山形県と宮城県で9店を展開する八文字屋は、書籍業300余年をうたう日本最古の書店チェーン。紅花商人だった創業者の2代目が、当時上方で流行していた「浮世草子」(八文字屋本)を持ち帰り、貸本業を始めたのがきっかけ。本店の店内中央には大きな赤ちょうちん、本や雑誌を斜めに並べる独自の陳列、季刊誌の刊行やオリジナル文具の開発など、老舗のこだわりとプライドが感じられる本屋さんだ。五十嵐勇大・八文字屋 代表取締役副社長と、東根智広・本店次長 ストアマネージャーに話を聞いた。
八文字屋は創業三百年余とのこと。現存する書店チェーンとしては、最も古いでしょうか?
五十嵐勇大・八文字屋代表取締役副社長(以下、五十嵐) 自称「現存する日本最古の新刊書店」です。紅花商人だった創業者(五十嵐太右衛門)の2代目が、当時人気を博していた「浮世草子」(挿絵入りの大衆小説)を京都から持ち帰り、貸本業を始めたのがきっかけです。
その浮世草子は、京都にあった板元「八文字屋」が出版していたことから「八文字屋本」とも呼ばれており、その名を屋号としてつけました。いつぞや京都の大垣書店の方から「京都に八文字屋の石碑がありますよ」とメールで写真を送ってもらったことがあります(筆者注:京都市中京区麩屋町にある「八文字屋自笑(じしょう)翁邸跡」の石碑と思われる)。
現社長である私の父も、創業者と同じ五十嵐太右衛門を襲名しています。私は13代目にあたりますが、父はまだまだ元気なので、父と改名の話などしたことはありませんけれども。
この建物は入り口を2つにわけるように屋上に続くらせん階段があり、店の中も吹き抜けの広い空間と内階段があって、とてもユニークな造りです。いつ頃建てられたのですか?
五十嵐 11代目の私の祖父が経営者だった時代、1968年の施工です。当時2階には喫茶店がありました。その時々で文具、クレープ、CD、生花なども扱い、複合型書店の先駆けのような店でした。
うちは本を中心とした小売店です。書店なので本にはこだわりますが、同時にこだわり過ぎないようにもしたいと思っています。書籍・雑誌のみならず、文具をはじめさまざまな商品を扱っています。店舗によってはカフェも併設し、八文字屋という店の空間やブランドを進化させていきたい。結果的に書籍以外の事業が育ち、書籍部門を支えてくれていますが、書店という核があってこそのブランドであると思っています。
喫茶店があったスペースは現在どうなっているのですか?
五十嵐 平日はフリースペースとして誰でも利用可能です。平日は学生さんが自習のために集まることが多く、土日はトレーディングカードゲームの会場となります。その他ジャズのライブやトークショー、サイン会、ワークショップなどさまざまなイベントに活用しています。
書店としての八文字屋の特色は何でしょう。
五十嵐 まず「見せ方」です。オリジナルの什器(じゅうき)を使い、本や雑誌の表紙がよく見えるように棚を傾斜させています。ここは他の新刊書店といちばん違うところです。
五十嵐 常に旬の新刊が並ぶように回転を良くしていきたい。昨今の独立系書店のように、店主のこだわりで本をセレクトするという方針ではなく、新刊、雑誌、文庫、文芸とジャンルやテーマをきちんと分け、本好きのお客様にしっかり刺さるように、世の中で必要とされている本を欠かさないようにしています。もちろん、本好きのお客様をこの地域に増やしていく…という意識も持ちながら、店作りやイベントを行っています。
ホームページを拝見すると、八文字屋の企業風土、店作りには「かぶきもの」精神があるそうですが、どういうことですか。
五十嵐 毎日ワクワク、ドキドキしていたいので、いつも新しいことに挑戦したいと思っています。山形の自然の色にちなんだオリジナル文具の開発や、一昨年創刊した季刊誌『八文字屋plus+』もその1つです。この冊子は年間5万円以上購入いただいたお客様(プレミアム会員、約8000人)に店頭でお渡ししています。
『八文字屋plus+』には、来店のきっかけ作り、お客様へのホスピタリティー向上とともに、販促媒体としての役割もあります。各出版社が新聞や電車内に広告を出した際に、店内在庫が切れていて販売の機会を逃す場合もあります。『八文字屋plus+』も出版社に協賛をいただき、新刊広告を掲載していますが、掲載のタイミングで在庫切れがないように当該本を厚めに仕入れています。
五十嵐 私やスタッフが着ているこのTシャツの胸には、「ムゲンほんやさん」とあります。これは昨年行ったイベント(八文字屋文化祭)で、お客様に本や八文字屋にちなんだ「8文字」を募集し、最優秀賞に選ばれたコピーです。この「ムゲン」の意味は自由に解釈していただければと思っています。
これからどんな書店にしていきたいですか?
五十嵐 今は書店の変革期です。RFID(無線自動識別)タグの導入の動きや経済産業省の書店振興プロジェクトなど、街の書店を残そうという機運が高まっています。そんな中でまずは、本屋として経営を持続できるようにします。それができた上で、「八文字屋」を世界的なブランドにしていきたい。インターネットの時代においては、店が山形にあろうが東京にあろうがあまり関係ありません。最近はイベントを行うと県外からたくさんのお客様が来店されますし、SNSのフォロワーは海外の方も多いので、「ここが世界の中心」と思ってやっています。地元にしっかりと根を張りながら自分たちのブランドを磨き続け、世界にアピールしていきたいです。
ここで、本店次長 ストアマネージャーの東根智広さんに店内を案内いただく。
ホームページの会社概要を拝見すると、従業員53名とあります。人員態勢はどうなっていますか?
東根智広・本店次長 ストアマネージャー(以下、東根) 各店に社員が2、3人いて、その他パート・アルバイトが延べ40人ほど働いています。遅くまで営業しているロードサイド店が大半なので、これくらいの人数は必要です。本店には通販や商品開発部門もあるため、社員だけで7人います。また小中高校の教科書、大学、病院、銀行向けの外商部門もあり、チェーン全体で10人ほど従事しています。
書籍も雑誌も斜めに陳列されている棚が多いですね。
東根 はい。書籍も雑誌も、極力「面」で見せることを心がけています。売り場がごちゃごちゃしないようPOPもあまり置きません。社長からは常々、本の表紙は手間をかけてデザインされているものなので、きちんと見えるようにしなさいと、言われています。
こちらは地域の本のコーナーです。お薦めはありますか?
東根 今話題になっているのが『森とかてもの』(黒田三佳著/山形会議パブリッシング)という本です。著者は米沢在住の、「里山ソムリエ」という肩書で活動されている方で、季節ごとの野草を使ったレシピを紹介しています。
『さよならデパート』(渡辺大輔著/スコップ出版)は、山形県最後の百貨店だった「大沼」についてのノンフィクションです。著者の渡辺さんはこの近くで飲食店をやっておられます。
こちらは郷土の作家のコーナーですね。
東根 山形県出身や山形ゆかりの作家の作品をそろえています。八文字屋本店は昔から文芸書がよく売れ、力を入れてきました。新進作家の小説でお薦めしたいのは、今年3月にデビューした城戸川りょうさんの『高宮麻綾の引継書』(文藝春秋)です。城戸川さんは山形県出身で、この本は商社勤務の傍ら書いたそうです。
中央の階段を登った先には文具売り場があります。八文字屋のオリジナル文具はどれですか?
東根 最もスペースを割いているのが、万年筆用のインクのコーナーです。山形の自然をイメージしたさまざまなインクを企画開発しました。また筆記用具やノート、手帳など、いずれも山形の自然の色を生かした文具をそろえています。
最後に、八文字屋本店を訪れたついでに立ち寄るといいお薦めスポットはありますか?
東根 山形は「食と自然」が魅力的な場所です。市街地にある本店の周りには山形牛や蕎麦、日本酒が楽しめるお店がたくさんありますので、ぜひ「食」を楽しんでいただければと思います。
取材・文/桜井保幸 写真/向田幸二
参考サイト オンラインストア 八文字屋【フォトギャラリー】





















