その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はNTTデータ経営研究所監修の『 AI時代の未来地図 2030年の人・社会・ビジネス(日経ムック) 』です。

【はじめに】
(このムックの狙い)

 人工知能(AI)は社会変革のエンジンとなりました。
 「便利な道具」から「自律的な相棒」へ──AIは静かに、しかし不可逆的に、ビジネスと暮らしの基盤を書き換え始めています。
 2030年にどう備えるかの羅針盤として、本書をお役立ていただければ幸いです。

 生成AIという言葉が世界を席巻してから、3年が経ちました。
 2023年当時、私たちはまだ、この技術をどこか「魔法のようだが、まだおもちゃ」として見ていました。調べものをさせれば自信満々に嘘をつき、翻訳をさせれば少し不自然な日本語が返ってくる。それでも、未知の可能性に胸を躍らせ、チャット画面に言葉を打ち込んだあの日々が、今では遠い昔のように感じられます。

 この3年間で、景色は一変しました。

 AIモデルは飛躍的な進化を遂げ、単なる「便利なチャットボット」の域を遥かに超えました。推論能力を持つモデルが安価に提供され、画像・音声・動画を統合的に扱うマルチモーダルが当たり前になり、長時間にわたり自律的にタスクを完遂する「AIエージェント」が業務の現場に定着しつつあります。今やAIは、世界中のソフトウエアやデバイスをつなぐ巨大なエコシステムの中枢に組み込まれ、ビジネスの現場では「副操縦士(Copilot)」から「自律的な代行者(Agent)」へとその役割を変えつつあります。AIはもはやツールではなく、社会、経済、そして私たちの暮らしそのものを根底から駆動する「エンジン」になったといえるでしょう。

 ここで、経営者が忘れてはならない事実があります。──AIモデルの性能は、毎週のように劇的に進化し、どのモデルが優位かも数カ月単位で入れ替わっているという事実です。
 昨年のモデルの精度を前提に、データ構造化の整備に1年かけている間に、最新モデルでは整備していないデータも正確に読み取ってしまう──こうした逆転現象が、現在進行形で各社の現場で起きています。前年に立てたAI戦略が、半年後には前提から覆っている。これが2026年のリアルです。

 この変化のスピードに対応できる企業と、対応できない企業の差は、今、急速に開きつつあります。昨日リリースされた新型モデルを、その日のうちに経営者やCoE(Center of Excellence)のメンバーが触り、価値を実感し、「自社の何に応用できるか」を即座に議論する──そのスピード感がない企業は、すでに静かに淘汰の入り口に立っています。会社支給のPCに入っていて無料で使える数世代前のAIで要約や翻訳にとどまり満足している企業は、危機感を持つべきです。

 「2030年、私たちの暮らし、仕事はどうなっているのか?」──この問いは、もはやSFの話ではなく、明日にも直面する現実的な経営課題となりました。AIは、かつて蒸気機関やインターネットが登場した時以上に、産業構造、組織のあり方、そして「人間がなすべきこと」の定義を、根底から覆そうとしています。
 エージェント同士が裏側で交渉や手続きを完結させる「Agent to Agent 経済圏」、デジタルとフィジカルの境界が溶け合う「現実世界のAI化」、一人ひとりに最適化された「ハイパー・パーソナライズド体験」──こうした変化の兆しは、すでに2026年4月現在、各産業で着実に立ち上がり始めています。

 本書は、この歴史的な「AI大転換(グレート・トランスフォーメーション)」の只中にある2026年4月の視点から、少し先の未来──2030年代初頭の世界を予見した「未来の地図」です。難解な技術書ではありません。ビジネスの現場で、街角で、そして私たちの手のひらの中で、具体的に何が変わり、どのようなチャンスとリスクが生まれるのかを、直感的な図解とともにひもといていきます。
 読者の皆さまが、本書を片手に、それぞれの現場で「AIと共に実現する幸福な2030年代」を描く一助になれば、これに勝る喜びはございません。

 2026年7月

NTTデータ経営研究所


【目次】

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