その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は土井英司さんの 『20代で人生の年収は9割決まる。』 です。
【はじめに】
不確実時代のシビアでリアルな方法論
「仕事をなくしたやつが偉い」
アマゾンではこれが常識でした。
この話をすると、「GAFAはアルゴリズムを駆使しているからね」「最先端の企業の例を出されても、自分とは関係ない」といった反応があるのですが、これは今から二〇年も前の二〇〇〇年、僕がアマゾンで働き出した頃の話です。
はじめまして。土井英司と申します。
僕は、新卒でゲーム会社に就職し、その後、異業種で修行、転職を経て、アマゾンの日本サイト立ち上げに参画しました。エディター、バイヤーとして複数のベストセラーを仕掛け、二七歳で社長賞にあたる「カンパニーアワード」も受賞しました。三〇歳でそれまでに培った「自分という資産」を活かして出版プロデューサーとして独立。国内一六〇万部、世界一一〇〇万部を突破した『人生がときめく片づけの魔法』のこんまりこと近藤麻理恵さんをはじめ、多くの著者のブランド支援やプロデュースを行っています。
さらにここ数年は、ニューヨークを皮切りに、山口、大阪、長崎と都内との二拠点生活を実践。新たな著者の発掘や、地元の方と組んで地域活性化のお手伝いもしています。
今は不確実時代と言われています。アメリカで生まれたVUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)という言葉が日本でも使われるようになり、先行きが不透明なことも、不安を募らせる一因となっているようです。
「AIで仕事がなくなる」
「この業種は一〇年以内に消滅するのではないか」
そんな不安がふくれ上がったのは、英国オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授が二〇一三年に発表した「未来の雇用」についてのレポートがきっかけでしょう。自動化やロボットの導入で、ホワイトカラーですら無用になる。現在ある半分の仕事が消滅する……。この指摘に、多くの人が危機感を感じたようです。
しかしアマゾンは二〇年も前から、「単純作業は機械にやらせよう。いや、単純作業以外でも、なくせる仕事はなくしてしまえばいい」という考え方でした。
それはひとえに、〝人間という有限で貴重な資源〟を最大限に有効活用するためです。
アマゾンで僕が“なくした仕事”は、いくつかあります。ひとつはマーケティングのためのターゲティングメールの送り方を自動選定するツールをつくり、個別に選定するという業務をなくしたこと(作成の実作業は優秀な同僚にやってもらいました)。もうひとつは、顧客へのシステム説明でした。
顧客へのシステム説明とは、コールセンターで対応しきれない在庫状況の問い合わせについて、メールで個別説明するというもの。バイヤーになってすぐにやった仕事でした。
人によってはわかりやすい説明をしようと工夫し、繰り返すごとに精度を高め、「自分は仕事を頑張っている!」となるでしょう。
「顧客対応は君に任せていれば安心だ。説明が実にうまい」という上司のフィードバックに手応えを感じ、「君がいないと、この仕事は成り立たないね」という同僚の言葉に自己肯定感を高め、“システム説明の達人”になるかもしれません。
ところが僕は幸か不幸か、そういうタイプではありませんでした。
なぜならシステムについての込み入った問い合わせといっても、明らかに同じような内容のものが数多くあったからです。「同じ説明を繰り返すのは時間と労力のムダだ」と考えていました。
そこで僕は「このパターンの問い合わせにはこう答える」という緻密なマニュアルを作成し、コールセンターに渡して彼らの段階ですべて対応してもらえるようにしました。
幸いなことに僕の提案はうまくいき、以後の問い合わせはゼロにして、相当なコスト削減につながりましたが、僕自身の仕事もなくなった――いや、自らなくしてしまいました。しかし、この小さな改善が、その後のキャリアをいっそう広げてくれたのです。
「マニュアルで対応できるような仕事を一生懸命やるのは、人的資源の無駄遣い」
こう考えるのがアマゾン。高い給料を払っている社員に、その気になれば省けるような仕事をさせておくのは、会社にとって明らかなロスです。
そのロスを自発的になくす社員を、アマゾンは「評価に値する人材」と見なします。
僕はアマゾンでエディター、バイヤーとしてキャリアを積みましたが、それは自分という人的資源をより活用し、会社にも貢献できる双方ハッピーな働き方でした。
僕のエピソードはずいぶん昔のささやかなものですが、この不確実な時代には、あらゆる人のキャリアに同じことが当てはまるのではないかと感じています。
今後は、「今ある仕事」に自分を合わせるのではなく、人的資源――すなわち「自分という資産」をどの仕事で運用するかを考える時代になっていく。僕はそう分析しています。
[仕事>自分]ではなく[自分>仕事]に逆転するのですから、どんどん仕事が消滅しようと関係ありません。確固たる自分さえあれば、今の仕事がなくなったとしても、より良い仕事、まだ見ぬ新しい仕事にスイッチすればいいだけの話です。
これまでは、仕事と自分を一体化させている人がたくさんいました。
「今の仕事がなくなったらどうしよう」とか「これから就職・転職するならAIによって消滅しない仕事を選びたい」という人は、[仕事=自分]もしくは[仕事>自分]になっているということです。
しかしよく考えてみれば、本来は[自分>仕事]であるはずです。それなら別に、ひとつの仕事にこだわる必要はない。比喩的に言えば、今後仕事は“道具”になっていくのです。
それを使いこなすことによって、自分を豊かにする道具。
それを使いこなすことによって、何かと便利になる道具。
それを使いこなすことによって、誰かの役に立つ道具。
仕事とは、そんなものではないでしょうか?
どんな道具でも使いこなせるようになる最良の策は、自分という資産を充実させることだと僕は思います。そうすれば仕事は永遠になくならないし、より面白く、より自分にふさわしい仕事が選べるようになります。
「『自分という資産』をしっかりと構築し、それに合わせて仕事を選んでいく」
これからは、意識をそのように転換していきましょう。
自分らしい仕事を自分の意思で選ぶ自由こそ、キャリアにおける成功となるでしょう。
では、「自分という資産」をどうつくっていけばいいのか?
本書では、それについて具体的な答えを述べていきます。
そもそも本書は二〇一〇年に単行本『20代で人生の年収は9割決まる』(大和書房)として刊行、多くの就活生や若手ビジネスパーソンに支持をいただきロングセラーとなりました。それから一〇年。二〇一一年に発生した東日本大震災や、昨今の新型コロナウイルス感染拡大による世界規模の危機など、社会・経済構造を大きく揺るがす出来事がいくつも起こりました。少子高齢化がより進み、人生一〇〇年時代が当たり前のこととなり、働き方改革やリモートワークの推進など企業を取り巻く環境も激変。人々の仕事観・人生観も大きく変わりました。そうした状況を踏まえ、大幅な加筆・再構成のもと文庫化しています。
できるだけ早く花を咲かせ、できるだけ多くを刈り取る。このような効率を優先した働き方は、もはや過去のものとなりました。これからは、しっかりと耕して強い土壌をつくり、そこに種をまくような、本質を追求する働き方が残っていきます。
就職してから三〇歳くらいまでは、所属する会社を使って、自分のやりたいことと、自分に合ったワークスタイルを見極め、自分を磨き抜く期間。いわばビジネスパーソンとしての「仕込みの八年間」です。ここさえきちんと押さえておけば、生涯にわたって運用できる「自分というビジネス資産」ができます。
二〇代から地味な仕込みをし、年齢ごとにやるべきことを着実にやった人が、それぞれの形の自分らしい成功に向かって歩いていく。仕込みというのは自分の核をつくることでもあり、その意味で、「20代で人生の年収は9割決まる」のです。
「この仕事なら一生食べていける」という安心感にしがみつくのではなく、「人の役に立ちたい」「人を喜ばせたい」という人間本来のあり方に戻って、自由に働いていく。
そのためのシビアでリアルな方法論をお届けできたら、著者としてこれほど幸せなことはありません。
二〇二〇年五月 土井英司
【目次】