「本によって、知らないことを知るのが好きなんです」。そう話すのは、群馬県高崎市にある「REBEL BOOKS」店主、荻原貴男さんだ。店内を眺めれば、ノンフィクション、自然科学、社会問題から、まちづくり、デザイン、小説、エッセーなどさまざまなカテゴリーの本が並ぶ。共通しているのは「好奇心を刺激するかどうか」。2013年から小冊子zineの展示即売イベント「ZINPHONY」を開催。県外の人にも高崎を楽しんでもらおうと、「高崎市街地を歩いて楽しむMAP」も配布している。休日には地元や東京の大型書店を巡り、面白本の探索を欠かさない荻原さんにお話を伺った。
高崎に個人経営の新興書店がなかった
荻原さんは高崎出身、東京の大学を出て、東京や浜松で働いたあと、高崎に戻ってきたんですね。
荻原貴男さん(以下、荻原) 高崎で生まれ、東京の大学に入りました。僕は本を読んでいるほうかなと思っていましたが、クラスメートはもっと読んでいました。当時東京には個性的な書店がいくつもあり、例えば下北沢や吉祥寺のヴィレッジヴァンガードでは、お薦め本を強烈に押し出していました。高崎にはこうした店がなかったので、あったらよかったなと思ったのが、書店についての原体験です。
大学卒業後はいったん就職をしたけれど、自分に合わず退職。デザイン学校を経てプロダクトデザインの周辺業務を行う会社に入りました。
その後、転勤で浜松に行かれたんですよね。
荻原 そうです。浜松に住んでいたとき、浜松の面白い店や場所を探索していて、その成果を冊子としてまとめました。取材から編集、デザイン、印刷発注までぜんぶ自分でやりました。それがその後の仕事につながっていくことになります。
大学は教養学部人文科学科で、美術史を専攻し、手を動かすようなデザインはしていませんでした。ただ、演劇サークルで大道具・小道具制作を手伝っており、その経験は今、棚を自作したりするのにつながっているかもしれません。
30歳になって会社を辞め、地元に戻ってデザインの仕事を引き受けるようになりました。数年がたち、高崎には個人経営の新興書店がないから、自分でやろうと思うようになりました。書店経営が大変なことは分かっていましたが、下北沢の「本屋B&B」の内沼晋太郎さんから、書店、ドリンク、イベントの3本柱で経営を成り立たせているという話を聞き、これならやれるかもと具体的に考え始め、2016年12月、開業に至りました。
1人だけなら書店だけで食べていけるかもしれませんが、家族もいますので、デザインと編集の仕事も継続しながら書店を営んでいます。
知らないことを知れる本
REBEL BOOKSの品ぞろえの特徴は何ですか?
荻原 1つは、読者の好奇心を刺激するような本を選んでいること。僕は個人的に、本を通して知らないことを知るのが好きなので、そこは強めに意識しています。
2つ目は店名に「REBEL」とあるように、力を持っている者、支配をする側の本よりも、弱い立場にある者、抵抗する側の本を多く置きたいと考えています。例えばパレスチナ関連の本がたくさんあるのもその1つの表れです。「REBEL」は退屈に反抗するという意味合いも込めていて、社会的なこと、個人的なことの2つの側面があります。
最近は「作ること」の刺激になるような本も増えています。zineもそうだし、何かしらものづくりに関連した本をそろえています。
今年12月で開業9年です。経営は順調ですか?
荻原 開業当初はまったくの手探りでした。そもそも人が来てくれるのかどうか、1年後はつぶれてしまっているかも、と思っていました。結果的にはある程度、お客様が来てくれるようになりました。開業時は500~600冊ほどしか本がありませんでしたが、少しずつ棚を増やし、今は3000冊ほどになっています。
比較的ノンフィクションの本が多いようですね。
荻原 そうだと思います。あとはサイエンス系の本も意外と多いかもしれません。文芸書は他のジャンルと比べれば読んでこなかったのですが、書店を始めてからは文学に詳しい友人の協力も得て増やしてきています。
当店のロングセラーはありますか?
荻原 ずっと売れているのが、『100年後あなたもわたしもいない日に』(土門蘭 文/寺田マユミ 絵/文鳥社)。歌人で文章も書いている土門蘭さんとイラストレーターの寺田マユミさんによる短歌・エッセー・イラストの本です。ご覧の通り、箱と本文に穴が開いているユニークな造本です。
『生活フォーエバー』(寺井奈緒美著/ELVIS PRESS)も、短歌とエッセーからなる本で、名古屋の書店「ON READING」が発売しています。絶妙なおかしみがあって、いろいろ大変なことはあるけれど、まあなんとかやっていこうか、という気持ちになれます。
機会があるたび「僕の一番好きな本」と言っているのが、『センス・オブ・ワンダー』(レイチェル・カーソン著/上遠恵子訳/新潮社)。書名は「自然や命の不思議さに気づく感性」という意味ですが、いろいろなことに適用できます。書店にも「センス・オブ・ワンダー」が必要です。書店とは「好奇心を持って世界を見る場所」であり、「世界の縮図」だからです。
ロマ二語研究者が書いたエッセー
荻原 世界の不思議さという点でいえば、『ロマ二・コード 謎の民族「ロマ」をめぐる冒険』(角悠介著/夜間飛行)もお薦めです。著者はルーマニアの大学で教えている言語学者で、少数民族ロマの言葉「ロマ二語」を研究しています。ロマは映画や小説によく出てくるので興味があったのですが、ロマのコミュニティーに入り込んで、ロマの言葉を研究している日本人学者がいることを知って驚きました。2作目の『呪文の言語学 ルーマニアの魔女に耳をすませて』(角悠介著/作品社)も面白い。ルーマニアには人類学や言語学の研究対象がまだまだ残っているそうです。
地元についての本はありますか?
荻原 『Jibetan(じべたん)vol.1』は、群馬県北西部の吾妻地域に住む5人が作った雑誌です。『聞き書 群馬の食事』(群馬の食事編集委員会編/農山漁村文化協会)で取材を受けた方に、地元の食について再度インタビューをしています。地域雑誌としては非常に内容が濃く、おしゃれすぎないのもいい。
『グンマ コンプレックス』(神谷彬大・岡本章大著)は、群馬の名建築や風景の写真を紹介しながら、群馬県民としての自虐意識を語っているzineです。群馬県は関東平野で東京とつながっているので、何かにつけ東京を意識してしまう。それを著者は「関東平野の端っこ根性」と呼びます。
都市やまちづくりについての本が多いですね。
荻原 はい。10月には都市や建築の本を出している京都の出版社「学芸出版社」のフェアも準備中です。僕は以前アメリカのポートランドを旅したのですが、zineのカルチャーが盛り上がっていて、なんでも手作りしてしまうDIY精神が素晴らしかった。2013年から続けているzineの展示・即売イベント、「ZINPHONY」を始めるきっかけとなりました。
歩いて楽しめる街ということでは、ポートランドと高崎は似ています。当店のお客様のおよそ4割は県外から。せっかく来てくれたのだから、高崎の街も楽しんでいってもらおうと、「高崎市街地を歩いて楽しむMAP」というのを作りました。
一部を紹介すると、ナチュラルワイン好きなら、ワインバー「ルケ」、ナチュラルワイン専門酒店の「橋本屋」。日本酒好きなら「大塚酒店」。昨年オープンしたかわいらしい新刊書店「本屋ブーケ」。また、当店の裏手にある「椿食堂」は、「おいしい家庭料理を出す貴重な定食屋」と評判です。
イベントはどんな企画を、どのくらいの頻度でやっていますか?
荻原 著者さんを招いたトークイベント、デザインの講座やzineのワークショップ、アウトドアブランドのPOP UPなども合わせて、月に二度程度何らかのイベントがあります。年に二度開催している「ZINPHONY」のときは大勢の方がいらっしゃいます。
これからしていきたいことはありますか?
荻原 まずは書店を続けていくことです。ここは人通りの多い場所ではないので、気を抜くと、売り上げは落ちます。お店に行こうかな、どうしようかなと迷っている方の背中を押してあげることが重要です。SNSで本を紹介することは、来店のきっかけになるし、オンラインでも本が売れる。イベントをやると本の売り上げが大きく上がり、参加費もいただけます。コーヒーやビール、日本酒を出しているのも、飲み物があれば、気軽に来ていただけると思うからです。
とはいえ、本屋は棚が面白いというのが大前提です。本が売れて棚を補充する際、同じ本を仕入れるか、新しい本にするか、そのバランスをいつも考えます。棚のフレッシュさも大切。2、3カ月来なければかなり変わっているようにしていきたい。そのためには各版元のサイトを常に巡回し、休日には地元や東京の大型書店を回って、新刊だけでなく、既刊書のなかにも面白い本がないか探しています。未知の面白そうな本を探すのが極端に好きなので楽しんでやっています。
取材・文/桜井保幸 写真/木村輝
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