その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は池上重輔(著・監訳)、ハビール・シン(著)、マイケル・ユシーム(著)、渡部典子(訳)の『 ジャパン・ウェイ 静かなる改革者たち 毅然たるリーダーシップが変える経営 』。「日本語版の刊行に寄せて」をお届けします。
【日本語版の刊行に寄せて】
ビジネスのグローバル化により、主要企業間の競争が激化している。昨今、トヨタ自動車、ゼネラルモーターズ、フォルクスワーゲン、テスラ、BYD等がいかに世界の多くの市場で互いに競い合っているかを考えてみてほしい。さまざまな業界でこうした競争が進むなか、企業が主要な競合他社の動向を注視しながら新たなモデルを学んでいる。さらに影響が大きいのは、あらゆる業界の経営者や取締役が、国や分野を問わず世界中の一流企業が成功するのを目の当たりにすることで、新しい戦略、組織運営、働き方、顧客対応、生産方法、リーダーシップの在り方を学びとれるようになっていることだ。
こうした認識のもと、私たち3人(早稲田大学ビジネススクール研究科長・教授の池上重輔、ペンシルベニア大学ウォートン校教授のハビール・シンとマイケル・ユシーム)は、近年目覚ましい復活を遂げた日本企業群があることに気づき、その復活を支えた要因について理解し、世界中の企業が学べるよう形式知化しようと努めてきた。幸いにも、私たちが研究を行ったのは、一定数の日本企業が再び驚異的な復活を遂げた時期だった。それがまざまざとわかるのが、最近の日経平均株価の急上昇である。
私たちは、本質を追求するために、通常のように外部に公表された報告書や統計ではなく、アサヒビール、ローソン、日立製作所、ソニー、パナソニックなどの主に日本の大企業を実際に経営しているトップリーダーたち105人に、どのように自社の成長を導いているのか語ってもらうという独自の手法を用いた。そこから見えてきたのは、当初は予想していなかった、新しい企業リーダーシップ・モデルであった。私たちはこのモデルを「リゾリュート・ジャパン(毅然とした日本。以下RJ)」という表現が最もふさわしいと考えた。その主な特徴は、以下の5つである。
①伝統的な経営手法と革新的な経営課題の融合
②取締役会のスタンスをハンズオフな傍観型から能動的パートナー型へと転換
③人材管理(タレント・マネジメント)における年功序列から能力開発重視へのシフト
④トップ層における決断力と人間力を併せ持ったリーダーシップ能力の強化
⑤長年培われたモデルのプロセス規律と新たなビジネスモデルを統合することによる、事業開発とポートフォリオの変革
これらすべての要素を完璧に備えた企業はまだ存在しないが、変革を遂げた日本の主要企業の多くがこれらの要素を融合していることを観察し、私たちはパフォーマンス上の優位性に基づく新たなビジネス・リーダーシップ・モデルが着実に形成されつつあることを発見した。そして、その新しい特徴は今後、日本国内のみならず世界中に広く浸透していく可能性が高いと思われる。私たちはアメリカ、中国、インドでも同じようなトップマネジメント研究を行ったが、こうした国々の企業経営者や取締役もRJモデルを学び、そのなかで最も魅力的な特徴を自国と自社の文脈に合わせて取り入れていくことは賢明な戦略だろう。日本の読者にとっては一見当たり前のことが書かれているように見えるかもしれないが、RJ型モデルはさまざまな点で伝統的な日本企業の経営とは異なっている。その違いは微妙かもしれないが包括的に見ていくと大きな違いがあり、それは世界にも通じるのである。
著者の1人はハーバード大学博士課程在籍中に、エズラ・ヴォーゲル教授に師事した。その当時の日本のビジネス慣行に感銘を受けて執筆した同教授の『ジャパンアズナンバーワン』はベストセラーとなった。ヴォーゲル氏は、アメリカの企業経営者や大学研究者に対して日本の手法がどのように世界クラスの、あるいは世界一ともいえるモデルとなりつつあるかを詳しく研究し、そこから賢く学ぶようにと呼びかけた。あれから数十年、日本が「失われた30年」とも呼ばれる低迷期に陥っている間、アメリカ、中国、インドの企業が世界の主導的地位を握るようになった。しかし今こそ、あらゆる国の経営者、取締役、投資家、規制当局者、さらにはこの時代の最良の実践を学ぶことに関心のある人々は、この新しく魅力的なRJモデルが発するメッセージに耳を傾けるべきである。
本書は当初、この日本発の新たなモデルを主に日本国外、特に欧米圏の読者に紹介することを目的に英語で出版されたが、日本の経営者、取締役、投資家、幹部候補者、規制当局者、そして未来に向けて世界に通じる実践を学びたい人々にとっても、ここで紹介する「リゾリュート」な実践が、自国と自社のモデルを客観的に見つめ直し、さらなる進化と変化を遂げるために大いに役立つと確信している。
なお、共著者のハビール・シンとマイケル・ユシームの所属するペンシルベニア大学ウォートン校は世界初の大学レベルのビジネススクールであり、2025年のフィナンシャル・タイムズのグローバル・ビジネススクールランキングで世界1位となっている。ハビール・シンは経営学分野で世界トップの「Academy of Management Review」の論文が経済学およびビジネス分野において世界で2番目に引用された論文に認定されたこともある、戦略と国際経営における世界でトップクラスの研究者である。マイケル・ユシームはウォートン校のリーダーシップと変革センターのファカルティ・ディレクターであり、グーグル、コカ・コーラ、IBM、米軍等の幹部研修も担当してきたリーダーシップ分野の世界的研究者である。この2人は欧米圏のみでなく、中国とインドでも本書と同様のアプローチでリーダーシップを研究し、日本企業の幹部教育にも長期にわたって携わってきており、その経験と多様な観点が本書に反映されている。
2025年8月
池上重輔 ハビール・シン マイケル・ユシーム
【目次】




