その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は関 眞興さんの『 戦う女性たちの世界史 』です。

【まえがき】

 歴史を勉強していると、文献に現れる政治家・リーダーには圧倒的に男性が多いことに気づかされるでしょう。それらの男性に関連する人物として、ときおり女性を見かけることはあります。しかし、残念ながら、その名前まで記載されることは珍しく、「王妃」や「王女」といった呼び名でしか表されていないかもしれません。
 本書は、自身が戦うことで、あるいは、戦いに巻き込まれながらも独自の生き方を貫き、世界史に影響を与えた女性をとりあげたものです。
 著名な人物も、そうでない人物もいます。
 マリア・テレジアとマリー・アントワネット(マリア・アントーニア)の母娘は、あまり歴史に詳しくないという方でも、聞いたことがあるでしょう。母マリア・テレジアのオーストリア大公への即位をめぐって、近隣諸国を巻き込んだ戦争が起きてしまいました。娘マリー・アントワネットは、嫁ぎ先のフランスで起きた革命でその名を歴史に残しました。本人たちの気持ちはともかく、女性であるがために、政治の世界で翻弄されてしまった親子です。
 離婚と再婚によって世界史を変えてしまった女性もいます。アリエノール・ド・アキテーヌが代表的な例です。フランス、アキテーヌ地方の領主の娘として生まれた彼女は、やがて領地を継承し、フランス王と結婚します。性格の合わなかったふたりは離婚し、アリエノールは隣の領主の息子アンリと再婚、このアンリがヘンリー2世としてイングランド王になります。10人の子を産んだアリエノールは、後に「ヨーロッパの祖母」と呼ばれます。一方で、英仏間の対立を進め、百年戦争の遠因をつくってしまいました。
 女性同士の対立も見受けられます。ドイツの英雄叙事詩に「ニーベルンゲンの歌」というものがあります。このモデルになった人物は、フランク王国を建国したクローヴィスの孫の時代に生きた、ブルンヒルドとフレデグントです。この2人の愛憎は激しく、互いに暗殺合戦を繰り広げました。
 前作『キリスト教からよむ世界史』にも少しだけ登場した、トスカナ女伯マティルダ。彼女が深く関わった「カノッサの屈辱」事件は、一般的な世界史の解説では、ローマ教皇と神聖ローマ皇帝の対立が強調されます。その背景には、マティルダの、皇帝に対する深い恨みがありました。彼女の復讐心が、教皇と皇帝の対立を激化させたといっても過言ではありません。
 世界史の教科書や概説書に書かれている歴史的事件の背後には、本書で紹介したような戦う女性たちの様々な葛藤やドラマがあったのです。
 本書が女性の目線で世界史を考えるきっかけとなれば、望外の喜びです。

 2020年3月

関 眞興

【目次】

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