2022年8月、「北書店閉店」というニュースが、新潟のローカル局や地方紙で伝えられると、ツイッター上では閉店を惜しむ書き込みが相次いだ。ところが同年12月、北書店は店舗を移転して再オープン、ツイッターは再びお祭りムードに。ここまで地元に愛されている本屋さんってどんな店なんだろう。JR新潟駅から万代橋を渡って約20分、信濃川沿いのマンションの一角にある同店で、佐藤雄一店長に話を聞いた。

『北書店の本棚』(まちの日々別冊)によると、佐藤雄一さんは2022年3月、トークイベントに出演中、脳出血で倒れ、4カ月入院。佐藤さんが入院中も、北書店は友人たちの手助けで週2日営業を続けていましたが、8月に閉店。ところが12月、場所を変えて復活しました。今はちょうど半年が過ぎたところですが、どんな状況ですか?

 まだまだお店が出来上がっていない感じです。2022年7月に退院した後、後遺症があるなか、8月の閉店に向け10本以上のクロージングイベントを行いました。そして店の撤収、新物件探し、引っ越し、本の搬入と、あわただしい日々を過ごしました。

 12月に再オープンした後も、『北書店の本棚』の制作に追われました。僕の場合、店にどんな書棚を作っていくかは年単位の作業になります。前の店でも形ができたなと思ったのは、開店して3年ほどたってからでしたから。

今もリハビリを続けていらっしゃるんですよね。

 はい。左半身にまひが残りました。左手では物を持てず、杖をついて歩いています。顔の筋肉がこわばったままなので、人前ではマスクを外したくない。

 入院中、身内からは「雄一がこんななら、お店は閉めるしかないだろう」と言われました。でも、すぐには店を閉めたくなかったので、後輩たちに頼んで週2回開けてもらっていました。ところが、「店長倒れる!」みたいなスキャンダラスな出来事があると、お客さんにとってはお店に来る原動力になるんですね。1週間分の売り上げが2日で賄え、最後の月などは空前の売り上げになりました。

「勤めていた北光社から、地続きのまま北書店を始めた印象です」と話す佐藤雄一さん
「勤めていた北光社から、地続きのまま北書店を始めた印象です」と話す佐藤雄一さん

なぜ場所を移転しての再オープンを決めたのですか?

 前の店は約40坪あり、家賃と光熱費、僕の身体の負担を考えれば、一人でやっていくのは難しかったからです。こちらの物件は面積も家賃・光熱費も半分以下になり、なんとかやっていけています。

北書店は一見すると、東京のJR中央線沿線にありそうな書店だと思いました。でも、書棚をよく見ていくとずいぶん違いますね。

 よく「店のコンセプトは何ですか」と聞かれるんだけど、やっている本人も分かっていない。だから「コンセプトがないのがコンセプト」と答えています。別に僕は好みの本や面白いと思う本だけ店に置いているつもりはないし、売れ筋だけ並べているわけでもありません。これだと記事にならないかもしれないけれど(笑)。

 1996年、江戸時代から続いた老舗書店だった北光社に、アルバイトで入りました。20代は毎日、入荷されてくる雑誌や本を並べ、返本を箱詰めする作業の繰り返しでした。返品予定の本のなかで、これは返したらもったいないかなと思って残しておいたら売れた、ということもありました。

 2013年、北光社の最後の店長だった時に、北光社は閉店になりました。その3カ月後、店に残った本や書棚をそのまま引き取る形で、一人で北書店を開業しました。北光社時代のお客さんにも応援していただけたので、まったくのゼロから書店を始めたという気はしませんでした。

 だから北書店は、昔ながらの本屋だった北光社の空気を引きずっているところがあって、最近の独立系書店とは別モノだと思います。僕は今50歳だけど、気がつけば人生の半分書店員をやっている。そうした身体に染みついた知識や経験が、この店にも反映しているはず。

移転前と今では客層は変わりましたか?

 バス停で6つ分ぐらいの距離なんですが、前の店は古町(ふるまち)の向こうの市役所前にあって、ご近所のおじさんやおばさんが多かった。こっちの店は繁華街の万代から近いこともあって、客層がずっと若くなりました。平日よりも週末のほうがにぎわっています。

書棚を案内していただけますか

 こちらには新潟を中心に個人出版の本など、よそには置いていない本が多くあります。柳政利さんという新潟市生まれのグラフィックデザイナーがいらっしゃったのですが、2014年に亡くなりました。『柳政利さんのいた新潟』(認定NPO法人・新潟絵屋刊)を読むと、僕らの世代より一世代前の方のほうが、もっと頻繁にいろんな活動をされていたようです。

「棚は入れ替えている最中で、まだまだ変わります」
「棚は入れ替えている最中で、まだまだ変わります」

こちらの棚は単行本と文庫本が交じっていますね。

 作家の本を著者名の五十音順に陳列しています。単行本と文庫本を交ぜるのは、前の店から続けていました。本の判型関係なしに、小説、エッセー、漫画も一緒にしたほうが、多様な感じに見えるからです。

「漫画といってもなんでも置くわけではなく、谷口ジローや近藤ようこなど、小説の隣に置いても違和感のないものだけ置きます」
「漫画といってもなんでも置くわけではなく、谷口ジローや近藤ようこなど、小説の隣に置いても違和感のないものだけ置きます」
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「この店は信濃川の左岸にあるので、しゃれでフランソワーズ・サガンの本を仕入れておいたら、思いのほか売れています」
「この店は信濃川の左岸にあるので、しゃれでフランソワーズ・サガンの本を仕入れておいたら、思いのほか売れています」
『第二阿房列車』(内田百閒著/新潮文庫)。「第二阿房列車の最初は新潟の旅。新潟に雪景色を見に行こうと思ってたら、東京が大雪になったという爆笑話が出てきます」
『第二阿房列車』(内田百閒著/新潮文庫)。「第二阿房列車の最初は新潟の旅。新潟に雪景色を見に行こうと思ってたら、東京が大雪になったという爆笑話が出てきます」
『孤独の愉しみ方 森の生活者ソローの叡智』(ヘンリー・ディヴィッド・ソロー著/服部千佳子訳/イースト・プレス)。「この本は、お客さんの反応がよくて長い付き合いになりました」
『孤独の愉しみ方 森の生活者ソローの叡智』(ヘンリー・ディヴィッド・ソロー著/服部千佳子訳/イースト・プレス)。「この本は、お客さんの反応がよくて長い付き合いになりました」

 2010年に北書店を初めてから、ずっと売れ続けている本が、『孤独の愉しみ方』(ヘンリー・ディヴィッド・ソロー著/服部千佳子訳/イースト・プレス)。サガンもそうですが、孤独というキーワードは、書店で深く刺さりますね。煎じつめれば、人の悩みごとのほとんどは孤独から来るのかも。SNS全盛の時代になって、かえってみんな孤独感を強めているみたいです。

『骨折映画館』(田口フミヒト、小林ヤスタカ、今野オサム著/リクロ舎)
『骨折映画館』(田口フミヒト、小林ヤスタカ、今野オサム著/リクロ舎)

 こちらは作家以外の著者の本や随筆・評論のコーナー。僕の好きな本も置いてありますが、趣味的な本を集めているのでは、と言われると、ちょっと違う。東京・高円寺に「円盤」という自主制作の音源などを売っているお店がありました。その店の田口さんという店長が、鎖骨を骨折して身動きできなくった。それで古い日本映画のビデオを見まくって、友人たちとおしゃべりしてまとめたのが、『骨折映画館』です。

街をテーマとした本がかなりありますね。

 うちにやって来るお客さんは、観光名所には興味のない人が多い。有名な温泉よりも銭湯。ミシュランに載ったレストランより、赤いカウンターの町中華が好きなタイプ。だから、散歩の本とか路上観察関係の本なんかがよく動く。こちらはコーヒー焙煎家のオオヤミノルさんの本。オオヤミノルさんには、うちでも珈琲教室などのイベントをよくしてもらいました。

『マニア流! まちを楽しむ「別視点」入門』(合同会社別視点編/学芸出版社)
『マニア流! まちを楽しむ「別視点」入門』(合同会社別視点編/学芸出版社)
『喫茶店のディスクール』と『珈琲の建設』(いずれもオオヤミノル著/誠光社)
『喫茶店のディスクール』と『珈琲の建設』(いずれもオオヤミノル著/誠光社)

店の外にも棚がありますね。

 こちらはゴールデンウイークに板を買ってきて自作したばかりのコーナーです。前の店は道路に面していて外に本を置けなかったのですが、ここはスペースがあるので、駅の売店みたいに売れ筋を置いてみたい。『生き方』(稲盛和夫著/サンマーク出版)みたいな本は、店内に置くと浮いてしまうのですが、ここなら大丈夫。いろいろ実験していきます。

店の外の棚には雑誌やベストセラー、実用書を並べている。新潟らしく田中角栄の本もある
店の外の棚には雑誌やベストセラー、実用書を並べている。新潟らしく田中角栄の本もある
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書店の仕事の醍醐味ってなんですか?

 僕がいた北光社は市内の超一等地にあったこともあり、思いつきでやったことでも、すぐ反応があるのが面白くて、すっかりはまりました。例えば、漫画の『サザエさん旅あるき』(長谷川町子著/朝日文庫)10冊を雑誌『るるぶ』の横に置いたら、1週間で5冊も売れたとか、時代劇『鬼平犯科帳』に主演した中村吉右衛門の食エッセーを、原作小説の横に置いたらめちゃくちゃ売れたとかです。

 今、地域で書店を経営するのは「ギリギリアウト」だと思います。「ギリギリセーフ」ではなく、「ギリギリアウト」(笑)。アルバイトを雇う余裕はまったくないし、共働きでないととても生活できません。そうは言っても、僕は本屋を続けることで社会復帰できましたし、この店でお客さんに楽しさを提供していくことができたらと思っています。

北書店を訪れた後、立ち寄るといいお薦めスポットはありますか?

 新潟市にはいい喫茶店がたくさんあって、特に古町近辺に集中しています。例えばシャモニー、パルム、MAKI、エトアール プリュス、香里鐘(カリオン)など。それから観光地化していますが、万代バスセンターにある万代そばのカレー。僕はカレーライスよりカレーそばのほうが好きなんだけど。

取材・文/桜井保幸 写真/佐々木譲

【フォトギャラリー】

北書店は信濃川沿いのマンション「エスカイア大川前プラザ」の1階にある
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レジ台の奥にある古書コーナー
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北書店の12年をまとめた『北書店の本棚』(まちの日々別冊)
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新潟出身の作家、坂口安吾の短編を、近藤ようこが漫画化した『戦争と一人の女』(青林工藝舎)
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『百貨店の戦後史 全国老舗デパートの黄金時代』(夫馬信一著/国書刊行会)。「新潟市にあった百貨店とともに、近くにあった北光社のことも出てきます」
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『洲之内徹と新潟』(砂丘館)。「洲之内徹は『芸術新潮』で気まぐれ美術館という連載を担当していた美術評論家。新潟の画家たちとも交流がありました」
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『まちの文字図鑑・番外編 まちで出会ったかわいいあのこ』(うおのめとるこ・藤本健太郎・松村大輔著/大福書林)
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アートや美術関係書のコーナー
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『戦艦大和の台所 海軍食・グルメアラカルト』(高森直史著/光人社NF文庫)。「なぜかこの本がずっと売れています」
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ブックカバーに押された灯台のスタンプ
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