その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は須藤憲司さんの 『総務部DX課 岬ましろ』 です。
【はじめに】
コロナ禍で加速したDX
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは何か?
それは「デジタルを活用して、圧倒的かつ優れた顧客体験を提供し、事業を成長させること」だと2020年3月に出版した前作『90日で成果をだすDX入門』に書きました。ここでの〝成長させる〞は、もっとハッキリと「稼ぐ」「儲けること」と言い換えてもいいでしょう。
そこからかつてない大きな変化が私たちを襲いました。新型コロナウィルスの猛威です。コロナ禍によって大きな環境変化を余儀なくされた私たちは、デジタルをフル活用して稼がないといけない窮地に立たされました。こうした変化によって、そこかしこに勃興したたくさんのDXのプロジェクトに今まで以上に携わってきました。その中でデジタルの専門家でなければDXは実現できないという大きな誤解があることに気づき、リアルなDX推進の物語を描こうと思ったのが本書を書き始めたきっかけです。
ご挨拶が遅れました。私は、株式会社Kaizen Platformの代表取締役を務める須藤憲司と申します。私たちの会社は2013年に創業し、業種を問わず、900社以上の大企業のDXのプロジェクト化をサポートしてきました。おかげさまで、最近では大企業だけではなく、中小企業からもDXのお問い合わせを数多くいただくようになりました。
実際に、DXについて本格的に検討が進んでいる背景には3つの理由があります。
一つ目は、法人内にスマホやタブレットが普及しつつあること。会社支給の携帯がガラケーからスマホに変わったり、現場に支給されるPCがタブレットに変わっていったりしています。これまでの社内業務システムはイントラ内でしかアクセスできないなど様々な制約があったため、ビジネスチャットツールやSFA、経費精算、稟議申請など多くのSaaSと呼ばれるBtoBの業務ソフトウェアが浸透していっている背景があります。これにより、業務プロセスそのものもDX化していかないと生産性を高めていくことができません。
そういった意味では、働き方改革や人口減少による採用の困難化などによる生産性を高めていかないと生き残っていけないという現実がDXを促進している側面があります。
二つ目は、GAFAやBATHと呼ばれる巨大プラットフォーム企業が異業種へ参入して、デジタルを最大限に活用して産業やエコシステムそのものを根本から変えていく可能性がどんどん高まっていることです。自社や自分たちの産業に全く新しい競争原理を持ち込んで、ディスラプト(破壊)されてしまうのではないか、という危機感が鮮明になってきているということだと考えています。
実際、すでに多くの異業種参入が始まっています。直近では、Googleがpring(プリン)という決済サービスを提供している日本のベンチャー企業を買収したニュースが流れました。これでGoogleも国内で金融サービスを提供することが可能になりました。どんなサービスを展開していくのかが非常に注目されていますし、国内の金融機関やフィンテックの企業は戦々恐々としています。
三つ目に、コロナ禍です。これにより、リモートワークやビデオ会議は当たり前になりましたし、大規模なイベントや展示会は開催が難しくなっています。当然オフィスに出勤していませんので、対面でのアポイントを取ることもこれまでのように電話をかけたり、飛び込み営業をしたりなんてこともできなくなっています。働き方の変化に伴い、営業活動そのものも大きく変化していかなければいけないという現実が起きています。
こうした状況下で、誰もが手にするスマートフォンによるデジタル環境の激変は、あらゆる業種において無視できませんし、もしかするとGAFAが自社のビジネスに参入してくるかもしれない。そして何よりもコロナ禍により、非対面・非接触を前提とした事業継続はどの企業にも大きなテーマとして立ちはだかっています。デジタルをより良く活用し、顧客体験を変える意味合いが高まっているのです。
デジタルがわかればDXは成功する、は間違い
ところがDXをやろうと言いつつも、いつもそれらのプロジェクトは、デジタルのずっと手前にもっと泥臭い作業が山積みです。前作でも書きましたが、必ずしもデジタルの専門家でなくともDXのプロジェクトを推進することができるというのは、まさにここに理由があります。
DXに関する最大の誤解は、デジタルの専門家じゃないと実行できない、うちにはDX人材がいないからできない、というものです。はっきり申し上げると、デジタルがわかればDXが成功するなんて大きな勘違いです。それが正しいとすれば、ITのコンサルタントは皆DXを成功させているはずです。ところが、そんな専門家だって簡単ではないのがDXです。
私たちの経験からするとデジタルの専門家でなくてもDXには取り組めますし、成功に導くこともできます。なぜなら、DXで何より大切なのは、自社の事業を正しく理解した上で「目的と課題の正しい設定をすること」だからです。それさえできれば解決方法は必ずあり、デジタルテクノロジーはとても強い武器になってくれます。DXは目的ではなく、常に手段であることがどこか忘れ去られてしまうのが実情です。事業や現場の変革に泥臭く取り組みながらデジタルを活用していくという、多くのDXプロジェクトで起きているリアリティを皆さまにお伝えしたく、今回改めて筆をとりました。
この物語は、DX担当を半ば押し付けられた一人の若者とその周囲の人々、組織、事業そして会社全体が変革していくプロセスを通じて、実際のDXの現場で何が起きるのか? 何で躓いてしまうのか? それをどうやって乗り越えていくのか……というDXの実践的課題を皆さまにわかりやすくお伝えしたものです。
本編に出てくる会議や役員会などのシーンの数々は、私自身が実際に毎日様々な企業のDXプロジェクトで直面するシーンを取り入れていますので、リアリティ満載です。
業種問わず、DXの取り組みをやっていて全く同じような悩みや課題に直面することが多いのですが、その悩みの乗り越え方も共通することが非常に多くなっています。
つまり、この物語の主人公・岬ましろが直面していく悩みとその突破方法は、きっとどこかで皆さんのお役に立つと思います。DXの形はそれぞれですが、直面する悩みはいつも似ているという構造をご理解いただきながら、ぜひ岬さんと一緒にDXの旅を疑似体験してみてください。
※本書に出てくる登場人物は実在の人とは関係ありません。
【目次】