その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はピーター・D・カウフマン(編)、貫井佳子(訳)の『 チャールズ・T・マンガーの金言 』。ジョン・B・コリソン氏が寄せた「序文」をお届けします。
【序文】
コリソンが語るマンガー
ジョン・B・コリソン
ダブリン
二〇二三年四月
私が『チャールズ・T・マンガーの金言』に初めて出合ったのは、ビジネスで成功するための秘訣を片っ端から身につけようとしていた二十代のころだ。大判のページをめくるうちに、それが従来の金融業界の常識に斬新な切り口から異を唱える本であることに気づいた。しかも、意外なほど簡潔かつ率直な言葉で書かれている。尊敬を集めているビジネスパーソンが投資や金融だけでなく、より広い世界全体について、これほどまでに鋭い洞察を(マンガーお気に入りの言葉を借りれば)「厚かましく」披露しているのを見聞きしたことはなかった。「数学を不得手とする者は、お尻蹴とばしコンテストに片足だけで出場する人も同然」なんて書いてあったら、読まずにはいられない。つい吹き出してしまうし、少しばかり賢くなったような気分も味わえるのだ。
この最初の出合いから何年もたったころ、私はロサンゼルスにあるチャーリーの自宅で本人に直接会うという栄に浴した。実際のチャーリーが本の中でのイメージそのままに魅力的で知的好奇心にあふれた人物であることがわかり、私は歓喜した(そして、彼が体力面でも私よりはるかに優れていることを発見した。夕食開始から四時間以上が経過すると私は眠気に襲われたが、チャーリーに疲れた様子はまったくなかった)。その夜、私たちはスキーリゾートの経済学から子育てやニュース業界の進化にいたるまで、多岐にわたる分野のさまざまなテーマについて語り合った。チャーリーの驚異的なまでに幅広い見識と、多分野横断的な思考様式を目の当たりにして、彼自身とこの本に対する私の敬意はますます強まった。
『チャールズ・T・マンガーの金言』は、分野にとらわれない横断的な思考の威力を証明する書だ。単なる投資本ではない。身の回りの世界を理解するために自分の頭でどう考えるべきかを示した指南書である。チャーリーの哲学は、ビジネスや金融にとどまらず、数学、物理学、歴史学、倫理学など、彼が少しでも関心を寄せた分野すべてから得た知見が組み合わさってできている。それを、九九年間(そして今も)変わらない彼特有のあけすけな口調で語っているのが本書だ。チャーリーは自由企業体制の長所だけでなく、誠実さと厳格さを持ってビジネスを正しく行うことの美徳も称えている。そして、仕事には至極真剣に取り組むべきだが、自分のことを深刻に考えすぎてはならない、というメッセージも発している。
チャーリーがネブラスカ州オマハで誕生した約一〇〇年前と今とでは、世界の状況は著しく異なっている。なにしろ彼が生まれたのは大恐慌より前、二度の世界大戦の狭間で、アイルランド自由国が成立してからわずか二年の年である。だがチャーリー自身はずっと変わらない。とどまるところを知らない学習意欲も、複雑な財務諸表ではなく簡単な枠組みを用いてはるかに信頼性の高い分析を行い、企業を評価する卓越した能力も、バフェット一家との縁も。チャーリーがウォーレンの祖父が営む食料品店で働いていた十代のころに密かに始まったその結びつきは、やがて史上屈指の成功を収めた投資パートナーの関係性へと発展し、好不況の波をくぐり抜けながら何十年も続いてきた。チャーリーとウォーレンがその資金と信頼を託した幾多の名高い企業も同様である。
複利成長という概念はチャーリーが発明したものではないが、彼自身とバークシャー・ハザウェイの成功はその力が実在することを証明している。好奇心や気前の良さ、美徳を称える『チャールズ・T・マンガーの金言』に込められた実践知も、同じように複利的に広がっていくだろう。起業家精神あふれる読者たちが何世代にもわたり、チャーリーの教えを自らの状況に合わせて取り入れていくことで。
経験豊富な投資家、やる気に満ちた新参投資家、企業経営者、日常生活の中での意思決定能力を高めたいと思っている人など、さまざまな読者がいると思うが、チャーリーの講演録やエッセイを、ぜひ好奇心を働かせつつオープンな気持ちで読んでほしい。そうすれば、読者の頭に一生残るような見識を得ることができるだろう。かつてチャーリーはこんな言葉を発している。
「この先どのような道を歩むのかを決めるうえで歴史にまさる教師はいません。三〇ドルの歴史本の中に、数十億ドル相当の価値を持つ答えがあるのです」。同じことは『チャールズ・T・マンガーの金言』にも言えるだろう。この本を読むことこそ、究極のバリュー投資である。
古典的名著の域にある本書を編纂してくれたピーター・カウフマンと、揺るぎない知恵を惜しまず伝授してくれたチャーリー・マンガーに、私は心の底から感謝している。これ以上、付け加えることはない。
【目次】



