東京・港区赤坂にある「 双子のライオン堂 」は、2013年に文京区白山で開業、15年に赤坂に移転し、10年目を迎えた。現在の独立書店ブームの先駆け的な書店である。店主の竹田信弥さんは、自著『めんどくさい本屋』(本の種出版)で「本屋を100年続けるために、二足、三足、四足の草鞋を履く」と書いている。「100年書店」の10分の1が経過した今、竹田さんは何を考え、何をしているのか。お話を伺った。

書店のために書店以外で稼ぐ

『めんどくさい本屋』には、週に2、3日はアルバイトをしているとありました。現在もアルバイトをされていますか?

「新型コロナの影響で、アルバイトの日数が減ったり、時短になったりしてしまい、お店とお店に関わる仕事に集中するようになりました。本を書いたときとはずいぶん生活は変わりましたが、アルバイトはまだやっています。外の仕事で店番ができない日には、家族に店番をしてもらっています」

個人経営の書店は、本の売り上げだけで採算をとるのは難しいので、カフェやギャラリーを併設し、イベントを行っているところが多いですね。

「書店の仕事でどこまで採算を成り立たせるかですね。東京都心部は、人口が多く、作家を呼ぶイベントなどもしやすいというメリットがある一方で、書店数が多く競争は厳しいです。地方や郊外は、都心部ほど競争はありませんが、人口が少ないなかで、読書文化をいかに掘り起こしていくかという課題があると聞きます」

「本だけに頼らない仕組みを考えました」と話す竹田信弥さん
「本だけに頼らない仕組みを考えました」と話す竹田信弥さん

「当店の場合、店の売り上げで光熱費と場所代(住宅ローン返済)を賄っています。しかし、それだけでは生活できませんから、出版、本以外の商品開発、イベント、原稿執筆、ラジオ番組出演などさまざまな仕事をしています。

 個人書店の経営の難しさは、結婚や子育て、病気など、自分や家族の事情が経営に直接影響することです。本は1冊売っても売り上げの2割しかもうけになりません。本だけで経営しようとするなら、月に200万円以上の売り上げがなければやっていけないはずです」

天井近くまで本が陳列されている店内
天井近くまで本が陳列されている店内

「当店の売り上げは少しずつ増えていますが、そこまではいきません。どうすればずっと書店を続けられるかを考え、たどり着いた結論は、『本に頼らずに本屋をする』でした。

 私は、『本屋という空間(機能)を100年残したい』という思いでやってきました。そのためには売れる本を並べることも大切ですが、毎月の売り上げに一喜一憂し、ストレスを感じたくはありません。そこで店以外のところでお金を得て、店に還元する、『店舗の売り上げがゼロでも回る仕組み』を考えるようになりました」

双子のライオン堂の最近の出版物
双子のライオン堂の最近の出版物

オリジナル出版やカードゲーム

具体的にはどのようなことをされているのですか?

「まずは出版活動です。自ら企画し、作家や時にはお客さんに原稿を依頼したり、プロデュースしたりしています。部数は商業出版だと2000~3000部程度。東京出版物卸業組合の『神田村』から日販・東販経由で配本されるので、全国の書店に届きます。

 大手書店にこれらの本が並ぶと、単純な売り上げだけでなくお店の認知度が高まるメリットがあります。当店で発行している文芸誌『しししし』には、小説家の他に、ミュージシャンやルポライター、研究者、編集者など多様な書き手が寄稿。大手書店で『しししし』に興味を持ってくれた人が、当店に来てくれたり、他の独立書店を訪れたり、あるいは自ら書店を開いたりするなど、好循環が生まれています。

 紀伊國屋でも丸善でも、出版部門を持っている書店は多いでしょう。書店業と出版業それぞれの利益は小さくても、読者の数を見誤らずにうまく組み合わせていけば、収益を伸ばしていくことができます。

 また商業ルートに乗らないリトルプレスやZINEの場合、部数は300部程度で、当店や仲間の書店で売ってもらっています。

 商業出版で年に2冊、リトルプレス、ZINEで4~5冊は刊行していますから、これだけで結構な仕事になります」

カードゲームを開発しているとのことですが。

「ゲームプロデューサーの友人と一緒に、アナログゲームを開発しています。2019年に販売し、今も世界中でプレーヤーが増えている『AMERICAN BOOKSHOP』というカードゲームは、本がテーマなので、本の形の箱に納めてみました」

「カードゲームは海外で人気があります」
「カードゲームは海外で人気があります」

「アメリカの古書店で店員が古本を使ってポーカー風のゲームをしていたという物語を私が書きました。ゲームショップを中心に、当店と仲間の独立書店などで販売しています。カードゲームの市場は海外が中心のため、輸出も行っています。カードゲームの単価は高く利益率も大きいです。

 最近も新たなボードゲームを作成中で、クラウドファンディングのキックスターターで製作費を募っているところです。

 それからライターとしては、『図書新聞』や『週刊読書人』などでの書評、『本の雑誌』の連載、話し手としては、ポッドキャストや渋谷のコミュニティーラジオの番組も持っています。今後はユーチューブなど動画配信ももっと積極的にやっていきたいと思っています。

 本の企画は、お客さんと話していると無限に湧いてきます。それで形になったのが『街灯りとしての本屋』(田中佳祐著、竹田信弥構成/雷鳥社)や『読書会の教室』(竹田信弥+田中佳祐著/晶文社)などです」

読書会や作家を招いたイベントもたくさん催していますね。

「以前は月に約10回以上リアルでイベントをやっていました。コロナ禍以降は、オンラインが大半になりました。オンラインの書店イベントは気軽に企画できるので、登壇者が重なりやすく、独自性を出しにくいところがあります。また、リアルのイベントに参加したお客さんが、そのあとまたお店に来てくれることはよくあっても、オンラインの参加だと全員が来れる距離ではないので、別のものという感じです。

 私はオンラインよりリアルが好きです。とりわけ読書会で本についてあれこれ話し合うのが好きですね。

 さまざまな活動を行う理由は、お客さんに店のことを知ってほしいというのが一番です。店の存在を知ってもらえれば、いつか来てもらえるかもしれませんから」

作家や研究者による選書棚

お店を案内していただけますか。

「開店当初から、選書専門店と名乗り、作家や批評家、大学の研究者の方々に『100年後まで連れていきたい本』を選んでもらった棚をつくっています。新刊から古典までジャンルは問いません。最初は20人くらいに依頼し、以降毎年2人から3人ぐらい、たまたま知り合った人に依頼して、現在は36人の選書棚があります。最近では『言葉だけの地図』(宮崎智之、山本ぽてと著/双子のライオン堂出版部)を書いていただいたライター・エッセイストの宮崎智之さんに依頼したところです。50年ぐらいかけて、100人分の棚ができればと思っています」

木札に選書者の名前が刻まれた選書コーナー。新刊も古本も交じっている
木札に選書者の名前が刻まれた選書コーナー。新刊も古本も交じっている
木札に選書者の名前が刻まれた選書コーナー。新刊も古本も交じっている

「選書棚以外に、古典・サイエンス・食などテーマ別に並べた棚や、一人出版社の本を集めたコーナーもあります。

 出版社が刊行している全集をそろえることにもこだわっています。河出書房新社の日本文学全集(30巻)は9セット売れました。同シリーズは毎月配本されたのですが、お客さんには本を取りにきてもらっていました。そこで配本された本についての読書会を行い、みんなで読むことにしました。一人で文学全集を読み切るのは大変なことですが、読書会があればそのハードルを下げられます。読書会は書店のアフターサービスでもあります」

「書店は本を売るばかりでなく、もっと本を読んでもらうための活動をしていったらどうか」と話す竹田さん
「書店は本を売るばかりでなく、もっと本を読んでもらうための活動をしていったらどうか」と話す竹田さん

「こちらは思想書や人文書、アジアの翻訳書、リトルプレスのコーナーです。リトルプレスには作家個人がつくっているものや、カフェが出している文芸誌などもあります。本人の持ち込み、ネット経由、『文学フリマ』(プロ・アマ問わず自由に出店できる展示即売会)で見つけて仕入れたりしています」

海外の翻訳文学やリトルプレス、ZINEが並ぶコーナー
海外の翻訳文学やリトルプレス、ZINEが並ぶコーナー

書店仲間のギルドが欲しい

これからやっていきたいことはありますか

「ラジオ番組やイベントなどの場で、独立書店を経営している方と話す機会が増えてきました。私は、書店業界の中だけで頑張っていても限界がある、結局はお客さんの奪い合いになってしまうのではと思っています。

 例えば近年、北海道のいわた書店の成功で、選書サービスを行う書店が増えています。選書サービスは当店も行っていますが、いずれ過当競争になるかもしれません。最初にも述べましたが、書店を続けていくためには、書店だけでなく書店以外のことで仕事を見つけていくことが大切です。

 そのためには書店同士のギルドみたいなものが欲しい。私の知り合いの書店主には木工、パソコンや情報システム、語学など、プロ並みの腕を持っている人たちがいます。そうしたネットワークで仕事を分け合うような仕組みがつくれたらいいなと思います。

 それと東京・表参道の山陽堂書店や長野市の書肆 朝陽館のように、100年以上続く老舗書店がどのように生き残りを図っているのか、店を継いだ方にじっくりお話を聞いてみたいですね」


 双子のライオン堂と竹田さんの魅力は、1本の記事ではなかなか伝え切れない。店舗と同様、多種多様なコンテンツがある同店ホームページには、 双子のライオン堂のミュージックビデオ なるものがある。『言葉なんて』という曲で「双子のライオン堂BAND」が演奏している。表現活動や書店という空間への竹田さんの思いが伝わってくるので、アクセスしてみてほしい。

文/桜井保幸 写真/木村輝

【フォトギャラリー】

双子のライオン堂は赤坂氷川神社の近く、氷川坂下のマンションの一角にある。よく見ると、店の入り口は本の扉の形をしている
双子のライオン堂は赤坂氷川神社の近く、氷川坂下のマンションの一角にある。よく見ると、店の入り口は本の扉の形をしている
黒板の下には、本の束見本を並べている。営業日は水木金土の週4日間
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店オリジナルの手ぬぐい
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読書の邪魔にならないCDなども販売している
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文芸誌『しししし』次号の案内チラシ
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竹田さんおすすめ『台湾書店百年の物語』(台湾独立書店文化協会編著、フォルモサ書院 郭雅暉・永井一広訳/エイチアンドエスカンパニー)。各年代の代表的な書店から描く台湾文化の百年史
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『世界を変えた書物』(山本貴光著、橋本麻里編/小学館)。科学技術に関わる稀覯本の初版を集めた展覧会の図録
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山形県酒田市在住の詩人、多宇加世さんの第二詩集『町合わせ』
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一人出版社や中小出版社の本を多数そろえている
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東日本大震災関連書のコーナー
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「初めて来たお客さんにもハードルが高く見えないように、若林正恭さんの文庫エッセーなども並べています」
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