その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は宍戸拓人さんの 『あなたの職場に世界の経営学を』 です。
【はじめに】
経営学はもっともっとビジネスパーソンの身近なところで役立つ。
一言で言えば、これが本書の基本テーマだ。経営学、特に最新の経営学ともなれば「難解で、自分とは無関係」だと思う人もいるかもしれない。しかし、実際はその逆だ。経営学は実際の経営に役立つことを志向している学問である以上、今の課題に本当に役立つのはやはり今の経営学なのだ。本書が2020年代に入ってからの研究成果も大幅に盛り込んでいるのも、そのためだ。まず、そのことを知ってほしい。
世界の経営学、活用する意義は非常に大きい
学問は先人の成果を次々に更新しながら進んでいく。このため、最新の経営学も当然、それまでの膨大な研究を土台としており、それは長い経営学の歴史の中で培われた英知の結集といえる。一方、リアルな課題を扱う経営学は時代や状況の変化によって、過去の研究が現実にフィットしなくなることもある。最新研究は今の時代に役立つ知見を生かしており、その意味で実践度が高い。
本書の読者は「自分の職場が抱えている課題を何とかしたい」と考える人たちになるだろう。そして、ここには「将来、課題を前にしたとき、あらかじめどうすべきかを考えておきたい」といった人も含まれるはずだ。
職場の課題に直面したとき、「解決に向けて、自分の頭でしっかり考える」ことは、もちろん大切なことだ。しかし、限られたメンバーで考えても、そこから出てくる解決策にはおのずと限界がある。むしろより広い視点から解決策を練るべきだ。その点において、世界の経営学を活用する意義は非常に大きい。
そもそもあなたの職場の課題は本当に、あなたの職場だけの話なのだろうか。
研究者の1人として断言するが、あなたの職場で起きていることは個別なさまざまな事情はあるにしても、本質的には実はいろいろな会社で起きているケースがほとんどだ。経営学はそんな課題こそを対象にしており、しかも、その研究は世界中で同時に行われている。そこには超一流の学者がそろっており、日々新たな研究成果が積み上がっている。本書には米国、イギリス、フランス、ドイツ、シンガポール、中国などの最新研究の成果をそろえている。それだけに世界の英知を生かせるかどうかは、本書を手にしたあなたにかかっているといっていい。
経験を生かす分、実践度が高い
私は大学で教えると同時に、HRテック系スタートアップであるMaxwell's HOIKORO、コンサルティングファームであるConsulente HYAKUNENにも関わっている。2社での経験は本書にも大きく生きておりその分、実践度が高いと自負している。本書を契機に、もっと経営学を身近な存在として、どんどん生かしてほしいと切実に思っている。
私は経営学の世界に入って20年ほどになる。「米国などと比べて日本の場合、経営学と企業に思いのほか、距離がある」と日々感じてきた。「せっかく、これだけの研究があるのに、生かさないのはあまりにももったいない」が本書の動機となった。本書に登場する研究者の所属大学などは論文発表時となっている。
本書の内容は日経ビジネス電子版の連載「現場を変える・経営理論の最前線」がベースとなっている。経営学の最前線の知見を、企業が抱えるさまざまな課題の解決に生かすにはどうすべきか。まだあまり知られていない「経営学の使い方」を引き続き、実践的に探っているので機会があれば、ぜひそちらもお読みいただきたい。
2022年12月 研究室にて 武蔵野大学准教授 宍戸拓人
【目次】