その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は澤円さんの 『「やめる」という選択』 です。
【はじめに】
目の前のことに追われ続けているのに
「全部、手放せない」あなたへ
「やめる」
この言葉を聞いたとき、あなたはどんな印象を持ちますか? 「あきらめる」「断念する」「失う」に似たとらえ方をする人は、案外多いのではないでしょうか。
本書は、この「やめる」という言葉をネガティブにとらえて、心をざわつかせてしまっている人のためのものです。
なんとなく時代の変化に置いていかれるような不安を抱いたり、これまでうまくいっていた自分のやり方をちょっと苦しく感じたり。あるいは、いまの仕事にどこか違和感を覚えている。
目の前のことに頑張って取り組んできたはずなのに、気づけばそれほど好きでもない仕事や生活に埋もれている自分がいる。
「これじゃいけない!」と新しいスキルを身につけようとしても、毎日が忙し過ぎて時間が足りず、かつてのようなエネルギーも湧いてこない……。
そんなことを感じている人は、いま、たくさんいるようです。多くの人が「やめる」を極端に、そしてネガティブに考えていて、「0か100か」「身も心もささげるか、さもなくば去るか」「敵か味方か」のような対立軸にしばられてしまっています。そんな、「こうあるべき。さもなくば……」という思い込みから、自分を解放していただきたい。本書でお伝えするのは、そのための「やめる」という方法論です。
もちろん、そうした思いの底には「人生をよくしていきたい」「あきらめたくない」「もっと自分らしい生き方があるはずだ」という、前向きな気持ちがあると思います。
でも、いざ行動しようとすると、いろいろな障壁に阻はばまれてなかなかうまくいかない。それはいったいなぜなのでしょうか?
その理由は、長年にわたって気づかないうちに抱えてしまった、人生の「埋没(サンク)コスト」にあると僕は見ています。
埋没コストとはなにか? 埋没コストはそもそも経済学の概念で、「ある経済行為に対して、どんな意思決定をしても回収できない費用」を指します。また、その経済行為をずっと続けていると、損失がより拡大するおそれのあるコストのことです。
本書ではこの概念をキーワードとして援用していますが、簡単にいうと、過去にうまくいった考え方や方法を続けているうちに、思考パターンがその過去に固定化されるということ。その結果、いつの間にか過去の延長線上でしかものごとが考えられなくなる状態を指します。
これを僕流に言い換えると、「せっかく○○したのだから」という言葉で表せる思考や行動パターンになります。
「せっかくここまで頑張ったのだから」
「せっかく大企業に入れたのだから」
「せっかく続けてきたのだから」
こうした思考がまるで“重し”のようにのしかかり、気づかないうちに、あなたの人生を停滞させるコストに化けてしまっているのです。
そこで僕は、そんな「頑張っているのに、なぜかうまくいかない」と感じている人たちに向けて、自分の埋没コストを見つけ出し、それをなくしていくお手伝いをしたいと考えています。その際にキーとなる思考と行動が、まさに「やめる」という選択なのです。
僕たちはもっと、「やるべきこと」から自由になっていい
「やめる」というのは、別に難しいことではありません。たしかに、これまでずっと続けてきたなにかを一気に変えることは大変ですが、心にのしかかっていた〝重し〟をひとつずつ、少しずつ取り除くようにやめていけばいいのです。
たとえば、ふだんの行動を振り返る時間をつくり、「とくにやらなくてもいいかな」と思うことを洗い出して、そのなかのひとつだけをやめてみる。
それは、苦手な仕事をほかの誰か得意な人にお願いすることかもしれないし、義務感から出席していた定例の集まりを1回だけ約束しないことかもしれません。自分ができる「小さな行動」から、はじめていけばいいでしょう。
なにを、どのようにやめていくのかについての具体的方法は本書でたっぷりと紹介しますが、大切なのは、これまであたりまえのように続けてきたなにかを「やめる」と決め、行動を根本的に変えていくあなたの姿勢です。
これまでと同じことをしていれば、いつまでも同じままでなにも変わりません。いや、埋没コストである以上、どんどん状況が悪化していく可能性があります。
これまでの人生に「埋没」してしまう前に、いまこのタイミングで、これまでとはちがう思考・行動に変えていく必要があるのです。
「やめる」という選択をすると、新しい自分と出会えます。その新しい自分とは、毎日をワクワクして過ごせる自分です。本当に好きなことをしながら、充実感に満たされて1日を終えられる自分です。多様な人たちとフラットに関わり合いながら、豊かな時間を過ごせる自分──。それこそが、あなたの「幸せな生き方」につながっています。
僕は、そんな人生は誰にだって手に入れることができると信じています。
一度きりの人生を存分に味わい尽くすために、「やめる」ことを堂々と選択していきましょう。
【目次】