その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は山中浩之さんの『 妻の実家のとうふ店を400億円企業にした元営業マンの話 』です。
【はじめに】
「失われた20年」に「20倍」に成長した会社
妻の実家に転職した営業マンは何をやったのか
「失われた20年」「いや30年」といった自虐的なフレーズがまかり通る日本の経済だが、まさにこの期間に、そして業界全体の売り上げが縮小して倒産も相次ぐ中で、
「失われた? 何が?」
と言わんばかりの成長を続けている企業がある。
2000年には23億円程度だった売上高が、今期(24年2月期)は400億円に達する見込みのその会社は、群馬県に本社を置く相模屋食料(以下、相模屋)だ。何をつくっているのかといえば「豆腐、厚揚げ、油揚げ、がんもどき」。日本でトップシェアの豆腐メーカーである。単価が100円そこそこの商品を売りながら、年商を20倍近く伸ばしているのだ。
相模屋が一般的に知られるようになったのは、12年3月に、アニメ「機動戦士ガンダム」に登場するモビルスーツ(戦闘用の大型ロボット)、「ザク」の頭部を模した「ザクとうふ」を発売したときだろう。ザクとうふは2カ⽉強で100万個を超える大ヒットとなり、スーパーの豆腐売り場に男性客が押し寄せて話題になった。
差別化が難しい市場でぐいぐい伸びる秘密は?
ところで、豆腐の市場規模を想像されたことがあるだろうか。
業界団体である一般財団法人全国豆腐連合会(全豆連=ぜんとうれん)によれば「厳密な統計資料はないが、小売り段階で5000億~6000億円」。これはコミック(21年、出版科学研究所調べ、書籍・電子の合計、6759億円)や即席麺(23年7月、日本即席食品工業協会調べ、7140億円)と近い。市場規模は決して小さくない。ちなみに比率は豆腐が7、厚揚げやがんもどきといった揚げ物類が3、とのことだ。
即席麺の市場は大手企業を初めとする新商品の投入が続き2022年度に9.1%も伸びたが、豆腐はどうか。富士経済の調査によると、豆腐市場は量・金額とも微減が続き、08年に比べ21年では88.3%になっている。昭和初期には5万軒以上を数えた豆腐製造施設数は、05年に1万3000軒に減少、22年には5000軒を割り込んだ模様だ。
「町のお豆腐屋さん」の廃業が多いこともあるが、豆腐の需要が減少傾向にあり、しかも差別化が難しい「成熟しきった伝統商品」であることから、豆腐のメーカーはある程度の規模になると、売り上げを維持するために価格競争に走ることになり、それが経営を圧迫する。業界では「豆腐屋は年商50億円を超えるとつぶれる」といわれているという。
縮む市場、激しくなる競争、そんなレッドオーシャンで相模屋は伸び続けているわけだ。
同社は1951年(昭和26年)に相模屋豆腐店として創業し、78年に株式会社に改組。第一、第二工場を建設して規模を拡大するが年商は20億円台にとどまっていた。
しかし2005年2月期(2004年度、以下は年度で表記)に年商30億円の壁を越え、05年度に日本最大の豆腐工場となる第三工場が稼働するや、売上高は急上昇を始める。08年度に日本最大手となり、翌年にはあっさり業界初の100億円の大台に。12年度から地方の豆腐メーカーの救済M&Aを開始し、15年度にグループ売上高200億円、20年度に300億円を突破。22年度は368億円、23年度で売上高400億円が視野に入った。
豆腐メーカー(大豆加工食品製造)で年商300億円台は文句なしの最大手だ。業界2位の豆腐専業メーカー、やまみ(本社・広島)の売上高は161億円(2023年6月期)。2位以下とは倍以上の差がある。
上のグラフでおわかりの通り、成長は2004年度、鳥越淳司氏が専務に就任した年から始まっている。雪印乳業の営業マンだった鳥越氏は02年、結婚を機に相模屋に入社した。営業先の群馬県のスーパーで、やはり営業に来ていた女性に恋をして、そのご実家が相模屋だったのだ。04年10月に専務に就任、07年5月から社長を務めている。
キーパーソンは彼だ。では、具体的には何が拡大を支えたのか。外から見た相模屋の特徴といえば、まずユニークな新製品だろう。ザクとうふを皮切りに、「のむとうふ」「マスカルポーネのようなナチュラルとうふ」など個性の強い商品を続々と投入。「どうして豆腐でこれをつくろうと思ったのか?」と驚くしかない製品群は最近ますます尖ってきた。たとえば「肉肉しいがんも~INNOCENT MEAT」(20年9月)、「うにのようなビヨンドとうふ」(22年3月)、「カルビのようなビヨンド油あげ」( 23年3月)。ザクとうふをはじめ、こうした商品は鳥越社長が引っぱって開発してきたものだ。
相模屋の拡大を支えた思考を解きほぐす
しかし鳥越社長は「新製品にはどれも思い入れがありますし、その開発が一番楽しい仕事ではありますが」と言いつつ、こう答える。
「2000年代前半は工場への投資による木綿とうふ、絹ごしとうふなどの定番商品の生産性向上、12年以降は、救済M&Aでグループに加わった企業の再建が進んだこと、ですかね」
新製品がどうしても目立ちますが、打っている手は真面目で、合理的で、堅実なんですよ、と言っているように思える。だが、それだけだろうか?
本書では、一介の(失礼)営業マンが、沈滞する業界の中で相模屋を日本最大の豆腐メーカーに成長させることができた理由を、ご本人である鳥越社長との対話を通して探っていく。会社員、特に大企業で働く、経営層に近い、「優秀なビジネスパーソンである」と衆目が一致する人であればあるほど、堅実どころか「そんなバカな」と思われるであろう考え方が次から次へと出てくる。だが、どうか最後まで読み通していただきたい。
我々は、もしかしたらあまりに真面目に「数字」を意識した仕事をやり過ぎて、実は会社を停滞させていたのかもしれない。仕事で優先すべきことは何なのか、改めて考えてみるきっかけになれば幸いだ。
【もくじ】


