AI(人工知能)を創作活動に使うことの是非は? SNS(交流サイト)にまん延する冷笑主義や偏った意見にどう向き合っていくのか。ともに小説家として最近デビューし、東京大学・松尾豊研究室でAIを学んだ起業家・経営者でもある山田尚史さんと安野貴博さんが、それぞれの著書『きみに冷笑は似合わない。 SNSの荒波を乗り越え、AI時代を生きるコツ』(日本経済新聞出版)と『 1%の革命 ビジネス・暮らし・民主主義をアップデートする未来戦略 』(文藝春秋)の発売を記念して対談。YouTubeチャンネル「【生成AI】安野貴博の自由研究チャンネル【SF作家】」の番組を再構成し3回にわたりお届けする第2回。2024年の東京都知事選挙で注目を集めた安野さんは、自身が提唱する「デジタル民主主義」の意義も説明します。

『1%の革命』を持つ安野貴博さん(写真左)と『きみに冷笑は似合わない。』を持つ山田尚史さん
『1%の革命』を持つ安野貴博さん(写真左)と『きみに冷笑は似合わない。』を持つ山田尚史さん

創作が得意な生成AIが作品を生産する時代に

安野貴博さん(以下、安野) 山田さんは普段、AIをどんなふうに使っていますか。

山田尚史さん(以下、山田) Google検索や図書館へ行くのと同じように、調べ物に使います。例えば小説で警察の初動捜査のシーンを書こうとしても、事件が起きたときに現場にまず警察のどの地位の人が来るのかなどは、普通に生きていると分からないですよね。ですがAIだとこうしたジェネラルな質問にも一発で「こうだと思われます」と答えてくれるので、その回答を裏付ける調査をすればいいという手順が取れます。本格的な警察小説を書くときにこの方法がいいのかは分かりませんが、警察組織について一から学ぶよりは、知識に直接的にアプローチができるので便利だと思いました。

安野 確かにそうですね。

山田 逆に、AIに設定を与えて代わりに書いてくれ、ということはやりたくないですね。自分で走るより速いからといって、50メートル走でバイクに乗らないのと同じです。人間として走る、その中で自分の体を鍛えて強化をする過程も含めて価値があるのであって、私にとっては移動そのものが目的ではない。小説の創作もそれに近いと思っています。少なくとも私は、小説を出力することがゴールだとは思っていません。

安野 ここは作家さんによってスタンスが異なりますよね。

山田 そうですね。でもAIを使うことそのものは、僕は全然否定していません。AIがたくさん出力した中から面白いものを拾い出すのも才能の一つだと思いますし、AIを使って創作活動をするなら、出力されたものがどのくらい面白いかを評価する部分が作家としての仕事になると思います。ですので、そういう方面で才能を発揮している人が面白い作品を創り出すのは、すごくいいことだと思います。

「AIがたくさん出力した中から面白いものを拾い出すのも才能の一つ」と話す山田さん
「AIがたくさん出力した中から面白いものを拾い出すのも才能の一つ」と話す山田さん

安野 商業小説の世界でも、本格的にAIを使った作品が出てくる可能性があります。最近、OpenAIのクリエイティブライティングが得意なモデルが書いたメタフィクションを読みましたが、今までのChatGPTとは少し違った感じで実際のアウトプットが出せていたので、いいなと思いました。

山田 人の営みというものも変わっていきますね。

安野 商業的に言えば、バリューをどう出すかという話だと思っています。人間が書くことに価値を見いだす読者の方もたくさんいらっしゃると思うので、その中でどういうふうに書いていくかですよね。

山田 難しいのは、僕は、小説を含めて本は必ずしももうけるために書いていないと思っていて、「売り上げが全てじゃない」と「売れてなんぼ」の間を反復横跳びしています。売れるとうれしいけれど、売れている本だけが素晴らしいかというともちろんそんなことはなくて、その基準は一つではない。ですので、「いい本を書きたいな」という気持ちと、「やっぱり売れなきゃな」という気持ちが混在しています。そういった意味でも、AIで作品が生産できるようになっても、それだけで文学が回っていくとはとても思えない。

社会的な課題提起に触れるのも小説の面白さ

安野 小説の企画を練る段階では、売れそうなテーマと自分が書きたいテーマが混在していると思いますが、それに対してはどう向き合っていますか。

山田 やはりデビューしてすぐなので、自分に何が求められているかを意識する部分は、どうしてもあります。そうした中で今は、読んで面白いかどうかが基準です。自分の書きたいことを面白そうなテーマの中でどう表現していくかですね。安野さんの『 サーキット・スイッチャー 』(ハヤカワ文庫JA)は縦糸と横糸があって、社会的な問いかけもありつつ、物語としてもよく練られていて素晴らしかったです。

安野 ありがとうございます。私も小説の場合は、読んでどれだけ面白いかが一番大事だと思っているので、とにかくそこを重視しています。この面白さの感じ方にもいろいろな「味」があって、社会的な課題提起に触れることの面白さというのも味の一つだと思っています。

「小説の場合は、読んでどれだけ面白いかが一番大事」と話す安野さん
「小説の場合は、読んでどれだけ面白いかが一番大事」と話す安野さん

山田 それで言うと、『きみに冷笑は似合わない。』はフィクションだとその味が出せなさそうだったので、ビジネス書になったのかもしれません。昨今、SNSにおいて冷笑主義がまん延しているじゃないですか。嘲笑とか揶揄(やゆ)とかって、僕は結構ジャンクフードに近いと思っています。発したり摂取したりするのにエネルギーを使わない。エンターテインメント全般がインスタント化しているというのも前提にはあるのですが、そういう頭を使わない活動を続けて、その場では楽しい、けれどもそれを1日、1週間、1カ月と続けていった先に「何が残っているんだっけ」と考えると、すごくもったいないことをしていると思います。

 本の中でも触れましたが、斜に構えるって本当に「向き」だけの問題だと思うんです。何かを思うからそれに対して向き合っているのですが、その表現方法として少し軸をずらしてしまうのは、とてももったいないですし、何かの行動に対してレスポンスやドーパミンみたいなものがすぐに出ることに慣れてしまっているという現在のメディアの状況もあります。

安野 なるべくインスタントに、ドーパミンを出すように出すように工夫されているんですよね。

議論を深める「デジタル民主主義」

山田 そうなんですよ。あと、冷笑主義の原因の一つには社会への学習性無気力みたいなものもあると思っています。言っても変わらない、思っていることはあるけどそれを表に出してもそれで社会が変わった気がしないという気持ちって、どうしても持ってしまう。

安野 変わらないと徐々に斜めになっていく。

山田 そう。だから安野さんが掲げる「デジタル民主主義」は非常にいいなと思います。人々が発信したことが残って、皆に議論されて、それがインスタントな形で消費されるのではなく、議論がどんどん深まっていく。それはある種、冷笑主義への処方箋の一つなのかなと思っています。

安野 そういう側面は確かにあると思います。SNSにはいいところも悪いところもあって、悪いところを補完するツールにはいろいろな技術があり得ると考えています。SNSには、自分の意見と近い人のことはしょっちゅうタイムラインに上がるけど、遠い人のことは全く現れないというフィルターバブルの問題があります。前回の東京都知事選でも、私のタイムラインを見ると安野支持者ばかりになっている。そうすると誤解をしてしまう方も絶対に出てきてしまう。

 そういった中で、X(旧・Twitter)やYouTubeの議論のなるべく広いところを拾った上で全体像のマップを描くことができると、自分が見えていないところに実はもっと別の議論があるということが可視化できるようになる。都知事選ではそういうことをしていましたね。

山田 SNSの今のサービスは、ユーザーが使う時間の最大化がKPI(重要業績評価指標)の一つになっていると思うので、ユーザーにとって心地よい言葉を投げかけない理由がないんですね。それがフィルターバブルが生まれる原因の一つだと思います。

安野 プラットフォーム企業側は、お金をもうけるためにどんどんアテンション(注目)を集めて没入させるように作りたい、インセンティブ構造としてそこは変えたくないはずなんです。それに対して何か手の打ちようはあるのだろうかと考えてしまいます。

山田 本来、SNSの純粋な機能はそれだけではないですよね。デジタル民主主義において安野さんが作っているものは、ユーザーがそこにずっと張り付いていることが目的ではなくて、議論が深まることをKPIとして設計されていると思います。そのように、商業的ではないKPIを重要視するサービスが出てきて、それに対して皆に「やっぱりこれって重要だよね」と思ってもらうのが、現状を一歩前に進めるものだと思っています。

 そういう意味でも安野さんの『 1%の革命 ビジネス・暮らし・民主主義をアップデートする未来戦略 』(文藝春秋)が出版されて、ウェブ上でそこに参加していなかったとしても、書店でこの本を見つけてこういう動きがあるんだ、応援したいなと思う人が出てくることは、東京都や日本にとって非常にいいことだと思います。

安野さんの著書『1%の革命』。画像クリックでAmazonページへ
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安野 オルタナティブな議論の流れ方とか情報の流れ方にはこういうものがあるんだということ自体、想像しにくい、気づきにくいものだと思っています。ですので、まずはその一つの具体的事例として、こういうモデルがあり得るということを示すのが大事だと思って取り組んでいます。

山田 それを口だけではなく実際に世の中を変える行動につなげているのは、さすが安野さんだと思いました。

安野 ありがとうございます。

文/橋口いずみ 写真/洞澤佐智子


SNS上で蔓延(まんえん)する冷笑主義を乗り越え、AIで激変する社会を生き抜くために。「『このミステリーがすごい!』大賞」大賞を受賞した小説家、東大・松尾豊研究室出身のAI研究者、マネックスグループ取締役を務める経営者という著者の3つの視点からアドバイスする。

山田尚史著/日本経済新聞出版/1650円(税込み)