その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は奥山月仁さんの 『“普通の人”だから勝てる エナフン流株式投資術』 です。

【はじめに】

 私は普通の会社員です。株式投資を始めたのはかなり早く、高校2年生のときでした。大学では経済学部に入り、ゼミで証券理論を学びました。ですが勝ったり負けたりが続き、資産は一向に増えませんでした。そんな私が株式投資で安定した運用成績を残せるようになり、数億円に及ぶ資産を築くことができたのは、米国の伝説のファンドマネジャー、ピーター・リンチのおかげです。

 リンチは、米資産運用大手フィデリティの旗艦ファンド(投資信託)を1977年から13年間運用し、1年当たり平均29%のリターン(運用益)を上げて、ファンドの純資産総額を700倍に増やしました。その彼がアマチュアの個人投資家向けに自身の投資法を解説した本をたまたま手に取ったのです。何度も何度も読み返して、そこに書かれたリンチの投資法を咀嚼し、日本の個別株に応用して売買を実践してきました。そして気が付くと、随分と資産が増えていたのです。

 このように私の会社員投資家としての人生に転機をもたらしたリンチの著書『ピーター・リンチの株で勝つ』(ダイヤモンド社)、『ピーター・リンチの株式投資の法則』(同)の2冊は、ぜひ日本の多くの個人投資家に読んでいただきたいと思っています。

 もっとも、ひょっとすると、この2冊を読んでもピンとこない方も少なくないかもしれません。まず、2冊に書かれている内容はインターネットが普及する以前の出来事であり、すごく昔の話に感じられます。「世界中の膨大な情報をAI(人工知能)が高速処理して瞬時に売買を繰り返す現代の株式市場でも通用するのか」と、疑問を感じる方がいてもおかしくありません。次に、著者のリンチは株式投資のプロ中のプロです。「アマチュアの個人投資家がまねをしようにもそう簡単にまねできるものではないだろう」と考える方もいらっしゃるでしょう。さらには、紹介されている株式投資の具体例は25年以上も昔の米国企業のものです。既に倒産して現在は存在していない企業も含まれています。今の日本の個人投資家が読んでも、実感が湧かないかもしれません。長期投資もやってみたい方など、幅広い読者の方にもお勧めしたい。

 そこで、私は自ら実践してきた株式投資について自分で本を書くことにしました。リンチに倣って日本の個別株を売買してきた結果、実際に億単位の資産を築くことに成功した私が、自分なりの目線で日本企業の株を例にしてリンチの投資法のエッセンスを紹介すれば、日本の個人投資家の方々の共感を得ながら参考にしてもらえる本が書けるのではないか。そう思ったからです。

 私は常々、日本でも個別株を売買する個人投資家がもっと増えるべきだと考えてきました。株式市場は様々な視点を持った投資家が数多く参加することによって厚みが増し、市場としてより良く機能するようになります。金融のプロだけでなく、自分の仕事や専門分野に精通しているビジネスパーソンの方々が独自の目線で株式市場に参加することが増えれば、株価がより適切になることが期待できます。

 実際、恐らく本書を手に取られた方々の多くが、自分の働く業界についてのマスメディアの記事や証券アナリストのリポートを読んで、違和感を覚えた経験をお持ちでしょう。「大きくは間違ってはいないが、一番大事なことが書かれていない」。そんな感想を抱かれたあなたこそが、株式市場に参加すべきなのです。

 また、私は周囲の会社員を見て、彼らを勇気づけたいとも思っています。ほとんどの人が「自分がお金持ちになることは一生ない」と諦めてしまっているからです。出世を志しても、ライバルである同僚たちも必死で、一握りの役員に上り詰めることは簡単ではありません。仕事に追われて心を病んでしまう人も少なくありません。そうした目の前の状況にとらわれて、「自分は富裕層と呼ばれるところにはどうやってもたどり着けない」という考えに支配されてしまってはいないでしょうか? 株式投資はそんな人生観を根本から覆すパワーを持っています。

 実際、株式投資がうまくいけば、こんなに幸せなことはありません。会社では仕事で成果を上げたからといって、上司が必ず認めてくれるとは限りません。その点、株式市場は完全な実力社会です。あなたが正しく判断して行動することができれば、その努力は全て結果として表れて相応の評価を受けます。手にする報酬も膨大です。仮に50万円で買った株の価格が3倍になれば、100万円も資産が増えます。もし給与だけで収入をさらに100万円増やそうとした場合、一体どれだけの努力を必要とするでしょうか?

 株式投資で資産を大きく増やすことができれば、「こんな会社、辞めてやる」と上司に辞表をたたきつけるという選択肢も手に入ります。私自身はこのカードをまだ切ってはいませんので、普通の会社員を今でも続けていますが、「嫌ならいつでも辞められる」という切り札を持つことで肩の力が抜け、仕事から受けるストレスも大きく軽減されたと感じています。さらに株式投資の勉強をすれば、それによって得た知識は、投資だけでなく本業のビジネスにも必ず役に立ちます。

 ところで、あなたは今、一体いくら預金をしていますか。銀行が貸出先を探しあぐねている今日のような状況で、あなたが銀行に預けたお金は社会にとって有効に使われているといえるでしょうか。株式投資を通じてこれから成長が期待できる会社に資金を提供することは、確実に社会にとっても意味のある行為です。生きたお金の使い道といえるでしょう。努力が正当に評価されて、自分の人生が勤め先の会社にしばられなくなり、常に新しい学びも得られる。あなたのお金や才能を十分に社会に役立てることができて、しかもリッチな生活を送ることができる。これこそ、理想の人生といえないでしょうか!

 不思議なのは、株式投資の扉は誰にも開かれているにもかかわらず、ほとんどの人が近づこうともしないことです。いろいろと原因はあると思います。ただ一つ言えるのは、英語やスポーツなどと違って、株式投資を体系的に学習できる仕組みが日本にはほとんどないことです。専門用語を一通り覚えたら、後は独学と度胸で何とかやっていくしかありません。うまく経験を積んで、自分なりの投資スタイルを構築できる人は少なく、初心者の方の多くは何かをつかむ前に損を繰り返して脱落してしまいます。

 そこで本書では、私が考案した「つ・な・げ・よ・う分析」というフレームワークを使って、初心者レベルを突破するための道筋を分かりやすく体系的に示しました。株式投資を始めたものの、なかなかうまくいっていない方、あるいはこれから株式投資を始めようと考えている方、さらに株式投資でそれなりにうまくやっているけれども、一度考えをまとめておきたい方など、多くの方に本書を手に取っていただければ幸いです。


【目次】

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