JR盛岡駅1階にある さわや書店 フェザン店は、出版・書店業界では有名な本屋さんだ。『思考の整理学』(外山滋比古著、ちくま文庫)、『殺人犯はそこにいる』(清水潔著、新潮文庫)をはじめ、同店での展開をきっかけに全国的なベストセラーになった本も多い。さわや書店は盛岡市大通の本店ほか、岩手県・青森県に9店舗を持ち、その旗艦店がフェザン店だ。2019年3月に店長を引き継いだ竹内敦さんにお話を伺った。

『ニューヨーク・タイムズ』の記事が好影響
新型コロナ禍も一段落して、客足は戻りつつありますか?
はい。コロナ禍が明けたのに加え、『ニューヨーク・タイムズ』の記事「2023年に行くべき52か所」で、盛岡がロンドンに続いて2番目の都市に選ばれた影響が出ていますね。外国人客とともに、このニュースを知った日本人のお客さまも増えています。修学旅行客も戻ってきているようです。
とはいっても、出版業界の右肩下がり傾向は相変わらずで、コロナ以前の水準にまでは達していません。そんな中でも盛岡市内の店舗は多少まし、といったところでしょうか。
さわや書店のなかでフェザン店が旗艦店になっているのは、立地面が大きいと思います。地方都市の多くは街の外れに駅がありますが、盛岡駅は街の真ん中にあって、駅の乗降客だけでなく、東西南北さまざまな方が行き交っていますから。
竹内さんは、フェザン店の名物店長だった田口幹人さん、松本大介さんから引き継いで店長になられたのですね。
当店には田口幹人、松本大介、長江貴士という名物店長、店員が在籍していました。それぞれ『まちの本屋』(ポプラ文庫)、『本屋という「物語」を終わらせるわけにはいかない』(筑摩書房)、『書店員X』(中公新書ラクレ)という本を書いています。2019年3月にそろって退社し、私はそのあと店長に就任しました。

以前は有名なカリスマ店長・店員がいて、話題の書店だったかもしれませんが、今のフェザン店はごく普通の書店だと思います。「この街に、この本屋さん」の連載をぜんぶ拝見しました。どうしてうちを取り上げられるのか不思議に思うくらいです。
昔に比べれば、POPやパネルの展開も地味になりました。というか、時間とコストの関係でできません。
担当者が「推し本」を提案
そんなことはないと思います。確かに以前に比べれば、POPやパネルがおとなしめになった印象はありますが、基本的には変わっていないのでは。各棚からは「この本を推したい」という強い思いが伝わってきますし、地元の本の充実ぶりは決して普通ではありません。これは社風というか、代々引き継がれてきた伝統なのでしょうか?
特に会社の方針があるわけでもなくて。あえていえば自由があるんだと思います。マニュアルはないし、朝礼や会議もありません。「店長、今度このテーマでやってみたいんですが」と、担当者の提案があれば、個人の裁量でやってもらいます。ですから、好きな本を並べていいし、ベストセラーばかり置いても構わない。もっとも、自由というのは怖い面もあって、怠けようと思えばいくらでも怠けられます。最終的には売り上げとなって返ってきますが。
当店には私を含め4人の社員がいます。同規模のナショナルチェーンだと社員は1人か2人ぐらい、あとはアルバイトというところが多いので、人員は手厚く配置されているほうだと思います。

POPやパネルはそれぞれの担当者が作っているのですか?
一人イラストやレタリングの上手な者がいまして、その人に依頼する場合が多いですね。簡単なPOPであればそれぞれが作ります。POPは詳しければいいというわけでもなくて、例えば、私は以前ある本に「すごくいい!」と書いただけのPOPをつけたら、すごく売れたので、この本には「ものすごく、いい!!」とつけました。

店頭の一番目立つところにさまざまなタウン誌が並んでいますね。
今は盛岡のミニコミ誌『てくり』のバックナンバーフェアを開催中です。そのほかタウン情報誌『acute』、スポーツ誌『Standard岩手』、北東北(青森・秋田・岩手)の情報誌『rakra』など、4~5点の地元誌を扱っています。

岩手出身作家・岩手舞台の作品がズラリ
こちらのお店には岩手ゆかりの作品がたくさん並んでいます。
先月、遠野市出身の芥川賞作家、若竹千佐子さんの第2作『かっかどるどるどぅ』(河出書房新社)刊行記念としてサイン会を行いました。30人ほどのお客さまが参加され大盛況でした。芥川賞を受賞した前作『おらおらでひとりいぐも』(河出文庫)は、遠野方言の一人語りが出てきて、読んでいくと頭の中がグルグルするような小説でしたが、本書はますますグレードアップしています。
くどうれいんさんは、当店によくいらっしゃる常連のお客さまですが、現在は作家、エッセイストとしてブレイク中です。講談社や新潮社の雑誌で連載を持ち、第165回芥川賞候補作家にもなりました。くどうさんはもともと石川啄木と同じ渋民(しぶたみ)出身の歌人で、盛岡三高(県立盛岡第三高等学校)の文芸部講師をされていました。2018年盛岡にある独立書店「 BOOKNERD 」から刊行したエッセー、『わたしを空腹にしないほうがいい』が出世作となり、人気に火がつきました。

こちらは岩手を舞台にした小説のコーナーです。『彼女が花に還るまで』(石野晶著、双葉文庫)は岩手大学理工学部を舞台とした恋愛小説。直木賞受賞作の『少年と犬』(馳星周著、文春文庫)は震災がテーマの一つで、岩手沿岸部の街が出てきます。
同じく直木賞をとった『雲を紡ぐ』(伊吹有喜著、文春文庫)は、盛岡のホームスパンをめぐる親子三代の物語。
この『影裏』(文春文庫)は芥川賞受賞作で、著者の沼田真佑さんは盛岡に住んでいらっしゃいました。映画にもなりました。
浅田次郎さんの『母の待つ里』(新潮社)は、岩手県にある架空の「ふるさと」を訪ねる物語。遠野がモデルになっています。同じく『壬生義士伝』(文春文庫)の主人公は盛岡藩出身の新選組隊士です。
『ディス・イズ・ザ・デイ』(津村記久子著、朝日文庫)は22の架空のサッカーチームをめぐる連作小説。岩手に限らないのですが、地元チームを応援する日常を描いています。盛岡にもサッカーの「いわてグルージャ盛岡」とバスケットボールの「岩手ビッグブルズ」があるので、共感される方が多いと思います。
『邪馬台国はどこですか?』(鯨統一郎著、創元推理文庫)は、カウンターバーに集う客の会話で構成される歴史ミステリーコメディー。「邪馬台国は岩手にあった説」が出てきます。私はこの本を読んで以来、岩手にあった説を信じています(笑)。



こちらはまた一段と力の入った展開ですね。
岩手でヘラルボニーというスタートアップを立ち上げた双子の兄弟の本です。ヘラルボニーは知的障害を持つアーティストの作品を高級ブランドとコラボして商品化するなど、障害者と社会とつなぐ活動をしている注目企業。2022年秋、盛岡のバスセンター跡地にヘラルボニーがプロデュースしたホテルができました。

お酒のコーナーもあります。
一人お酒が大好きな担当がいまして、『日本酒で“KANPAI”』(久慈浩介著、幻冬舎)という、二戸の蔵元「南部美人」5代目が書いた本が出たので、しめしめとコーナーを作ったのではと思います。お酒の本というのは読者が多くて、よく売れます。

これから目指していきたいことはありますか?
試行錯誤していくと思いますが、あたりまえのことをコツコツやっていくことですかね。最低限赤字を出さないことですね。店長のいちばんの仕事は店を赤字にしないことだと思っていますので。
さわや書店フェザン店を訪れた人が、ついでに立ち寄るといいお勧めスポットはありますか?
岩山公園の展望台に上ると盛岡の全景を眺められるのですが、ちょっと遠いので、盛岡駅西口の高層ビル、マリオスの展望室に上るのがお勧めです。あと土曜日に滞在されるなら、材木町で行われている「よ市」に行かれるといいですよ。出店がたくさん出てにぎやかです。
文/桜井保幸 写真/佐藤到
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