その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は須藤憲司さんの『 90日で成果をだす DX(デジタルトランスフォーメーション)入門 』です。
【はじめに】
なぜ、今DXが注目を集めているのか
昨今、多くの企業の中期経営計画にDX(デジタルトランスフォーメーション)に関する言及が増えています。その背景には2つの理由があります。
一つは、法人内にスマートフォンやタブレット端末が普及していっていることです。会社支給の携帯電話がガラケーからスマートフォンに変わり、現場に支給されるパソコンがタブレット端末に変わりはじめています。
これまでの社内業務システムはイントラネット内でしかアクセスできないなどさまざまな制約があったため、ビジネスチャットツールやSFA(営業支援システム)、経費精算、稟議申請など多くの「SaaS」と呼ばれるB to Bの業務ソフトウェアが浸透していっています。これにより、業務プロセスそのものもDX化していかないと生産性を高めていきにくくなったのです。
働き方改革や人口減少により、採用が困難になってきたという社会的背景もこれを後押ししています。
もうひとつの理由に、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)やBATH(Baidu、Alibaba、Tencent、Huawei)と呼ばれる巨大プラットフォーム企業が異業種へ参入し、デジタルを最大限に活用することで産業やエコシステムそのものを根本から変えていく可能性がどんどん高まっていることがあげられます。自社や自分たちの産業に全く新しい競争原理を持ち込まれ、ディスラプト(破壊)されてしまうのではないかという危機感が鮮明になってきているということでしょう。
加速していくプラットフォーム企業の異業種の参入
実際に、すでに多くの異業種参入が始まっています。
5Gが普及していく2020年以降、この動きは加速していくものと多くの企業が考えています。デジタルを活用して自らの顧客体験を刷新する必要があるという強い危機感を持っている企業は増えてきています。
そのような環境下で私たちKaizen Platformでは、顧客が抱える課題に一つひとつ向き合い、解決していくためのサービスやプロダクトを磨いてきました。もともと我々は、UI(ユーザーインターフェース)の改善を通じて、顧客にとって使いやすくかつわかりやすくすることで、事業のKPI(重要業績評価指標)改善を実施するデジタルマーケティングの支援事業から始まりました。
ただ、このUIの改善工程は、戦略が決まり、実際に開発も終わり、サービスがローンチし、実行フェーズに入った後の事業全体のプロセスの下流に位置する役割でした。そのため、戦略そのものが間違っていたり、必要なデータ取得が設計段階で盛り込まれていなかったりと、顧客体験を構成する重要な要素に関与できないまま、デザインや表層の機能で改善していくには限界があります。
ところが近年、企業におけるDXの波を受けて、より上流の戦略から顧客体験の再定義に携わるケースが増えてきたのです。これにより、顧客体験を大きく変革することが可能になり、お客様のビジネスにもさらに大きなインパクトを与えられるようになりました。
DXへの取り組みは領域や業績を問わない
その過程で、私たちにはDXに関する数多くの知見が蓄積されていったのです。DXの事例を紹介する勉強会を開いたり、戦略やビジョンの策定を経営陣に対してサポートするワークショップを設けたり、DXプロジェクトの事務局運営をしたり、開発からマーケティング実行支援まで、顧客がDX推進に求めていることを徹底的にサービスメニュー化し、さまざまな角度で支援してきました。
現在の支援先は、IT企業に限りません。下記は、実際に私たちが伴走しているDXに関するプロジェクトの一例です。
- 金融機関のモバイルファースト化
- メディア企業の動画ファースト化
- 大規模な営業組織の営業活動のDX化
- エンターテインメント企業のデジタルプラットフォーム化/コンテンツのパーソナライズ化
- メーカーの売り切りモデルからサブスクリプションモデルへの転換
- 新規IoTサービスのローンチから事業成長支援など
昨今、誰もが手にするスマートフォンによるデジタル環境の激変は、あらゆる業種において無視できません。デジタルをより良く活用し、顧客体験を変える意味合いが高まっているのです。
DXにとって本当に大切なことは何か
DXを行う中で最も大切なことは、「デジタルを活用して、圧倒的にかつ優れた顧客体験を提供し、事業を成長させること」です。
ここでの“成長させる”は、もっとハッキリと「稼ぐこと」と言い換えてもいいでしょう。顧客体験と直接的に関連しないデジタル化ではDXとは言えず、自分たちの事業や商売に直結していることが原理原則になるからです。
テクノロジーを活用して「社内の業務効率が上がった」というだけでは、単なるデジタル化です。いかに顧客体験の差別化につなげ、事業としての収益獲得に貢献できるか。これこそがDXとデジタル化を分かつ、大きなポイントになってきます。
「DXを成功させるのにデジタルの知識だけがあれば良い」という前提は、私たちの経験からすると非常に疑わしいものだと考えています。もちろん、デジタルへの理解があればできることは増えます。本質的にいえば、DXで何より大切なのは「問題と目的の正しい設定」だからです。
それさえできれば解決方法は必ずあり、デジタルテクノロジーはとても強い武器になってくれます。危機感を煽るだけのフェーズではもはやありません。
「この環境をどのように考え、どのように具体的に行動していけば良いのか」という明日からのアクションにつなげていくための指針となるようこの本を書きました。
その点でいえば、世の中で叫ばれるDXと、本書が提示するDXの可能性は、一線を画しているかもしれません。
私たちは、誰もが取り組めると確信しているからこそ、現在の事業や業務を理解されている、本書を手に取っていただいているみなさんが、DX人材として正しいDX のリテラシーを身につけることができる本として、この「DXの教科書」とも呼べる1冊をお届けしたいと考えたのです。
デジタルを使って事業を成長させよう
本書ではまず、1章で世の中がDX化に至った背景をみていきます。続く2章では、多くの企業がDX推進で苦しむ理由について、実体験を交えて考察します。3章では、DXを考える上で欠かせない、デジタルテクノロジーによる潮流をひもとく「10のキーワード」を解説します。4章では、日本企業でのDX化事例を厳選してまとめました。どの事例も大変参考になることでしょう。
そして、終章となる5章では、まさにこの本を通じて私たちが伝えたい、「誰もがDXを実現できる」ことを助けるために「90日でできる『DX改善計画 戦略マップ』」を提供します。実際に私たちが支援した会社の事例を用いながら、その要点をまとめていきます。
最後に、改めて、この本におけるDXの定義を伝えさせてください。
「デジタルを活用して、圧倒的に優れた顧客体験を提供し、事業を成長させること」
この目標に取り組む全ての方へ、私たちの知見を捧げます。
【目次】