるようになったのです。汗びっしょりで眠れない夜、厄介で不健康な体重の増加、頭がもやもやするもどかしさ、深刻な抜け毛、肌の乾燥……私の日常生活は大きく混乱しました。

 私は避妊と多腺性代謝性卵巣症候群(PMOS)[多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)から名称変更]の治療のために低用量ピルを服用していたので、30代後半から40代前半にかけて、閉経移行期に向かう時期の症状が、ある程度抑えられていたようです。

 しかし48歳を前に、閉経が近いとわかっていたこともあり、主治医と相談して、ピルの服用を中止して「ホルモンの状態を確認する」ことにしました。同じころ、最愛の兄ボブが末期がんと診断され、私は彼の最期のケアに奔走して自分の体のことをすっかり忘れていました。兄の死に打ちのめされたときも、おなかに脂肪がつきはじめたことや眠れないことなど、体と心の変化の多くを悲しみのせいだと思い込んでいました。

 最初は自分が強くなれば乗り越えられると思いました。でも、毎晩のように睡眠が妨げられて、メラトニンの摂取や瞑想、適切な睡眠習慣も試したけれど、効果はありませんでした。睡眠不足のせいで日中はぼんやりとして疲れやすくなり、運動をする気力もわかず、つい健康的でない食事を選んでいました。

 まさに無気力と不健康の悪循環! 最終的にホルモン補充療法をしようと決めたのですが、今思えば、よくあるいくつかの誤解から(そして、やや見当違いの理由から)、自分が降参したかのように感じました。

 幸い、医師である私は、自分で診断して治療できる立場にあります。研究や医学的な洞察にアクセスし、栄養戦略、運動、ストレス解消法を含む包括的なケアを組み立てることができました。こうした複合的なアプローチが機能して、徐々に体調がよくなりました。自分らしさを取り戻しつつあると思えたときの安堵感は言葉にできません。

 それから間もなく、このアプローチを共有するために、ライフスタイルと栄養戦略のプログラム「ガルベストン・ダイエット」をつくりました。まずテキサス州ガルベストンにある私のクリニックでこのプログラムを始め、書籍も刊行しました。さらに、SNSで更年期について積極的に発信するようになり、今ではフォロワーが700万人を超えています。

 圧倒的という言葉では足りないくらいの反響でした。更年期の症状を改善するための現実的で実践的なアプローチを、多くの人が求めていたのです。このプログラムが多くの人を助けてきたことを、そしてこれからも助けていくであろうことを、私はとても誇りに思っています。

 それでも、助けを必要としている女性は増えつづけています。たくさんどころか膨大な数です。閉経移行期および閉経後の女性は、2030年には世界全体で12億人に達し、毎年新たに4700万人がこのステージを迎えることになります。これほどの規模で人々が声をあげて、人生でこの時期における医療ケアの標準を高めるように訴えたら、どんなに大きな力になるでしょうか。閉経を避けることはできませんが、苦しむ必要はないのです。

 更年期を取り巻く環境はすでに変わりはじめていますが、更年期医療という巨大な船が急に針路を変えることはできません。みんなで正しい方向を目指すには長い時間がかかるでしょう。でも、あなたは今、スタートラインに立っています。あなたの生活の質を高め、健やかに長生きするために役立つ情報と信頼できる戦略が、その手にあるのですから。

 私にはあなたの声が聞こえています。
 あなたの姿が見えています。

 この本はあなたのために、そして、更年期と閉経後の人生について理解を深め、サポートしたいと思っているパートナーや家族、同僚など、すべての人のために書きました。この本が女性たちの学びとなり、自分を大切にする力を与え、更年期を経験している女性たちが周囲にもっとしっかり支えられるようになってほしい。それが私の願いです。

 1冊の本は医師の診察の代わりにはならないでしょう。それでも閉経移行期、閉経、閉経後をどのように経験するかについて、これらのライフステージで自分のウェルビーイングとどのように向き合うかについて、新しい視点を知る機会になるでしょう。閉経は自然なプロセスだ、起きるべきことが起きている、体が適応するのにまかせればいい。そういう考え方もあります。でも、私はこう答えます──閉経に伴う変化は確かに自然なプロセスですが、だからといって体に害がないとはかぎらないのです。

 では、どんな害があるのでしょうか。
 体内のエストロゲン(一連の「変化」を象徴するホルモン)の分泌が自然に減少すると、糖尿病、認知症、アルツハイマー病、骨粗しょう症、心血管疾患など、深刻な病気のリスクが高まります。どのようなリスクがあって、それを軽減するためにどのような選択肢があるのか、十分な情報を得たうえで、自分に合った治療やアプローチを決めましょう。閉経移行期はあなたの健康に重大な変化が起こるという合図であり、その後の人生について納得したうえで選択できなければなりません。その選択を、ほかの誰でもない、あなたの手に取り戻しましょう。

メアリー・クレア・ヘイヴァー


【目次】

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