その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は新井健一さんの『 それでも、「普通の会社員」はいちばん強い 40歳からのキャリアをどう生きるか 』です。

【プロローグ】 会社員という働き方の危機

 会社員という働き方が、いま大きく揺らいでいる。
 このことは、筆者が会社員として社会に出た当時、ミレニアムイヤーを迎えようとする日本企業についても言われていた。より詳しくは、日本の高度経済成長期に企業の強さを支えてきた「終身雇用制度」「年功序列型賃金」が崩壊すると。 だが実際、統計数値によれば、日本の終身雇用というシステムが世界で注目され、それが崩壊したと言われた1976年から2000年、そしてそれから2018年にいたるまで、微増ながら平均勤続年数は伸び続けてきた。
 このような事実と向き合いつつ、会社員という働き手の来し方を振り返れば、我々は常に、我々の不安や危機感を煽ろうとするオオカミ少年と対峙し、その真偽を見極めながら冷静に対処してきたと言えるだろう。
 だが、今回やって来たのはどうやらオオカミ少年ではないようだ。

(トヨタ自動車の)豊田社長は「今の日本をみていると、雇用をずっと続けている企業へのインセンティブがあまりない」と指摘した。
出典:日経ビジネス電子版2019年5月14日「『終身雇用難しい』トヨタ社長の発言でパンドラの箱開くか」より日本自動車工業会における豊田章男氏会見(2019年5月13日)

サントリーホールディングスの新浪剛史社長は(中略)「(定年を)45歳にすれば、30代、20代がみんな勉強するようになり、自分の人生を自分で考えるようになる」と従業員の意識改革を促す効果を強調。
出典:日経ビジネス電子版2021年9月22日「45歳で定年、40歳で賃金打ち止め! 一流経営者の発言大炎上」より経済同友会セミナーにおける新浪剛史氏の発言(2021年9月9日)

 そして最近、日本経済団体連合会(経団連)、経済産業省(経産省)などの積極的な発信により、職業能力の再開発、再教育を意味する「リスキリング」という言葉や取り組みが、企業に浸透しつつある。
 リスキリングとは、時代の文脈に則して言えば「市場の変化に対応すべく新しい職種・業務に就くこと」や「現職で求められるスキルの変化に適応し、持続的に価値を創出すること」を目的に、新しいスキルや技術の習得を推進する全般的な取り組みを指す。

 特に現在、第四次産業革命(IoTやAI、ビッグデータによる技術革新)への対応が強く求められる一方、デジタル技術をビジネスに活用するハイスキル人材の不足が、国家レベルで問題視されている状況である。したがって、リスキリングによるIoT、AI、データサイエンスなどのスキル開発は、社内人材のデジタル人材化につながるため、官民で注目を集めているのだ。

 だが筆者は、これらの発言や発信にある欠落した要素、側面、当事者の不在を読み取る。
 それは、会社員という働き方を選択してきた個人の意思や意向だ。
 だから、当の企業、その社員は、「リ」「スキリング」という言葉は聞いたことはあっても、次の問いに適切に答え、実際に動けている人は少ないのだろう。

「なぜ今、会社員にリスキリングが叫ばれるのか」
「どのような職業で、具体的にどのようなリスキリングが必要なのか」
「『わたし』はリスキリングにどう対応すればよいのか」

 ただ、これについて致し方ない面もある。それは会社員という働き方そのものが、個ではなく集団、そして組織を重視してきたからだ。加えて日本人は、文化として個人よりも集団の「和を以(もっ)て貴(とうと)しとなす」を重視する傾向がある。
 ここで読者に問いたい。

 あなたのキャリアは誰のものか。

(多くの)外資系企業で働く社員にこのような問いを発しても意味はない。「それは私のものだ」、質問の受け手にとっては当たり前のこと過ぎて、問いの意味をはかりかねるだろう。だが、日本企業に勤めるあなたに同じ問いを発したら、あなたはどう答えるだろうか?
 この問いに対して、外資系企業で働く社員と同様、何の躊躇もなく「私のものだ」と答える、答えられる読者にとって、本書は有益ではないかもしれない。
 ただ、ほんの少しでもそう言い切ることがためらわれ、不安を感じるのであれば、この本は読み進めていただくに値すると筆者は考える。
「いま、ここ」の時点だけを捉えるのであれば、日本企業で働く普通(筆者は『普通』をとても良い意味で使っている)の会社員にとって、そもそも「キャリアは誰のもの問題」は、たとえばなんの備えもなく、いきなり荒野に放り出されるような不安を掻き立てるテーマかもしれない。

 ただ、あなたは気づいてもいない。あなたは、これから自身の生涯キャリアをサバイブするための強力な武器を、本人も気づかぬうちに身に付けてきたことに、だ。

 本書では、そのタイトル『それでも、「普通の会社員」はいちばん強い』のもと、過去を振り返れば非常にユニークな「会社員」という働き方に、これからも一定程度軸足をおいて生きていくための心構えや技術を、小説形式をとり入れながら解説・提案していく。

2023年7月  新井 健一


【目次】

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連載コラム【それでも、「普通の会社員」はいちばん強い】

生成AI(人工知能)が登場し、リスキリングが叫ばれ、雇用の流動化が促される――普通の会社員にとっては何かと不安な時代。しかし、このような時代だからこそ、「日本企業の会社員」には大きなチャンスがある、と人事コンサルタントの新井健一氏は唱えます。書籍『それでも、「普通の会社員」はいちばん強い 40歳からのキャリアをどう生きるか』(新井健一著/日本経済新聞出版)から抜粋。