その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はピーター・H・ディアマンディス(著)、尼丁千津子(訳)の『 科学的根拠による体調メンテナンス大全 』です。「この本を書いたわけ」と「はじめに」をお届けします。
この本を書いたわけ
63歳の現在、私は、肉体面でも精神面でも活動能力の面においても、これまでで最高レベルの健康状態にあると感じている。この自信は、さまざまな数値測定やバイオマーカーのデータによって裏づけられている。今のレベルに到達できたのは運ではなく、「健康寿命(ヘルススパン)」を重視して努力してきたからだ。この最高の健康状態を次の10年間維持し、開発が進められている次世代の医療技術(老化を遅らせ、止め、さらには逆転させることが期待される)を迎え入れることを自分の使命としている。
この10年、私の関心は人間の長寿、より具体的には健康長寿の研究にあった。バイオテクノロジー、栄養、運動の方針、睡眠、そして最近では健康と長寿サービスに携わる人工知能(AI)に至るまで、研究に没頭し、多くの研究論文などをむさぼり読んだ。また、多種多様なポッドキャストから学び、自らのポッドキャスト『ムーンショット』で第一線で活躍する科学者たちに話を聞き、主催している「アバンダンスサミット」や「ロンジェビティ・プラチナムトリップ」では、数え切れないほどの公開対談をこなしてきた。さらに、私が創設あるいは共同創設したファウンテンライフ、ライフフォース、セルラリティ社、ヴァクシニティ社、「アバンダンス360」、シンギュラリティ大学、そしてXプライズ財団などで、数多くの一流科学者や医師と密接に仕事をしてきたことを誇りに思っている。
本書[原書タイトルは『LongevityGuidebook』]の目的は2つある。まず、「情報を整理してわかりやすくすること」、2つ目は「実際に取り入れやすい方法を示すこと」だ。世間には長寿に関する情報が山ほどあるが、それらを体系的に理解し、実用的に生かすのは簡単ではない。そこで本書を、数時間で内容をすべて把握でき、必要なときにすぐ見返せるよう実用的なガイドとして設計した。私は本書が、今後10年間で起こると期待されている、健康寿命を延ばす画期的なブレークスルーへの架け橋となることを願っている。
本書があまりにコンパクトだからといって、その価値を過小評価しないでほしい。本書で目指したのは、情報を集めることではなく、科学的裏づけを維持したまま、いかに消化しやすいようにまとめることかできるかだった。結局のところ、健康書を何冊も買い集めたところで、読まれなかったり、具体的な実行計画につながらなかったりでは意味がない。
私はこの本が読者の皆さんの役に立つことを切に願っている。だが、それ以上に、本書が皆さんに「健康を最優先する」という意識を芽生えさせるきっかけになることを願っている。今日の世界では、健康こそが新たな富だ。私の好きな格言をひとつ紹介しよう。「健康な人には千もの夢がある。失った人には、ひとつの夢しか残らない」。これからの10年が、あなたにとって特別なものになることを願っている。
ピーター・H・ディアマンディス
X プライズ財団創設者兼エグゼクティブ・チェアマン
シンギュラリティ大学エグゼクティブ・ファウンダー
アバンダンス360、アバンダンス・プラチナム創設者
ファウンテンライフ共同創設者兼会長
はじめに
私たちはヘルススパン革命の真っただ中にいる
本書では、私が実践している長寿のための取り組み、つまり健康寿命を延ばすための方法を共有する。これらの学びや実践手順は、「ロンジェビティ・プラチナムトリップ」やポッドキャスト『ムーンショット』で私が行った300回以上のインタビューや、ファウンテンライフの医療チームの専門的な意見を通じて得られたものだ。
まずは、この健康寿命革命が起こっている背景をざっと確認し、「寿命脱出速度(LEV)」という概念を探ってみよう。簡単にいえば、AI、ゲノミクスなどの「オミックス技術」、CRISPR(クリスパー=ゲノム編集ツール)、遺伝子治療、細胞医療、侵襲式・非侵襲式センサーといった指数関数的に進歩する技術の融合によって、「なぜ老いるのか」を理解し、その進行を遅らせ、止め、さらには逆転させることすら可能になりつつある。
専門家たちは、今後10年で起きる医学的ブレークスルーによって健康寿命を何十年も延ばせるようになる、と予測している。
健康寿命(ヘルススパン)とは、慢性疾患や加齢に伴う障害を抱えることなく、健康に過ごせる人生の期間を指す。単なる寿命の長さではなく、生活の質を重視する概念だ。一方、寿命(ライフスパン)とは健康状態に関係なく、生まれてから死ぬまでの期間を意味する。ライフスパンが「生きた時間」を示すのに対して、ヘルススパンは「健康に、活動的に生きられる時間」を指している。
したがって、あなたのミッションは、最先端の診断技術を駆使して病気を早期に発見し、健康を維持することだ。そうすれば、これから到来する新たな医学的ブレークスルーに健康なままたどり着き、さらなるヘルススパンの延伸につなげることができる。
近づいている寿命脱出速度
では、私たちは一体何歳まで生きられるようになるのだろうか。
1980年代終わり、私が医学大学院生だったある日曜の午後、「長生きする海の生物」というドキュメンタリー番組を見たことを今も鮮明に覚えている。
北極のホッキョククジラの寿命は200歳、ニシオンデンザメは何とその倍の400歳、場合によっては500歳も生きる。驚くべきことに、このサメは200歳になっても、子どもを産めるという。
それを知って私は思った。「こんなに長く生きられる動物がいるのに、なぜ人間はそこまで生きられないのか?」
私は技術者として、問題はハードウェアかソフトウェアのどちらかにあると考えた。つまり、ゲノム[全遺伝情報]の改変や、細胞の修復によってやがて解決できる問題であり、そのときはそう遠くないはずだと思った。
私の親愛なる友人でシンギュラリティ大学の共同創立者、そしてグーグルの未来学者でもあるレイ・カーツワイルと、著名な生物老年学研究者であるオーブリー・デグレイは、「寿命脱出速度」という概念についてともに語っている。それは次のような興味深い考え方だ。
推定によれば、今日の科学と医学は、私たちの寿命を毎年およそ3カ月延ばしている。近い将来、医学のさらなるブレークスルーによって、「1年生きるごとに寿命が1年以上延びる」ようになる。それが現実になったとき、私たちは真の意味での長寿を考え始めることができる。
その概念が「寿命脱出速度」と呼ばれているものだ。
私は寿命脱出速度に達する時期について、健康・長寿分野で活躍する多くの第一人者に予想を尋ねてきた。その答えは大きく異なっているが、私が最も大きな信頼を寄せているのは、この分野を牽引しているカーツワイルとデグレイの2人だ。
カーツワイルの著作は、この分野における知的マイルストーンとなっている。ニューヨーク・タイムズ・ベストセラーになった『ポスト・ヒューマン誕生』(2007年、NHK出版)や、最新の著作『シンギュラリティはより近く』(2024年、NHK出版)は、人工知能などの指数関数的に進化する技術分野における最も信頼できる書物だ。
カーツワイルは卓越した才能だけでなく、未来予測の正確さで最も有名だ。現在までに彼が発表した全147の予測のうち、実に86%が的中している(詳細は、ウィキペディアのカーツワイルの項目参照)。
LEV到達時期について問われたカーツワイルはこう答えている。「健康状態が比較的良好で、ある程度の経済力を持つ人なら、2030年末までには寿命脱出速度に到達できると考えている」
ハーバード大学医学大学院のジョージ・チャーチ博士も、同様の時期を示している。遺伝学、合成生物学、長寿研究の最前線における権威であるチャーチ博士の先駆的な研究は、従来の科学の境界線を越え、ゲノム解析、遺伝子編集、遺伝子合成、そして加齢研究の新たな分野を切り開いてきた。彼は、最先端の合成生物学関連企業を50社以上創業し、そのなかには人間の臓器再生を研究する企業から、絶滅動物の復活に取り組む企業(コロッサル社)まである。博士によれば、「DNAの解析、合成、編集や遺伝子治療の速度とコストを劇的に改善してきた『指数関数的に進歩した技術』は、今や老化を逆転させる研究分野に応用され始めている」という。
そしてチャーチ博士はこう付け加えている。「老化を逆転させる技術が進歩すれば、10~20年以内に、つまりあと1度か2度の臨床試験が進むくらいの期間で、人類は寿命脱出速度に到達可能になる」
これは何を意味しているのだろうか。人類は現在の最長寿記録である122歳を超えて、さらに健康寿命を延ばせるのか。200歳以上、あるいは無限に生きられるのか。
最近、私の友人でハーバード大学医学大学院の遺伝学教授であり、『ライフスパン』(2020年、東洋経済新報社)の著者でもあるデビッド・シンクレア博士と、このテーマについて私のポッドキャスト『ムーンショット』で語り合った。
私は、「人間は何歳まで生きられるのか、寿命に上限はありますか?」と切り出した。
シンクレア博士の答えは、実に勇気づけられるものだった。「生物学的な上限はありません……ええ、間違いなく。私たちは、200年も生きるクジラと同じ物質でできており、ゾウカメとも同じものからできています。何千年も生きる樹木ともほぼ同じ物質でできています。私はこの分野に自身のキャリアを賭けています」。博士は続けた。「老化はソフトウェアの問題です。そして生物学が面白いのは、そのソフトウェアがハードウェアを再構築する能力を持っていることです。だから、必要なのは、ソフトウェアをリセットすることなのです。私の研究室でソフトウェアをリセットしてみたところ、動物の組織は再生し、人間の臓器のミニチュアであるオルガノイドも再生された。それらは自己修復し、まるで新しい臓器のように再び機能し始めるのです。というわけで、私の考えでは、老化の問題の99%はソフトウェアにあります」
あなたは何歳まで生きられるか? 遺伝とライフスタイル
寿命は多くの要因によって決まる。出生地、遺伝的特徴、食生活、そして心の持ちよう(マインドセット)だ。多くの人は、長寿はほとんど遺伝で決まっていて、生まれ持った遺伝子によって運命づけられていると信じている。
だが、真実は驚くべきものだ。
2018年、科学者たちは、遺伝子検査から得られた家系・親族関係の巨大データベース5400万人分を解析し、「寿命は遺伝子とほとんど関係がない」と発表した。
実際、遺伝による寿命への影響は約7%にすぎないという。
その影響を最も高く見積もった推定値でも30%程度だ。つまり、少なくともその70%は自分自身が年齢をどのように重ねるかをコントロールできるということだ。
健康寿命を左右する力は、あなたが思っている以上に自身の選択にかかっている。
そして、加齢が慢性疾患と最も強く相関するリスク要因であることは間違いない。だからこそ、「老化を遅らせ、止め、さらには逆転させる」ことにより、病気そのものを防ぐことが、すべての人にとって最優先の健康目標であるべきなのだ。
今後の章で見ていくように、診断技術や治療法の進歩によって、病気をごく初期に発見し、治療したり、進行を食い止めたりできるようになってきている。かつては医学の手が届かなかった領域が、今や可能になりつつある。
この先の旅路
このあとの章では、私が学び、整理し、取り入れたことを詳しく紹介する。これは自分自身の健康の「最高責任者(CEO)」になるために何をすればいいのかの実践的なガイドだ。私の経験では、長寿、健康、食事の「ハウツー本」の大半は、長すぎて理論にばかり偏り、実行するのが難しい。だからこそ私は、シンプルで読みやすく、参照しやすく、実践しやすい内容にしようと試みた。本書が、今できる現実的な取り組みを通じて健康寿命を延ばし、これから訪れる人生を一変させるような進歩に備えるガイドとして役立つことを願っている。
──ピーター・H・ディアマンディス
【目次】






