その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は三菱UFJ信託銀行 資産運用部 スチュワードシップ推進研究会、三菱UFJトラスト投資工学研究所(編)の『 企業価値を創るインベストメント・チェーン 対話、開示、ガバナンス、サステナビリティの実証分析 』です。「はしがき」をお届けします。

【はしがき】

 わが国では、スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードの導入以降、企業と投資家を取り巻く環境は大きく変化してきました。企業のガバナンス改革やサステナビリティ対応は着実に進展し、情報開示の「量」および「質」も、この10年で飛躍的に向上しています。一方で、そうした取り組みが企業価値の向上や受益者利益の拡大にどのようにつながっているのかについては、必ずしも十分に説明されてきたとはいえません。

 インベストメント・チェーンは、家計資金を起点に、アセットオーナー、機関投資家、企業を経由して経済全体へと資金が循環し、その成果・価値が最終的に家計に還元される仕組みです。このチェーンが有効に機能するためには、各主体が自らの役割を果たすだけでなく、その行動の成果が適切に評価され、次の意思決定へとつながることが不可欠です。しかし現実には、スチュワードシップ活動やサステナビリティ投資の成果が十分に可視化されておらず、形式的な対応に陥るリスクも指摘されてきました。

 三菱UFJ信託銀行においても、こうした課題意識のもと、2026年1月に体制の見直しを行いました。企業との対話を投資判断やポートフォリオ運営とより密接に結び付け、エンゲージメントの実効性を一層高めることを目的とし、サステナビリティ投資のエンゲージメント機能については改めて議決権行使を含む運用行為の一環として資産運用部が一体的に担うものと整理しています。

 もっとも、特にサステナビリティ投資に係るエンゲージメントの高度化に向けては、インベストメント・チェーンの全体を踏まえたテーマ設定や対話の改善が必要となり、企画部門との連携が引き続き不可欠です。中長期的なテーマ設定や評価軸、KPIの設計については、個別の運用視点にとどまらず、事業全体を俯瞰するマネジメントの関与が求められます。当社のスチュワードシップ活動は、あくまで企業価値の向上を目的とするものであり、この点が活動全体の揺るぎない軸です。

 本書は、こうした問題意識と軌を一にし、インベストメント・チェーンの各主体における行動とその成果を、豊富なデータと三菱UFJトラスト投資工学研究所(MTEC)との協働実証分析を通じて検証しています。非財務情報開示の進展、GHG排出量、ガバナンス、人的資本、取締役会の構成といった多様なテーマについて、「何が評価され、何がまだ評価されていないのか」を丁寧に掘り下げている点は、本書の大きな特長です。

 スチュワードシップ活動やサステナビリティ対応を「目的」ではなく、「企業価値向上と受益者利益の最大化に向けた手段」として捉え、その実効性を問い続ける姿勢は、実務に携わる者にとって多くの示唆を与えてくれるでしょう。本書が、インベストメント・チェーンの循環をより強固なものとし、日本の資本市場の持続的な発展に寄与する契機となることを期待し、はしがきといたします。

三菱UFJ信託銀行
アセットマネジメント事業長
常務執行役員 染谷 知


【目次】

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