その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は岡本邦夫さんの『 間違いだらけの知識を正してトラブルを防ぐ 表面処理の教科書 』です。

【はじめに】

 本書は、設計や生産技術の第一線で使える実践力を身に付けるための表面処理の教科書です。表面処理は、自動車から家電製品、産業機器、日用製品まで、高機能なものづくりにとって必要不可欠な技術です。外観品質を高めたり、防食機能を付与したり、摩擦を低減し潤滑性を高めて省エネ・低燃費にしたりと、付加価値の高いさまざまな機能を製品や部品に付与することができます。

 しかも、素材自体は変えないので、比較的短時間かつ低コストで処理できるという利点もあります。

 表面処理は日本の製造業にとって競争力の源泉と言っても過言ではありません。実際、表面処理に対する期待は年々高まっています。

 ところが今、表面処理を施したにもかかわらず、「コストがかかるばかりで期待した効果が得られない」という声が、多くの技術者から聞こえてきます。その大きな原因は、表面処理に対する認識が不足していることにあります。そのため、見当違いの表面処理を行ってしまい、期待した効果が得られないばかりか、トラブルに直面することも少なくありません。

 一般に、表面処理の技術を学ぶ場合、表面処理の技法を徹底的に追求します。しかし、製品を信頼性の観点で見ると、それでは足りません。狙った目的を実現するためには、表面処理を支える要素技術の基本知識を身に付けなければならないのです。

 本書は、製品設計において最適な表面処理を施すために、「原理・原則」まで深掘りして理解し、トラブルや失敗を回避して、信頼性に優れた高品質の表面処理を実現するための実務の基本書です。初学者から理解できるように、豊富な図版と分かりやすい文章で執筆しました。

 例えば、塗装の場合、その目的は外観品質の高さと防錆(ぼうせい)が期待されます。これらは塗料そのものの特性に起因します。しかし、製品として見たときは、塗料の基材への密着性の良しあしが塗装の剥離に影響を与えます。すなわち、密着性が製品の信頼性に大きな影響を与えることは理解できると思います。

 密着性は塗装だけに関係する要素技術ではなく、「接着」や「めっき」の密着性と共通の要素技術でもあります。「接着」とは基材同士の接合面に接着剤を介して接合する技術であり、耐剥離性のためには、基材と接着剤の密着性が重要です。また、「めっき」も、めっき金属を電気的・化学的に基材表面に乗せる技術であるため、耐剥離性の観点で基材とめっき間の密着性は重要です。

 つまり、塗装、接着、めっきなど、一見異なった表面技術手法であっても、その密着メカニズムをミクロな視点で捉えると、密着性は共通の技術なのです。密着メカニズムを学ぶことの大切さが分かると思います。

 表面処理を施す目的は、塗装や接着、めっき以外にもあります。例えば、部品間の摺動(しゅうどう)特性や耐摩耗性の向上などのために、部品表面に熱硬化処理や窒化処理などを施します。しかし、多くの技術者は、なぜ硬度アップが必要なのか、また硬度アップのメカニズムは何かなどについて、よく理解しないまま表面処理を行っているというのが実態です。

 例えば、表面硬化処理法としてショットピーニングがあります。この手法は一見、熱硬化処理や窒化処理とは全く異なった手法に見えます。しかし、ミクロな視点に立って硬化メカニズムを学ぶと共通項が見えてきます。また、信頼性の観点で見たとき、耐疲労性と応力の関係が見えてきます。応力には残留引張応力と残留圧縮応力があります。耐疲労性の向上を考えたとき、残留圧縮応力は「有益」ですが、残留引張応力は「有害」にしかなりません。

 表面処理の手法にはさまざまなものがあり、その手法や条件によって部品表面にいろいろな特性が出現します。表面処理の基礎知識を理解するためには、表面処理の手法と関連する要素技術を学ぶ必要があります。

 以上の観点から、本書は表面処理の基礎全般を理解するために次のような章立てとしました。

第1章では主に、表面処理の用途と目的
第2章では密着性(密着性も要素技術の一種ですが、ほとんど全ての表面処理に関わるため、あえて独立した章としました)
第3章では各種要素技術(摩擦・摩耗、耐疲労性、腐食防食、応力など)
第4~11章では各種表面処理の手法(熱処理、めっき、蒸着、溶射、塗装など)
第12章では前処理について(全ての表面処理の信頼性に関わる技術)

 本書の狙いは、表面処理に関わる企業の技術者や、これから表面処理を学ぶ学生の方々に、単に表面処理の手法を学ぶだけではなく、 信頼性の観点から各種表面処理に共通する要素技術の大切さを理解して学んでいただくことです。ぜひ本書をご活用ください。

岡本邦夫

【目次】

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