その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はトリーシャ・グリーンハーフ、ポール・ダイクストラ(著)、後藤匡啓(解説)、日経メディカル編集部(訳・編集)の『 医学論文を正しく選び・読む技術 生成AIに振り回されない基礎知識 』です。「第7版 序文」をお届けします。

【第7版 序文】Trishaより

 この本の初版を1996年に出版した当時、私は家庭医療の若手医師で、大学講師でした。エビデンスに基づく医療(EBM)は、まだよく知られていない概念でした。2024年の現在、私は引退を間近に控え(臨床診療はすでに行っていませんが、フルタイムの教授としては今も働いています)、エビデンスに基づくヘルスケア(EBHC、もはや「医療」だけではありません)は、科学と臨床診療の世界で重要な力となっています。この第7版は、Paul Dijkstraという新たな共同著者と一緒に執筆しました。Paulはコンサルタント医かつ研究者で、自身の臨床分野であるスポーツ医学でEBHCを厳密かつ創造的に実践してきた人物です。

 この本の構想が生まれた1995年ごろ、私を含む一握りの学者たちは、すでに熱意を持ち、臨床診療に対するきわめて論理的かつ系統的なこのアプローチを広めるために、「指導者を指導する」コースを始めていました。他方で、大多数の臨床医は、これは重要性の限られた一時的な流行で、決して定着しないだろうと考えていました。私が本書『How to Read a Paper』を書いた理由は2つあります。1つは、私のコースの受講生たちが、当時「Dave Sackettの大きな赤い本」と呼ばれていた名著(Sackett DL, Haynes RB, Guyatt GH, Tugwell P. Clinical Epidemiology: A basic science for clinical medicine. London: Little, Brown; 1991)に示された原理を、より平易に学べる入門書を求めていたからです。この本は卓越した啓発的な書籍で、すでに第4刷に入っていましたが、初心者には難しく感じられることがありました。第2に、EBMの批判者の多くは、実は自分たちが否定している対象をよく理解しておらず、その理解が進まない限り、臨床、教育、さらには政治的領域で、学問としてのEBMの役割に関する真剣な議論を始められないと思えたからです。

 『How to Read a Paper』が多くの医学部や看護系学部で標準的な読本となり、これまでにフランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、中国語、ポーランド語、日本語、チェコ語、ロシア語を含む20言語以上に翻訳されていることを、とてもうれしく思います。また、当初は学界で周縁的なテーマとみなされていたものが、臨床現場において確かな主流となったことも喜ばしいことです。例えば英国では、すべての医師、看護師、薬剤師(そして管理者は管理業務において)が最良の研究エビデンスに従って仕事をすることが、契約上の義務となっています。

 本書の初版が出版されてから28年間、EBM(そしてより広い意味でのEBHC)は人気の盛衰を繰り返してきました。今日では、何百もの教科書と数万の学術論文が、本書の以下の章で簡潔に扱う「EBMの基本」について、さまざまな角度から論じています。その中には、特定の状況におけるEBHCの固有の限界を指摘するものも増えています。また、EBMやEBHCは、特定の時期(1990年代)と場所(北米)で始まり、特定の利害関係者にさまざまな波及効果をもたらしながら急速に広がった社会運動=「バンドワゴン」として見る論考もあります。

 この古典的な入門書の最新版を、Paulと共に作り上げることは喜びでした。新しい共著版は、以前の単著版よりも躍動的で多彩になったと感じていますし、皆さんにもそう思っていただければ幸いです。これまで同様、内容をより正確で、読みやすく、実践的なものにするためのフィードバックを歓迎します。

【第7版 序文】Paulより

 妻のAndreaと私が『How to Read a Paper』を初めて手にした当時、私は若いスポーツ医学医、Andreaはオックスフォード大学で実験治療学を学ぶ修士課程の学生でした。将来この本の第7版をTrisha Greenhalghと共著する栄誉にあずかるとは夢にも思いませんでした。Andreaは私にオックスフォードとthe Centre for Evidence-Based Medicineを紹介し、Trishaは、私にとって新しい世界だったEBHCへの扉を開いてくれました。『How to Read a Paper』は、私の学部・大学院初期の教育における不備を浮き彫りにし、スポーツ医学の診療のしかたを変えました。この本は、よりエビデンスに基づいて考え、患者の専門性をこれまで以上に尊重し、よりよく傾聴し、より問いを立て、ヘルスケア(およびその他の分野)の論文をより批判的に読む姿勢を私に育てました。第7版でTrishaと仕事をしたこと(そして、私のEBHCの博士課程における5 人の指導教員の1人としてTrishaに指導を受けられたこと)は、啓発的な経験にとどまらない、今も続く喜びと謙虚さに満ちた学びの旅であり、深く感謝しています。この旅から得た学びを、皆さんとも分かち合いたいと思います。

 第7版の準備にあたって、私たちは前版に対する公式レビューから着手し、併せてSNSで改善点についての提案を募りました(本書の主な読者である学生からの提案も含みます)。求められたのは、より多様な章構成、最新の事例、そして、おそらく最も重要な提案として、人工知能(AI)革命がEBMとEBHCをどう変えるについて取り上げることでした。結局のところ、ChatGPTの時代にあっては、もはや自分で論文を読む必要はないのかもしれません。デジタルアシスタントが代わりに読んでくれるのですから!私たちは、ビッグデータ研究や、その他AI支援の研究の例を増やしました(特に第17章を参照)。また、章を2つ追加し、メカニズムエビデンス(第18章)と、コンセンサス形成手法の報告論文(第19章)を扱いました。

Trisha Greenhalgh
Paul Dijkstra
2024年9月


【目次】

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