その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は伊丹敬之さんの『 経営戦略の論理(第5版)(日経文庫) 』。「はしがき」をお届けします。
いい経営戦略とは、どのようなものか。なぜ、それがいいといえるのか。
この本は、いい戦略の「なに」と「なぜ」について書いた本である。企業の現場で経営戦略を考えておられる方、あるいは将来は経営戦略を考えてみたいと思っておられる方、そういう方々を読者と想定して、いい経営戦略に共通した論理を体系化して整理しようとしたものである。そして、その論理を多くの企業の具体例とともに解説した。
この本の論理の体系は、現実の企業の戦略の成功例から私が帰納的に構築したものである。主に日本企業(と少数のアメリカ企業)の数多くの見事な戦略、ときにいくつかの失敗を様々な資料から調べて、そこから「成功の論理」と私が考えるものを抽出したのである。だから、一般的な理論紹介のための入門書ではない。
しかし、読者層として想定したビジネスパーソンたちにも平易に読めるように、章構成や書き方の工夫したので、伊丹流ではあるが戦略の論理の入門書になっていると著者としては思っている。
『経営戦略の論理』の初版の刊行は、一九八〇年だった。それから四五年、改訂を重ねて戦略の論理を語り続け、とうとう第5版まで来てしまった。なぜそれだけ長く書き続けたかを自分なりに振り返ってみると、シンプルな理由は、「経営戦略」の「論理」を語ることが非常に大切だと私が考えているからであろう。
「戦略」を語ることが大切だと私が思う理由は、戦略の失敗は致命的な結果になる危険が大きいからである。企業にとって、非常に大切なものなのである。
戦略は、企業が組織として市場で事業活動を行うための基本設計図である。その基本設計を間違うと、その後どんな努力を現場でしても、いい成果は生まれないだろう。軍事の戦場で戦略を間違うと、兵士がいくら闘う能力と意識が高くても負けるのと同じである。
「論理」を語ることが大切だと私が思う理由は、論理こそが心理的な迷いのなかの判断の基盤だと考えているからである。
戦略という企業を率いる基本方針の決定は、じつに様々な状況要因を考えたうえでの総合判断にならざるを得ない。そして、不確かな情報と不透明な未来を前提に下さなければならない判断にならざるを得ない。そうした「不確かで複雑な総合判断」だけに、ちょっとした情報に心は揺らぎ、小さな動きに気をとられ、何かにこだわる偏った見方、ワラをもつかむ希望的観測、いたずらな悲観、すべてが起きがちなのである。
だからこそ、戦略は論理だと考え、自分なりに納得のいく論理にもとづいて判断することが重要なのである。論理が、心理的なゆらぎのなかでの判断の最後のよすがになる。
本の内容は、改訂のたびにかなり変わってきており、この文庫版も第4版とはかなり違っている。シンプルな章立てにし、全体の長さも短くして、より読みやすくなることを心がけた。しかし、戦略的適合の総合判断のような、まったく新しい章も加えた。
だが、本全体の基本的な論理のフレームワークは、初版から一貫して変わっていない。その基本的フレームを受け入れてきてくださった読者の方々、そして長く読み継がれてきた本にしていただいた過去の版の読者の方々に、最大の感謝を捧げたい。みなさんの支持があったからこそ、ここまで来られたのである。
そして、これからもしばらくの間は読者の目に触れやすいであろう日経文庫のシリーズにこの本を入れることを提案してくださった、長い間の盟友でもある日経BPの堀口祐介さんにも、心からの感謝をしたい。
2025年夏
伊丹敬之
【目次】










